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ティーチティーチ


 朝七時、私はアラームの音で目を覚ます。液晶カレンダーには十一月二日土曜日とある。


 もう少し寝てもいいかな、と思いつつテレビをつける。もう何十年も前にテレビはネットに置き換わると言われていたが、なんのことはないいまだ健在だ。


 ネットは自分で情報を選ばないといけない。テレビは勝手に情報を流してくれる。需要はどこに重点を置くかによって変わってくる。


 私は親指の爪を噛む。悪い癖だ。いくらケラチンをとろうとも、ストレスがたまればこの通りボロボロだ。一度、ジェルネイルで固めてみたことがあったが、よりみすぼらしくなるのでやめた。


 テレビで受動的に、ネットで能動的に情報を手に入れる。


 テレビのニュースは昨日見たものの延長。おか子の事件の新情報だ。昨日、警官が言った情報とほぼ変わらない。


 おか子の死亡推定時刻は、十月二十九日火曜日。最後に彼女が記録されたのは、彼女の自宅マンション近くのコンビニだった。チキンを買いほくほくした姿が映し出されている。


 コンビニ店員が小遣い稼ぎに流したのか、テレビで放映されていた。

 

 死人には個人情報の保護はない。何十年も前から言われていたことらしいが、今でも変わらない。そして、その情報を欲する人間はたくさんいる。私も含めて。


 生前の写真が並べられる。私と行ったことがある肉料理専門店も背景として映っていた。


 どれもこれも私が知っている話ばかり。


 新情報はないのか。


 ネットでアングラなサイトを検索する。情報規制が年々厳しくなる中、やはりトイレの落書きみたいな汚れた場所は残っていた。ほとんどがチラシ(二十一世紀半ばまでにほとんど消えた紙製の広告媒体)の裏と呼ばれるくだらない情報。でもたまに、真実が混ざりこんでいることもある。


『ここ数か月なんか羽振り良かったぜ』

 

 自称ご近所さんの話。

 

 どこまで本当かわからない発言が沸いてくる中、このコメントを皮切りに次々と発言が寄せられる。


『そういや、前の被害者も金持ちだったらしい』

『じゃあ、金目当て?』

『違う違う、金じゃねえ、肉だよ』


 もしかしたら他の事件でもループしている内容だったかもしれない。

 私は、何度も繰り返してきただろうやり取りに興味がわいた。


『金を持ったのは、印税が入ったからだよ』


 印税、漫画家や小説家が本を出すと貰えるお金。


『肉のロイヤリティか。なら金も入るもんだな』


 ロイヤリティ、著作権、商標権、特許権。

 培養肉の元になるサンプルを提供することで、生産量に見合った額が提供者の口座に振り込まれる。


『ってことはここら辺かな?』

『JP H 1897776』

『JP H 1582221』

『JP H 1740021』


 並べられた数字。

 培養肉のサンプル登録番号。

 『JP』は日本、『H』は人間。


『最近、爆売れしている肉』


 肉が培養できる現代だからこそ出来る食の贅沢。


 どんな肉でもサンプルさえあれば食べることが出来る。


『昔はタブーだからかなり反対されてたらしいね』

『まあ、共食いだからね』

『でも培養っしょ? 関係なくね?』

『肉は培養できねえ時代だからw』


 培養肉、最初は牛、豚、鶏と言った家畜と呼ばれていた動物たちのサンプルを元に作っていた。今も健在であり、はずれのない培養肉として重宝されている。


 一般的に培養肉が普及しだして出てきたのは、未知の肉が食べたいという欲求。


 パンダ、ライオン、トラ、トキ、ガラパゴスゾウガメ……。


 食べたことがない味、食感を求めて色んなサンプルが集められた。中には絶滅した動物の遺伝子から作る試みもあった。


 どんな肉でも食べられる。

 だがその中で食べられないものがある。


『人間の登録は一番最後だったらしいね』


 一番地球上にありふれていて、でも食べることが出来ない動物。

 それが人間だった。


 科学の発展を妨げるものとして、宗教や倫理観があげられる。

 

 もちろんすべてが悪いことではない。人が人としての営みを送る上で、宗教や倫理観が大きな役割を示していることも多い。


 だが過剰な欲求を満たそうとする人々には勝てなかった。


 ある年代を境にとある病気が流行した。発症から数年以内で死亡し、その多くは資産家だった。


『狂牛病だっけ?』


 牛海綿状脳症。

 通り名のとおり、牛が狂う病気。牛の飼料に汚染された肉骨粉が混ざったことによって発症する。

 人間も汚染された牛肉を食べることで発症し、その症状はアルツハイマーに似ている。


 極端に増えた認知症の人間を調べる中、実は原因がアルツハイマーではないことが分かった。


『クロイツフェルト・ヤコプ病と言ったほうが正しい』


 クロイツフェルト・ヤコプ病は牛海綿状脳症にかかった牛の特定危険部位を食べることによって発症することがある。つまり、狂牛病は原因となる牛の病気であり、人間が狂牛病になるわけではないと言いたいらしい。


 そして、クロイツフェルト・ヤコプ病には他に感染経路がある。


 その中で医原性、つまり医療行為が原因となって感染することがある。

 汚染された医療器具を使った場合、感染した人間由来の組織を使用した場合。


 もちろん、当時クロイツフェルト・ヤコプ病が流行した理由は医療行為によってのものではない。


 感染した人間由来の組織を使用した場合、これは捕食した場合にも当てはまる。


『昔、宗教的人食を行う部族がいた』


 身内が死んだ場合、その遺体を捕食することで弔うという。だが、その部族にはクロイツフェルト・ヤコプ病を発症する者がいた。

 

 その多くは女・子どもである。


 理由は、男が比較的上質な肉の部分を食らい、その残りを他が食べるためだ。


 狂牛病にかかった牛の特定危険部位を食べると、クロイツフェルト・ヤコプ病に感染する。


 人間でも同じなのだ。特定危険部位、異常プリオン蛋白質が含まれた脳および神経組織等を摂取すると感染する。


『異常プリオン蛋白質を摂取し、クロイツフェルト・ヤコプ病に感染する。進行が早く、一、二年で死に至る』

『こっわ』

『ってか病名長くない? ヤコプンで良くない?』


 つまり、あらゆる肉を食らいたいという美食家の間で人食がブームになった。資産家に発症した人間が多かったのは、そのためである。

 

 どういう経緯で肉が集められたのかはわからないが健康状態は良くないものが多かったのだろう。その中にヤコプンにかかった肉が混じっていたのだ。


 規制しようにも権力を持った者が率先して食べるのだ。

 中には、相手に何の肉かわからないようにしてご馳走する者まで現れた。


 もちろんヤコプン以外にも危険性はある。血液を媒体とした病原菌、ウイルスは多数いる。滅菌された肉に慣れた人類は、肉を生で食べることの恐ろしさを忘れていたのだ。


『パンデミックになるのに、そう時間はかからなかった』


 こうして、人間もまた培養肉の材料として登録されるようになったのが三十年ほど前。


『人肉って美味いとは思わないんだけど』

『そこは人それぞれ。まあ、培養されている時点でサンプルは食用に適した味と食感を選んでいるはずなのに』

『天然ものは危険だよな。病気とか持ってそうだし』

『天然にこだわる宗派もいるんだよ。今だ動物をペット以外で育てている奴いるって話。んでもって天然食わせろって団体行動してるやつら』

『わお、ざんこく~。ばいようにくはこくみんにあたえられたけんりー』

『文句言うなら海外行けっての』


 話がそれまくっている。私は流し読みしながら、石ばかりの中の玉を探す。


『しかしロイヤリティ貰ってた有名肉サンプル者だったとして、どうやって特定したんだろうな』

『そこそこ、関係者じゃね?』


 私は、スクロールする手を止めた。


 どうやって?


 地名は国籍までしかわからない。

 現在の日本の人口は、一億と五百万人。


 私は、そこから攻めることにした。



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