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 かぼちゃかぼちゃかぼちゃ。

 

 街中はハロウィンの装飾でいっぱいだ。

 私は疲れた顔で会社から帰ってきた。


 今日は散々だ。友人の死を聞いてただでさえ落ち込んでいるのに、警察がやって来た。

 

 なぜ来たかと思えば、簡単な事情聴取だった。


 理不尽な話だ。私はニュースで初めて知った。おか子が死んだことを。なのにこうして私の元に警察がやってくるので、上司や同僚が変な目で私を見る。散々だ。


 なぜ私の元にやってきたのか。

 おか子は地方出身者だ。友人知人の多くが地方にいる。

 逆を言えば、彼女の現住所の周りには親しい友人知人は少ない。


 私が最後に彼女にあったのは五月半ば。今から半年近く前の話だ。

 

 彼女とは絵の趣味を通じて知り合い、たまに食事して駄弁る仲だ。お互い社会人であり休みが合わなければ会うこともない。距離感がちょうどよく、年に数度あってはまたそのうちと別れるのがいつものパターンだ。


 そして、彼女と会う場合、大抵肉料理専門店に行く。


「肉はお好きですか?」

 

 もう少し引っかける内容でもいいだろうに。ストレートすぎる。


 私とおか子は肉が好きだった。肉好きの私が彼女に対して食欲がわいたとでも言いたいのだろうか。


 あまりに短絡的で浅はかな推理に嫌気がさした。


 ネット上では『神絵師の肉を食えば絵が上達する』という話が回ってくるが、まさか信じているのではなかろうか。


「何が言いたいのかわかりませんけど、彼女に関しては私も残念に思っています。もし、冗談であったとしても許される発言とは思いません。事件発生時刻に私がどこで何をしていたのかはっきりしていれば問題ないでしょうか?」


 私の意見はこれだけで十分だ。


 生憎、事件発生当時、仕事は繁忙期。始発から電車に乗り、終電で帰る生活が一週間続いていた。残業手当はすべて肉に換えてやるという気持ちだけで乗り切ったのが昨日だ。

 おか子の家は同じ都内にあるが、私の家とは反対方向。会社から抜け出そうにも、私が抜け出せる隙は無い。

 

 私が通勤に使っている定期の記録にも、家と会社の往復しか記録されてないはずだ。マンションの鍵の開錠記録も確認するといい。


 もし、私がおか子を殺した犯人だったとして、深夜十二時過ぎに帰ってきて、朝の七時前には会社のタイムカードを押している。この間が死亡推定時刻ですか? と確認した。


「はははっ。つまらない冗談を言ってすみません」

 

 私はいらいらしていた。昨晩はようやく人並の睡眠がとれて落ち着いたかと思ったら、今朝のニュースを見て飲んでいたオレンジジュースを吹き零した。


 おか子が自宅で惨殺された。

 肉体の一部は持ち去られていた。


 最近騒ぎになっている連続食人事件の可能性が高い。


 疲れた顔で応答し、警察がどこか不満そうにして帰ると、上司が私の肩を叩いた。


「もう帰っていいよ。お疲れだろう。明日は久しぶりの休みだし、ゆっくりするといい」

 

 空気が読める上司でありがたい。同時に、同僚たちの目はほんの少し好奇心が浮かんでいる。

 

 ここのところお茶の間を賑わせている連続食人事件。その情報源はネットとテレビのニュース。

 視聴率にしても閲覧数にしても数がとれる。すなわち、皆興味津々なのだ。


 私は、上司のお言葉に甘えて帰っている。

 

 華やかな街の装飾なんて、今は目の毒と言わんばかりに家に帰る。マンションの入り口で指紋認証を行うとさっさと部屋に入ってベッドに倒れこんだ。


 おか子が死んだ。


 私は枕に顔を押さえつけた。くぐもった声が漏れる。


 誰だ、彼女を殺したのは。


 誰だ、彼女の肉を持ち去ったのは。


 思考がはっきりしない。まだ情報に頭が追い付いていないのだ。ここ一週間の睡眠不足も確実に体力と思考能力を低下させている。


 今は寝よう。


 寝たら、食事をとろう。

 カロリーなんて関係なく、家にある肉という肉を食らおう。


 美味しい肉は活力になる。


 彼女が誰に殺されたのか。

 それをはっきりさせるために。



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