8.夢から覚める
「翔くん!早く起きないと 電車に乗り遅れるわよ!」
「やっばっ ギリじゃん!」
慌てて着替えをすませ、洗面台で顔を洗った。時計を見ると既に7時20分 35分発の電車に乗るためには朝食を摂る余裕はない。
「じゃぁ 行ってくるから」
「おはよう、父さん。今日は朝食抜きなの?」
「おはよう、お父さん。いってらっしゃーい」
中学2年生の長男と、小学5年生の長女は朝食を食べながら、慌てて出て行く父を見送った。
「ねぇ お兄ちゃん・・・ 今のお父さんだよね?」
「あぁ 父さんだったけど・・・」
「ただいまー」
「お帰りー 」妻と娘からの返事が返ってきた。
「今日は久々に早い帰宅ね!」
「あぁ 今日無事納品できたからね。 しばらくはゆっくりできそうだ。 取り敢えずシャワー浴びてくるね」
シャワーを浴び、シャツとパンツ姿で出てきた翔を見た二人は顔を見合わせた。
「いつのまにか痩せた? 顔もなんだか若返った様な・・・・シュッとしちゃって」
毎日見ていたはずの亭主の顔つきや躰つきがいつのまにか変わっていたことに気づかなかったのが恥ずかしそうに妻が聞いてきた。
「ジムか何かに通ってるの? もしかしてライザップ?」
「いや 特に何にも・・・それより仕事忙しかったし。 会社でもやたらといつもと違うって言われたんだよ。たしかにトイレで鏡を見たときに、ちょっと痩せたかなって思ったんだけど・・・で、今さっきシャワー浴びてたら・・・」
言いながらシャツをめくり上げると、そこには見事なシックスパッドが現れた。
「すごーい」
「だろー 。 お父さんも見てびっくりしちゃった」
筋肉隆々ではないが、引き締まった肉体は、肉食獣でいうジャガーの様なしなやかさが感じられる。
娘はお腹をペチペチと叩きながら凹んだお腹を喜んでくれた。
「その体型が維持できるといいわね」
妻もこの変身は歓迎の様だ。原因はよくわからないが、自分でも昔に戻った(若返った?)様で悪い気はしない。このところずっと深夜帰宅が続いていたため、自分自身に変化が起きている事に気づく事も出来なかったと反省してしまう。
家族みんなで食事をすませテレビを見ていると、ニュース速報が入ってきた。
『安倍総理大臣が都内の病院へ緊急搬送』
再びニュース速報が飛び込んできた。
『麻生財務大臣が都内の病院へ緊急搬送』
「二人揃って緊急搬送って そんな事あんの?」
「テロとかじゃ無いよね・・・怖いわね」
日本にとっては一大事な事件だとは思うが、我々の生活が影響があるかと言えばたいした事は無い。大事に至らなければ良いなと思いながら、再び意識はテレビに戻った。
いつの間には時間は経ち、今朝の失敗を反省し早めの睡眠をとることとした。