33.再び
満点の星空の下、ナベとカオルが率いる20人の探求者達が決戦を前に立ち上がった。
そう。ここは聖墳墓教会地下の24層である。
ナベは大司教が起こした一件の事後処理を手早く片付けて、当初の計画から遅れる事5日で24層へのアタックを決行したのだった。
「よし、みんな準備はいいか?」
「腹も満たされたし、いつでも行けますよ」
ナベの声にツヨシが応えた。
今回24層にアタックする20名は一人を除き転生者組で構成されている。ギルドでの実力上位者からの選抜と、最近ギルドに加入した銀次、そして司教のトーマスだ。
トーマスは隠密のスキル持ちであり、万一の時は敵に気付かれずにギルドへ帰還して情報を伝達してもらう役割を頼んでいる。
「そうか。今日の戦闘では、お前達の浄化のスキルが鍵だ。何百何千のアンデッドが涌いてくるが、へばるんじゃねぇぞ」
何百何千と聞いて若干ひきつる顔を見せたのがツヨシ。
ーーーツヨシーーー
クラス:聖騎士
レベル:30
スキル:神聖魔法(五)・身体強化(中)・剣術(中)
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今回のチームに聖騎士のクラスを持つものは二人。もう一人はツヨシの横にいるアミィ(本名:亜美)だ。
ーーーアミィーーー
クラス:聖騎士
レベル:30
スキル:神聖魔法(六)・身体強化(中)・槍術(高)・捕縛(低)
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その他前衛組の内、5名が剣術スキル持ちで、1名が槍術となっている。槍術スキルは何故か女性しかいない。
因みに、転生者であってもクラスやスキルの詳細は伝えていない。所詮はその時点での情報に過ぎないし、「君は聖騎士だ!」と言ってもこの世界の聖騎士になれるわけでは無いからだ。
ナベはあくまで適正のある方向へ皆んなを導くことに徹していた。
後方には、カオルとツッチー(本名:土屋)の魔法使いが加わる。
ーーーツッチーーー
クラス:魔術師
レベル:25
スキル:火属性精霊魔法(八)・料理(高)・魅惑(低)
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そして、俺(=ナベ)は司令塔として傍らに銀次を置き、索敵スキルで敵の状況を把握し、全体の指揮を取っている。
そして、さらに後方から隠れる様に追従してきているのが、トーマスを加えた攻撃魔法、回復魔法、補助魔法の部隊だ。敵に気づかれず戦闘に突入できれば、いざという時にアイツが動揺した隙をつく事もできるだろう。もっとも、レベル30クラス8人で当たるのだ、出番があるとは思えない・・・。
ここまでは、何事もなく進んで来れた・・・ここまではかつて通ってきた道。ここからは未知の領域であり、前回は全く届かなかった存在への挑戦だ。だが、行けるはずだ!
見覚えのある草原。 そろそろ始まるだろう・・・。
足元に靄が広がってきた。
「来るぞ!」
「聖なる加護」
「爆炎の壁」
カオルとツッチーがほぼ同時に魔法を発動する。
熱風で霧が拡散されるとそこには漆黒の衣を纏った奴が立っていた。
『待ちわびたぞ・・・ふむ、勇者の姿ぬ様は無いか・・・』
「そうがっかりすることはない。勇者は居ないが、貴様も満足するはずだ。 夢を叶えて成仏しやがれ、 かかれ!」
既に戦闘態勢に入っていたツヨシとアミィはリッチに斬りかかった。
リッチはそれを予測していたのか、ヒラリと交わすと漆黒の衣を脱ぎ捨てた。
衣の下は裸の骸骨ではなく、銀色に輝くフルプレートの鎧を身にまとった戦士の姿だった。
「貴様・・・魔導師では無かったのか・・・」
ナベは僅かな綻びに危険を感じていた。
『人を見た目で判断してはいかんなぁ?』
「アンデットが人を騙るか!」
ツヨシとアミィは斬りかかっるが、リッチは二人相手でも難なく捌き、傷ひとつつけることができない。
「天使の翼刃!」
アミィの掌から無数の羽が放出されたかと思うと一直線にリッチに襲いかかった。
リッチは剣で薙ぎ払うも、圧倒的な物量の前にその四肢は刃で切り刻まれた・・・はずだった。
『中々やるでは無いか・・・アンデットに神聖系の魔法はちと堪えるわい』
そう言いながらも余裕が感じ取れた。
それもそのはず
刃を受け、多少の傷を受けているものの鎧には傷ひとつついてない。
「その鎧は厄介だね」
『いい鎧だろう? 勇者の為の鎧だからの』
「!!!」
ほぼ同時にナベはリッチのステータスを確認していた。
ーーーロード オブ リッチーーー
クラス:元勇者
レベル:30
スキル:神聖魔法・剣術・身体強化
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「なっ・・・勇者だと!?」
リッチから一定の距離を保ち全員がナベの様子を伺っている。
「落ち着け! レベルは俺たちと同じ30だ・・・例え元勇者であっても倒せるはずだ!」
『・・・すまぬな・・・お前に見えるのはレベル30迄だ。 儂のスキルは見えてもレベルは見えぬであろう? それが儂が貴様よりも高レベルである証よ! フハハハ・・・』
「クッ! だが、勝負はやってみなきゃ判んねぇぜ?」
『名将は退き際を知るものだぞ? 黒影の捕縛!』
リッチの足元から、8匹の黒き蛇が生えてきたかと思うと、ナベ達に襲いかかってきた。
ナベは蛇の攻撃を躱しながら、拳を打ち込む。だが、倒すには至らない。
「オラオラオラオラ〜」
炎を纏った拳を何度も打ち込み、ようやく黒き蛇は塵となって霧散した。
「前回と違い、実体のある蛇かよ・・・厄介な奴だ・・」
ナベが周りを確認すると、聖騎士の二人は既に倒しており仲間の救助に向かっている。
向かう先には前衛一人であるサクラが倒れ痙攣している。黒き蛇の攻撃を受けて、毒に侵されてしまったのだ。剣術と異なり小回りが利かないのが仇となったようだ。
「解毒魔法」
カオルが魔法を発動する。痙攣は治ったようだが、すぐには動けない。
ツヨシは、黒き蛇を攻撃しつつ、サクラの回復を待った。
リッチは黒き蛇のコントロールに集中している為か、他の攻撃は行ってこない。
(今がチャンスか?)
ナベは縮地を使い、一気にリッチとの距離を詰める。
そして・・・「爆炎の剛拳」渾身の拳がリッチの顔面にヒットし、その瞬間弾けるような爆発とともにリッチは吹き飛んだ。
だが、それで終わったわけでは無い、ナベは更に縮地で追撃。土煙の上がるリッチが倒れているであろう場所へと向かっていった。土煙の向こうから ボン、ボォン、ドゥオンとミサイルでも撃ち込まれているような爆発音が次々と鳴り響き、土埃の合間から漏れ出す炎が、更に戦闘の激しさを映し出していた。
ナベが矢継早に攻撃しているのは、勝算があってのことでは無い。仲間が体勢を整えるまでの時間稼ぎに過ぎない。そのため、サクラを含む仲間が戦闘体勢に入ったのを確認すると、直ぐに前衛部隊とスイッチし、後方へと下がった。
『見事な連携だ・・・隙をついて追撃してやろうと思っておったが、阻まれるか」
そう言葉を発するリッチは間髪入れずツヨシとアミィと斬撃を重ねている。
先程まであれほどナベにタコ殴りにあっていたにも関わらず、その姿に変化は感じられない。
だが、休まることのない攻撃は、いかに疲労知らずのアンデットであっても少しずつ誤差が生じてくるはずだ。
リッチは決して一人では無い。常にアンデットが地中から這い出し、周りからは眷属の魔物が集まって来ている。だが、それらアンデット達はカオルにより浄化され、他の魔物達もサクラ達前衛達が抑えているため、リッチは孤立した格好となっている。
パキン!
金属の乾いた音が響くと、リッチの手にある剣が根元から無くなっていた。
『剣が耐えれなかっただど? ・・・聖剣では無いにせよ、これ程とは!』
リッチは残った剣の柄を放り捨てると再びその手に剣が現れた。
「!」
『期待させて申し訳ないが、この手の剣は幾らでもある! 』
そう言うとリッチは斬撃を繰り出した。
ツヨシとアミィと交代したナベは素早くポーションをで疲労を回復したとき、カオルから声をかけられた。
「ナベさん、そろそろ後衛の部隊の出番では無いでしょうか?ツヨシさんもアミィさんへの援護が必要では無いでしょうか。」
カオルの言葉に頷くと後衛へ合図を送った。
後衛の魔法部隊が姿を現したところで陣形が整う。
これまで対アンデットとして動いていたカオルに変わり、攻撃魔法部隊が対処にあたる。
そして前衛のツヨシ達には補助魔法部隊が支援し素早さ、耐久力、攻撃力がアップし、斬撃が一層激しさを増す。
だが、状況は変わらない。有利に進めれる筈だがそうならない。
明らかにリッチの動きが先程までより良いのだ。
「なぜだ? なぜ魔法で身体強化した俺の動きについてこれるんだ?」
一向に好転しない状況にツヨシは苛立っていた。
「交代だ!」
リッチとツヨシが鍔迫り合いとなったのを見計らい、リッチへと拳を繰り出した。
ボン!
炎を纏った拳がリッチの顔面を捉える。衝撃で一直線に飛んでいき土煙が上がる。
「まったく硬てぇ野郎だ。 カオリちゃんまだか?」
カオリは既に魔法の詠唱を終えている。カオルの頭上には幾重にも魔法陣が展開されており発動の為の魔力が注がれ続けている。
「もう少しです。もう少し時間をください!」
「アミィ! カオルを何としても守り抜け!」
ナベはそう言うとリッチの飛んで行った方へ駆け出した。
「アミィさん、ツヨシさん! 私は大丈夫ですので、ナベさんの応援へ行ってください」
既に魔法を発動したカオルの周りには魔法の防御壁が構築されている。この防御壁は物理・魔法共に高い防御力がる。中位魔法位であれば無効化できるほどだ。
それを知らないアミィとツヨシだったが、カオルの涼しい顔を確認するとナベの方へと駆け出した。
リッチの目にもカオルが魔法を発動しているのは見えていた。
少し前までであれば、目の前の3人を振り払い魔法を止めることもできたが、今は違う。
辛うじて3人を相手しているが、余裕があるわけでは無い。外傷は目立たないが着実に体力は削られている。
(・・・またしても我を 焦らせるものが現れるとは・・・フッ)
斬撃を重ねること10合くらいだろうか、ようやくその時は訪れた。
カオルを中心に光が四方八方に伸び、壁が立ち上がるそしてカオルの頭上で収束しフィールドはドームに覆われた。
聖域結界である。
地面には極大の魔法陣が描かれ光が溢れ出ている。
その地面からはアンデットは生まれない。魔物も壁に阻まれ近ずけない。
そしてリッチは・・・
斬撃を繰り出し、タイミングよく後ろへ後退する。自分の体に起きた変化を確認する。
『改めて自分がアンデットだと思い知ったわ。 だが、この程度はハンデの様なもの。ゆくぞ!』
その言葉とは裏腹に負のオーラは弱々しく、その動きにもキレはない。
リッチが膝を付いた。鎧は傷一つないものの、リッチの骨だけの体は黒くくすみ斬撃を受けた傷が無数に刻まれている。既に勝敗は決していた。だが、リッチは諦めなかった。いや、寧ろこの状況を楽しんでいた。
そして、立てなくなるまで剣を振り続けた結果が今だ。
動くのを諦めたリッチに向かってナベは問いかけた。
「お前には聞かなきゃならないことがある・・・。翔はどこだ?」
『仲間を取り戻しに来たか・・・。だが此処には居ない』
「何処にいるんだ! 答えろ!」
ナベが今にも倒れそうなリッチに向けって尋ねた。
『我も知らぬところよ。 生きておればその内戻って来よう・・・生きて居ればであるが・・・』
リッチは腰下ろすと目の前のナベを見上げた。
『楽しかったぞ。 我を打ち倒したお主に勇者の称号をやろう。既に軍神なる文字も見えるが・・・あるに越したことは無かろうて。 我はこれで役目を終えるが、この地下墳墓は火の精霊の加護を与えてくれるじゃろう。』
リッチの言葉に反応したのか、火蜥蜴が一際大きな姿を現しリッチを見下ろす。
『汝の願いは聞き届いた。安心せよ勇者スサノオよ』
骸骨の顔が微かに笑ったかのように見えた。リッチの躰は少し前から砂が舞うように少しずつ崩壊へと向かっている。
『お主らの友は・・・』
(言いかけて止まんじゃねぇ!)
『運命は自身の手で切り開かなければならん。その為にも更に力をつけるのだ。勇者よ!』
そう言い残し、リッチ=スサノオは塵となり消えてしまった。
「おい、サラマンダー。 リッチは知り合いだったのか?」
『・・・この墳墓の主人だしな』




