32.大司教の逃亡
カオルと銀次は、トーマスに案内され謁見の間へと来ていた。
ナベとも合流し、王都の無事を確認したところで、国王陛下への謁見が許された形だ。
「此度の働き、誠に大儀であった」
カオルと銀次が来た時には既に、事態は収拾されており、特段礼を言われる覚えも無かったのだが、
王都の側からすると、解放の切っ掛けとなった功労者との事だった。
解放までの経緯としてはこうだ。
銀次が飛び出した時、謁見の間の全ての人間が身動きが取れない状況に陥った。
だが、そのおかけで、銀次は難なく門から逃げる事ができた。
大司教は直ぐに追っ手を差し向けるべく、貴族に私兵を向かわせる様に命令した。
銀次を知る者は少ないものの、大司教とその取り巻きはここ迄の旅の中で顔見知りだった。
大司教は神父の一人に兵士とともに向かう様に指示をだし、直ぐに向かわせた。
神父は兵士とともに銀次を追い王都を後にした。暫く街道を進んだところで、ふと我に返った。
(なぜ私はこんな所にいるのか・・・)
神父は街道を進みながら現状を整理すると手綱を引き、馬を止めた。
「神父様、どうされた?」
兵士たちも馬を止め、神父の元へと駆けてくる。
「少し、お聞きしますが・・・あなた様の主人はどなた様でしょうか?」
兵士は、首を傾げながら神父の問いに答えた。
「私たちはロレーヌ家の者です」
「では、大司教の指示とロレーヌ伯の指示であれば、どちらを優先されるのしょうか?」
「大司教とはどなたの事を言っておられるかわからぬが、我らはロレーヌ伯爵の兵であればその命に従うのみ」
兵の言葉を確認し、大司教の影響を受けていないことを確認した。
「申し訳ないですが、一度王都へ戻ろうと思います」
「! 」
「我々は、賊を追う様に命じられている。神父様しか顔が分からぬ以上、ついて来てもらわねば困る」
「実はあの者は聖墳墓教会の探求者ギルドに属する者でして、恐らくそこに向かったものと思います」
「ですが、問題はそちらではなく、王都の方にあります」
神父は、兵士に知る限りの状況を説明した。だが、兵士も素直に信じるほど馬鹿ではない。
そこで神父は兵士達にはそのまま命令に従ってもらい、自分のみ王都へ戻る事を提案した。
「もし、神父の話が本当ならば一人では難しかろう・・・私も同行しよう。お前達は、暫くこの辺りで待機だ」
神父と兵士は王都へと戻り、王宮へと戻った。
半信半疑であった兵士ではあったが、仮に本当で会った場合の王宮奪還がかなり難しいであろう事は承知していた。だが、まずは真偽を確かめなければならない。
兵士は一人王宮にいる主人の元へと向かう。叱責は受けるであろうが、ここで重要になってくるのはギルドマスターの存在だ。逃走者がギルドメンバーである事からギルドへ潜伏する事が予想される。争いなく捉えるためにも、ギルドマスターの協力を仰ぎたいと提案すれば自分たちの主人であればある程度理解は示してくれるであろうと考えていた。 洗脳されていなければ・・・だが。
王宮にて主人に提案した後、あっさりとギルドマスターの同行が認められ、王宮を後にした。勿論兵士は叱責を受けたが、それ以上に王宮の状況が異様である事から神父の話が本当である事を確信した。
神父、兵士、ギルドマスター=ナベの3人が王都を離れ街道を馬で駆けていく。
(そろそろか・・・)
神父と兵士がナベの様子を伺う。
しばらくするとナベの馬の速度が落ちた。
「どうされました?ギルドマスター殿」
兵士がナベに問いかけた。
「・・・いや・・・俺は何してんだ?」
「正気に戻られましたか? ナベさん」
「神父・・・大司教の奴にまんまと嵌められちまったぜ・・・」
ナベは神父と兵士に話を聞くと王都奪還の作戦を立てた。
原因は王笏。一定の距離までしか影響は届かない・・・声が届く範囲の様だ。洗脳状態になっても一定範囲を離れると解除される・・・但しかなり広そうだ。
「まずは耳栓だ。奴の声を聞かなければ洗脳される事は無い。あと、消音魔法が使える者が居ると良いんだが・・・王宮内の者達を動かされると厄介だからな・・・貴族を殴る訳にもいかんしな」
「魔法の方は心当たりがある、王都にいるロレーヌ家所属の魔術士が使えた筈だ」
只の一般兵かと思っていたが、どうやらロレーヌ家の兵士長だったらしく、通常秘匿とされている事に関してもある程度把握していているとの事だった。
ナベの動きは早かった。銀次を追うために編成された兵士を王宮の各所に配置。勿論耳栓済みだ。
そして、魔術師と兵士長を伴い謁見の間へと歩む。
「止まれ。用件は何だ?」
ナベは歩みを止めず、衛兵に答えた。
「国王陛下の命で逃亡者を捉えて来た。 通るぞ」
勿論、ナベの耳に衛兵の声は届いていない。
「お前た・・・」
そのまま、大司教の下まで歩みを進め、消音で大司教の声をかき消す。
ナベは大司教を捉えようと飛びかかったが、目の前に赤毛の美女が立ちはだかる。エルザだ。
エルザの剣戟を籠手で防ぐもエルザに攻撃するわけにもいかず攻めあぐねる。
その間に兵士長が大司教へと迫った。既に魔法によって王笏の効果が阻害されている事にきづいた大司教が素早く逃亡へと行動を移していたが、それに気づいた兵士長が脇目も振らず向かっていったのだった。
しかし、寸でのところで兵士長の前にも別の貴族が立ち塞がり、大司教の逃亡を防ぐ事ができなかった。
王宮の周りに兵士を配置していたが、結局王都から取り逃がしてしまう結果となってしまった。
可能であれば王笏を奪いたかったところだったが、全員無事に救出できた事で最悪の状況は脱する事ができたのだった。
そして、神父が逃走して暫く経つと謁見の間にいた貴族達も正気を取り戻した。
「・・・と言う訳だ。大司教のことは、近隣の街へ書簡を送ってもらっており見つけ次第、捉える手はずとなっている」
「ナベさん、大事に至らなかったから良かったものの、とんでもないものを創ってくれましたね」
キッと冷たい目でナベを見るカオル。
「全く、申し訳ない。 国王陛下を含めたここにいる全てを方々を危険な状態に晒してしまった」
「まぁ、カオル殿、彼が創ったのは事実ではあるが、彼も利用されたのだ。 それに、彼がいたからこそ我々はこうして無事に生きておる。それで彼の罪は帳消しとしようと言うのが儂の考えじゃが・・・どうか?」
国王自らカオルにそう問いかけてきた。
周りの貴族達も今回の一件が彼のせいでない事は分かってはいるが、元凶となる物を創ってしまった責任は取らせられるものと考えていた。最悪は彼の死をもってだ。しかし国王は、全てなかった事にすると申し出てきたのだ。これに関しては、貴族達も些か不満の声も上がった。
「彼があの王笏を創ったのは確かだ。しかし、それを以って彼の者の罪としては、貴重な人材を失する事になるのでは無いか?それに王笏そのものが悪なのではなく、それを使うものが悪であったのだ。ナベよ、今後あのような精神支配をする類の物を創る事は禁ずる。よいな」
「はっ。国王陛下の恩赦に感謝いたします。誓ってあの様なものは創りません」
翌日、ナベ達一行は王都を後にした。




