30.銀次帰還す
銀次はとにかく走った。此処で捕まるわけには行かない。
路地を曲がり、宿に着くと持てるだけの荷物を抱えて宿を立った。
大司教には素性がバレている。直ぐに追っ手が来るだろう。急がねがば・・・。
宿の厩舎につないであった馬を拝借し、帰路を急いだ。
「直ぐに戻る。馬を借りるぞ!」
返事を聞くつもりは無い。金貨の入った小袋を投げ、馬を駆った。
途中、馬を乗り換え、丸2日かかって漸く街が見えた。
門番も制止も振り切り聖墳墓教会まで馬で駆け抜けた。
後ろから衛兵が追って来るが、そんなのは関係ない。大聖堂を走り、教会の執務室の扉を叩いた。
「銀次さん・・・どうしたのですか?」
「そんなに慌ててどうしたのじゃ?」
「た、大変な事が起きました・・・」
息を切らし、銀次は言った。
「一体何が起こったというんだ」
司祭は、銀次の背中を摩りながら問いかけた。
「だ、大司教様が、王宮にいた人達を洗脳して・・・」
「洗脳じゃと? 大司教様が・・・」
「は、はい、 マスターが造った王笏が・・・献上用に造った王笏に洗脳の効果があった様なのです・・・」
「もう少しのその時の状況を聞かせて!」
カオルが銀次を問いかけた時、扉から衛兵達が突入してきた。
「侵入者を捕らえよ!」
衛兵が、銀次を拘束しようとする。
「止めるのじゃ! この者の身元は儂が保証する」
「しかし・・・」
「司祭様、これからお話しする内容は、この街を守る衛兵殿にも知ってもらった方が良いと思いますが?」
少し考えたのち、もっともだと隊長らしき衛兵のみ残ってもらうこととなった。
銀次は、王宮で起こった出来事を話した。気づいた時には、国王が跪いており、三公が抗おうとするもことごとく膝を屈したこと。マスターが異常に気づき、自分をカオルの元へ向かわせた事。そこから丸2日かかってここへたどり着いたことを話した。
「なるほど、お主が急いておった理由は分かった。だが、その場にいた者が悉く洗脳されたのに、なぜお主は洗脳されておらぬのか? もしやお主が我らを謀っておるのではあるまいな」
衛兵は銀次を完全には信用していない様子だ。
「ちょっと待っていてもらえますか?」
カオルはそういうと扉の外へ出ていった。
暫く待つと、カオルは戻ってきた。そして、銀次の方を暫く見つめていた。
「どうしたんですか? なんか俺を疑っているんですか?」
「えっ? いいえ違います。 うん、なるほど。銀次さんが洗脳されなかったのは、スキルのおかげかな」
「スキル・・・ですか?」
「銀次さんは自分のスキルを知らないの? 鉄壁の心って言うんだけど・・・」
鉄壁の心、藤岡達と行動を共にして尚、折れなかった心。最後まで自分の意思を通し続けることで身についたものなのか、それとも産まれながら持っていたのか・・・それは神のみぞ知る。
「しかし、ギルドマスターならまだしも、貴方も読めるのですか?」
衛兵はカオルに尋ねた。ギルドマスターがレベルやスキルが読み取れることは有名だが、カオルが読み取れるとは聞いたことが無かった。
「ギルドマスター程ではないですが、神のお力を借りることで、スキルくらいは何とか」
カオルは手をさりげなく隠し続けている。その指には、ナベの部屋から取ってきた指輪が嵌められていた。
「左様ですか! では、銀次殿の疑いが 晴れたとして、王都の方はいかが致しましょう」
「いくら銀次さんが馬を飛ばしてきたと言っても、軍隊が追いつけないとは考えづらい・・・と言うことは、なんらかの事情で動けない・・・ううん、動かせないと見るべきかも知れません」
「動かせない?」
「えぇ、洗脳できる距離なんかがあるんじゃないですか?」
「なるほど、それであれば納得がいく。では、皆を救出するには王都へ乗り込むしかないと言うことか。だが、この街の衛兵を集めたところで、100人が良いところだろう」
「では、私の方は探求者を募ります。精鋭50名程は集まってくれるでしょう」
「よし、儂の方からも探求者への救済を求めよう。大義名分にはなるじゃろうて。 あとは、各地の司祭にも助けを求めるとしよう」
銀次はカオルに教会内の休憩所で体を休める様に勧められ、一足先に部屋を後にした。その後、カオル・衛兵もそれぞれの準備の為に、部屋を後にした。
「よもやこの様な事になろうとは・・・儂の失態じゃ」
司祭は窓の外を見つめながらそう呟いた。




