29.即位10周年記念式典
今、俺は、王宮の謁見の間にいる。
今日は王の即位10周年の記念行事に参列の為、ギルドマスターとして銀次を連れやってきた。
王都までは、聖墳墓教会の大司教一行も一緒だったのだが、今は別行動だ。
玉座には王がおり、先程から入れ替わり立ち替わり来訪者が挨拶に訪れている。
俺も少し前に挨拶を済ませたところだ。もちろんお土産は必要だった。
無駄に広い空間も、次第に埋め尽くされてくる。
そこへ大量の献上品を提げた貴族が玉座の方へ進んでいるのが見えた。
貴族の中でも特に力を持つ王国三公の一人アーレンベルト家の当主、エルザ女公爵である。
30代半ばのエルザは、居並ぶ貴族の中ではかなり若い部類に入るが、その威風堂々たる姿はまさに大貴族のそれと行った所だ。
それもそのはず、女性でありつつ文武両道に優れ、若い頃から戦場に立つ事を常としていた。彼女は決して一騎当千の武人ではない。彼女の類稀なその才能は、指揮能力である。羊のごとき雑兵だった兵士に、屈強な兵士の心を宿らせ戦いに送り出す。戦場では、彼等を巧みに操り瞬く間に戦場を掌握。多少の戦力差は、彼女の戦術によって簡単にひっくり返されてしまう。近年では、常勝の戦乙女としてその名を近隣諸国に轟かすに至っている。軍事力では、三公の中でも抜きん出ていると言われている。
公爵家に男児がいなかったわけでは無い。あまりにもその器量の違いから、彼女が家督を継ぐ事となった。
長兄のエドガーの妬みによるお家騒動が懸念されていたが、エドガーには全くその気がなく、家中の争いに発展することはなかった。
そうこうしている内に、客足も途絶えてきたようだ。
(そういえば司教達を見かけて無いなぁ)
「銀次、大司教の気配はわかるか?」
「大司教様は・・・もうすぐ入り口に到着される所です」
(まだ来ていなかったのか。 三公よりも遅いとは・・・大丈夫か? まぁ教会は王国所属じゃないかならぁ)
銀次が行ったように、すぐに大司教一行は現れた。
三公の様な仰々しい貢物は見当たらない。おそらく大司教が手に持ったそれが祝いの品なのだろう。
俺はそれが何なのか知っている。俺自身が造った物だから。
大司教に頼まれ造った魔法の王笏。我ながら、その出来栄えには満足していた。今、王が持つ王笏にも負けない一品に仕上がっていると自負している。
大司教が王の前で跪き、王に何かを話している。おそらく祝辞の一つや二つ述べているのであろう。
それを横目に、入り口付近(下座)の方へ下がっていった。
そもそも貴族の集まりなど俺には合わない。できれば早々に引き上げたいと考えていた。
そしてそれは唐突に起こった。
玉座の方から悲鳴が上がり、振り向くと玉座の前には大司教が立っており、玉座に座っているはずの王が跪いている。
(何が起こったんだ!)
「衛兵! 奴を捕らえよ!」
そう叫んだのは、三公のアーレンベルト公爵。 衛兵が大司教を取り囲み、公爵に向け槍を構えた。
だが大司教は慌てる事なく、王笏を掲げ・・・「止まれ」。
衛兵は槍を構えたまま立ち止まっている。
「何をしておる! 奴を捕らえよ!」
公爵から檄が飛ぶ。しかし、衛兵達は動かない。
「貴様! 何をした!」
アーレンベルト公爵が、玉座へと詰め寄るが、またしても大司教を王笏を掲げて「落ち着け」と。
公爵は詰め寄る足を止め、呆然と大司教を見る。
「アーレンベルト卿、落ち着いたかね? 王は、私こそ王に相応しいと仰った。 貴方も私こそが王に相応しいと思いますよね」
王笏を掲げながら大司教は公爵へ迫った。
「貴方こそが王に相応しい・・・」
「ふふふ・・・・あはっはっはっは・・・」
謁見の間に響き渡る高笑い。
三公残りの公爵は意を唱えるべく玉座に歩み寄るが、またしても大司教にの問いに跪き恭順の意を示した。
ナベはその様子を伺い、自分がとんでもない物を造ってしまったことに気づいた。
(あの王笏は洗脳の為の物だったのか。 たしかに精神安定や、王の声をより届ける効果は付与したが・・・あの模様か!)
ただの装飾だと思っていたものが、とんでもない物だった。
「銀次、お前はすぐにカオリのもとへ急げ、大司教が俺の造った王笏で国王と公爵を洗脳した。もしかすると此処にいる全員を洗脳するかもしれん。急げ!」
銀次は、人混みをすり抜け入り口へ向かった。
その動きに気づいた大司教は、王笏を掲げ、「皆の者、その場から動くでない!」
銀次が入り口に向かうのを見て追従しようとした数人は、その場で立ち止まった。
だが、銀次は大司教の言葉に従う事なく外へと飛び出した。
入り口を警備していた衛兵は、微動だにせず銀次を見送った。




