26.盗賊討伐 その1
いつもの様に、ここ《おっさん亭》にナベは居た。
翔が居なくなってからも毎日通っている。カオルは時々情報交換を兼ねてやってくるがほとんどは一人だ。
そして今日は、カオルも来ている。
「状況はどう? 」
カオルが問いかけて来た。
「この一ヶ月で 皆んなかなり成長してくれた」
「ほぉ そいつは良かった。確かにここ最近うちに来る奴らのオーラは凄えな。 じゃぁ、いよいよか?」
彼、アランもまた翔の行方を気にかける一人だ。あれから半年以上経つが二人とも諦めた様子は無い。
「あぁ、今の仕事が終わったら25層へ挑もうと思う」
レベルも30に達し、武具も仕上がった。何より、ギルドメンバーも成長してきたのだ。ギルドメンバーの内、1/3が転生者組であり、殆どは地球の魔物を倒すことを目的にに戦っている。一部の者は目的を見失い今を謳歌しているが、それでもギルドメンバーとしてその勤めを果たしてくれている。
ギルドメンバーの上位者は、レベル20を超え、25に達している者も居る。今回、25層に挑むメンバーは、上位20名を選抜している。頭数だけ揃っていても足手纏いとなる為、転生者組を中心にレベル・スキルで選抜した。
転生者組が中心になったのは、レベルが高くスキル持ちが多い点だ。どうやら、レベルの上がり方が異なる。スキルについては言うまでもなく全ての転生者は何かしらのスキルを持っている。
そうした理由から、必然と転生者中心となってしまった。
「いよいよね」
そう言いながら、カオルは麦酒を一気に飲み干した。
カオルも既にレベル30に到達している。ナベより早い段階で30に到達していたのだが、そこからレベルアップはしていない。
「ところで、今の仕事ってのは何だ?」
「あぁ、教会からちょっと頼まれてな」
ナベは教会から、献上用の王笏の製作依頼を受けている事を説明した。ご丁寧に装飾用の宝石やデザイン柄まで準備されており、魔鍛冶師であるナベはある言霊を込める事を依頼されていた。
「どんな言霊を頼まれたんだ?」
「秘密・・・と言いたいところだが、たいした内容では無いんだ『ただ心穏やかに我が言葉に耳を傾けよ』・・・それだけだ」
「ただ心穏やかに我が言葉に耳を傾けよ・・・ふぅん。王宮には騒がしい奴でもいるのかねぇ。 静かにしろ!で、終わりだろうに。そもそも教会から王笏を献上なんてあるのか?」
「まぁ宮廷のことは俺には分からん」
教会と王国との関係など分かるわけもなく、この話はここで終わった。
「いずれにせよ、早いとこ済まして翔の救出に取り掛かってくれよな。カオリちゃんも頼んだよ」
そう言いながら次の料理に取りかかった。
ドォォォン
二人が翔救出作戦の相談していた時、突然大きな爆発音が轟いた。
「おいおい 一体何が起こったんだ? すまねえが、見て来てくれ」
調理の手を止め、アランが近くにいた店員に確認してくる様に指示した。
店員が外に出ようとしたところで、勢いよく扉が開き、女剣士が入ってきた。
もちろん見覚えのある顔である。女剣士はサクラと言う。転生組であり、以前ナベが洞窟で助け出した二人の内の一人だ。
「ナベさん! 盗賊が現れた様です」
公式の場ではマスターの呼称で呼ばれているが、普段はナベさんと呼ばれている。というか呼ばせている。
事情を知っている転生組としては、「恥ずかしいだろ?」というナベの気持ちも分かるというもの。
「今、アキラ君が追っていますので、応援お願いします」
数日前にこの街を騒がせてた謎の盗賊。ギルドにも討伐要請がきており、何かあれば直ぐに動ける様指示は出しておいた。
アキラ(洞窟で助けた二人の内一人、ちなみに魔法が使える)が追っている様だが相手は複数人との報告があるので、早く加勢した方が良いだろう。
「アラン、ちょっくら行ってくるぜ。まだ閉めないでくれよな」
「私も付き合うわよ」
「あぁ 助かる!」
三人はすぐに店を飛び出した。
「今日も上手く行った様だな!」
「兄貴、これだけやれば、十分でしょ!」
「おぅ オメエらよくやった。」
兄貴とば呼ばれた男は藤岡。最近この街へ戻ってきた。
この男、仲間五人とこの世界へ転生後、しばらくこの街で窃盗や恐喝をを行った後、姿をくらましていた。
実際には、周辺の街を転々と周り、犯罪を繰り返していた。もちろん各街には犯罪組織があった。
藤岡たちは街に着くとまず組織を調べ、狙いを定め乗っ取っていく。はじめは腰を低くして近づき、組織のトップ信頼を得ていった。次に構成員との絆を深め・・・そして、気づけば組織のトップに収まっている。
意外にも抗争が大きくならなかったのは、組織のトップが藤岡に置き換わるだけだったからだ。
「頭! 今戻りました」
藤岡は部屋からの応答の声を確認すると、扉を開いた。
「おぉ藤岡君、お帰り。 報告は聞いている、よくやってくれた。これで彼奴らも当分商売はできまい。 此方はその間にしっかり稼がせてもらうとしよう」
デスクで書類に目を通していたらしい太った男が、藤岡を部屋に招き入れると、ソファーに腰掛ける様に促した。
「しかし、すごい手際の良さだね、君のチームは。今までどこに隠れていたんだい?」
大きな体をソファーに沈めながら、頭と言われた男は煙草に火を付けた。
フー
紫煙を大きく吐き出すと男は切りだした。
「君の働きに報いたいのだが、何か望みはあるかな?」
「では、金をいただきたい。 今日はパアッと飲みたいので・・・」
「他には?」
「金があれば十分。」
頭はそれを確認すると、金庫から袋を取り出し藤岡へ渡した。
予め藤岡の答えがわかっていた様な対応だった。
「ありがたく頂戴します」
そう言うと、藤岡は立ち上がり、部屋の外へと出ていった。
(金が全てと言うやつは、御し易いわい)
頭は、笑みを浮かべ藤岡が出ていった扉を見つめた。
おぉー!! ヤッホー!
大きな声は頭の部屋まで届いた。
頭の居る2階からは多少離れた1階ロビーにいる構成員達の歓喜の声だった。
「なんの騒ぎだ?」
頭は世話役を呼びつけると騒ぎの原因を尋ねた。
世話役が言うには、今回の褒美として頭から金がでたので皆んなで飲みに行くことになったとのこと。
「私から?・・・そ、そうか・・・」
「?」
「お前も楽しんで来るが良い」
世話役は少し首を傾げたが、頭が部屋を出るように促したため、そのままそこを後にした。
(まぁ 私が金を出した事には変わりないし、中々気がきく奴じゃないか!)
ナベ立ちがアキラの元に着いたのは、爆発がおこって1時間程経った頃だった。
「待たせたなアキラ。 で盗賊は?」
アキラは向かいの建物に目を向けた。この建物は街でも1位2位を争う大型の店舗でエラム商会の建物だ。
ただ、この商会は些か胡散臭い事でも有名だ。
偶に破格の値で商品が出品されることがあるのだが、それが盗品ではないか?と囁かれている。証拠はないので立件された事はないのだが、決まって盗難騒ぎがあった後に、商品が陳列されているからだ。
ただし、エラム商会の言い分では、盗難され商品がが欠品しているものから安く提供しているに過ぎないという。
それだけを聞けば、困っている人を助ける善良な企業市民である。
商会の裏口から、ぞろぞろと店員が出てくる。
「盗賊はこいつらの内の誰かか・・・もしくは全員か・・・」
ナベ達は気づかれないようにしばらく様子を伺っていた。
「兄貴、今日は何処に行きますか?」
「この人数だ、あそこしか無いだろ? 銀次、先に行って席をおさえてこい!」
藤岡にそう指示された銀次は、駆け足で去っていった。
「銀次? こっちの人間じゃねぇなぁ。 転生組でも見た事ねぇが・・・いっちょ当たってみるか」
ナベ達は銀次の後を追いかけた。




