22.魔鍛冶師 ナベ
ギルドマスターとなったナベは、いつもの様に探求者を送り出すと、自室で一息ついていた。
ナベは、あの一件以来、噂がじわじわと拡がり、サラマンダルマスターと呼ばれる様になっている。本人は、否定しているが噂ではサラマンダーを使役しているなんて話しまである始末だ。
(まぁ 全くの見当違いと言えねぇが・・・ そんなこと知られた日にゃ厄介ごとが増えちまって面倒だ)
サラマンダーの件は、カオルにだけは伝えてある。それ以外は秘密にすることにしている。大司教も例外ではない。それこそ厄介ごとが押し寄せることだろう。
だが、秘匿にしておく理由はそれだけでは無い。サラマンダーの協力は得ているが、その力をどう使って良いかが未だ試行錯誤なのだ。
炎を纏った拳を夢見ていたナベは、すぐさま実戦で試す事にしたが結果はダメだった。
サラマンダーには『お主は火属性魔法使えんのだから あきらめろ』そう言われてしまった。
『こうして儂は顕現可能じゃし、問題なかろう?』
そう、サラマンダーは協力的だ。いざとなれば顕現し、敵を殲滅してくれる。現に20層でも何の問題もない。カオルとは度々20層付近でレベルアップのための経験を積んでいるが、度々サラマンダーに窮地を救ってもらっていた。
「だがそれでは、いつまで経っても足手まといのままじゃないか・・・」
ナベは未だ諦めていなかった。度々20層に行ったのは、単なるレベルアップが目的ではなかった。そこで取れる鉱石と魔物から得る宝石(最近知ったが魔石と言うものらしい)が目的だった。
そして、今日はその鉱石と魔石を使って、武器を造ろうと考えていた。
教会裏には大司教にお願いし、鍛冶工房も建設してある。
サラマンダーと出会うまでは、時間を見つけては、槌を振っていた。
「さて、行くか!」
工房へ入ったナベは扉を締め切り、地金を取り出した。
「サラマンダー 火を頼む」
サラマンダーの操る炎が一気に炉を炎の海と化した。
ナベはインゴットを炉に投じる。既に1000℃はあるはずだが、インゴットは顔色ひとつ変えない。
鉄ならば真っ赤になるところだが、このインゴットは鉄ではなくミスリル。
「サラマンダー もっと火力を上げてくれ」
了解とばかりに炎は勢いを増す。工房全体に熱気が漏れ出してきたが耐火装備は万全である。
そろそろ2500℃になろうかと言うところで、ミスリルのインゴットがうっすら白く発光し始めた。
「そろそろか」
インゴットを打ち始めるナベ。インゴットに語りかけながら打つその様は、側から見ると不気味に映る。
「〽︎おぉミスリル お主に力を与えよう 炎の力を与えよう 主人を守り 敵を滅ぼす力を与えよう お主は炎を纏う籠手となるのだ ・・・・」
ナベは歌いながら槌を振る。独学で編み出した打ち方だ。書物では、魔鍛冶師は形を効果をイメージしながら槌を振るとあったのだが、なかなか上手くいかず、試行錯誤の末にこの方法に行きついた。イメージするよりも歌にする事でダイレクトに思いが伝わる様だ。
そうした中ミスリルは魔力を帯び始めた。
魔鍛冶師のみが成せる技、である。勿論この際もサラマンダーの協力あってこそではあるが・・・。
ミスリルはナベの要求に応えるかの様に形を変えてゆく。
その日の夕刻には、見事な籠手のパーツが出来上がった。
ふぅ と一息。心身共に疲弊しぐったりである。 当然と言えば当然のこと。魔鍛冶師は、槌を振るうたびに魔力を消費する。だからいとも簡単に形を作れるし、造ったものには魔力が宿る。
その日はここまでと、早々に工房を引き上げ明日の為に早めに休む。勿論探求者が全員帰ってきたのを確認してからではあるが・・・。
翌朝、ナベは探求者を送り出すと足早に工房へ入っていった。
この日は、個々のパーツに装飾を施し始める。文字の様にも見えるその装飾は、焔の太刀の刀身にあったものと同じだ。ナベは、焔の太刀に施された装飾が意味のあるものだと感じていた。そしてその答えをサラマンダーに教わっていたのだ。
『その文字は、それぞれ・・・自己修復・魔法力増強・魔力吸収・耐久向上・斬れ味向上 と言う印だ』
そこで、斬れ味向上以外の刻印を装飾を籠手に施す事とした。
歌で魔力を込める方法でも耐久向上などの効果を付加する事は可能だが、装飾との違いはあるのだろうか?
サラマンダーが言うには、鍛錬中に魔力を込めてこその魔法具。装飾だけでは効果は殆どない。勿論、ナベの様に魔鍛冶師が装飾を施せば多少の効果は現れる。
きちんと魔法で鍛錬した後に装飾を施す事で、その付与効果を焼き付け効果を増強させるのだそうだ。
だが、どういった刻印があるのか?今は翔の焔の太刀に描かれたものしか知らない・・・。
(大司教あたりに聞けば 古文書なんかができたり・・まぁそんなに甘くねぇか)
最後に、真っ赤な魔石を籠手の甲にある窪みに嵌め込み、籠手は完成した。
籠手は白く輝き、嵌め込んだ魔石の周りには薄っすらと朱色の光が混じる。
ナベは出来たての籠手を着ける。サイズはバッチリだ。そして、自らが追い求めてきた籠手であることを確信し、工房を後にした。




