18.ギルド発足
大司教へのギルド提案から4ヶ月が経ち、教会の一室を借りる形で、探求者ギルドが正式にオープンした。
王国の許可は3ヶ月で下りたが、探求者への周知に1ヶ月を要してしまった。
これまで許可なく入れた地下墳墓が許可制になり、さらに探求者ギルドへの入会に費用を取られるのだから、多少の抵抗があったのが原因だ。
だが、今では誰も不満を言うことは無い。
1週間ほど前、ギルド制に反発する若い探求者達が地下墳墓で帰らぬ人となった事件があった。
探求者達が地下墳墓へ来た際、ギルド長であるナベが彼等を呼び止め、ギルドへの加入を促したのだが、彼等はナベを無視して通り過ぎろうとしていた。
その時、ナベが彼等に対し「君の剣技は中々のものだ。 そして、そっちの君の補助魔法も中々相性が良い。だが、熟練度がもう少し必要なようだ。 しばらくは2層で修練を積んだ方が良いぞ!」と声をかけたのを多くの探求者が聞いていた。
「2層だって? 俺たちは4層探求者だぜ? 今更2層なんか行くわけねぇだろ?」
ナベを馬鹿にした若い探求者達3人は、そのまま女神像の元へ向かい転移していった。
その日の夕刻になっても、若い探求者達は戻らなかった。
ナベは、ギルドメンバー全員の帰還を確認した後、彼等が向かった(夜の)4層へ向かった。
「ちっ。前回来た時は楽だったのに・・・拳だけだとちょっとしんどいんだよなぁ」
4層は鍾乳洞を思わせるつくりでとにかく足場が悪く戦闘には厳しい。かと言って、ここで命の危険がある程ナベは弱くは無い。あくまで翔がいた時のように楽ができないと言った程度だ。
4層の魔物は大型でこそ無いものの、肉食の蜥蜴(といっても人と変わらないサイズだが)や蝙蝠が岩陰から襲って来るため、魔物の気配察知能力や翔のような遠距離からの魔法での殲滅(あれは反則な気もするが・・・)出来れば良いが、そういったスキルが無い以上俺のように取り敢えず近寄ってきた敵をブチのめすしか無い。しかしこれもレベル差があるからできるのであって、レベルが不足した状態では仲間との連携や、1匹を複数人で相手するしか無い。
ランタン片手に魔物をを倒しながら小一時間ほど進んだところで、彼等のものと思われる声が聞こえてきた。どうやら、魔物と戦っているようだ。
急いで声のする方へ向かうと、そこは比較的小さな洞窟の中からであった。
洞窟に近寄ると、中から蜥蜴の大群が這い出て来るのに気づいた。
多数の魔物と一度に対峙するのは分が悪い。ナベは、洞窟の入り口を塞ぐ形で立つと、蜥蜴を一体ずつ屠っていった。
「それにしても異常な数だな・・・・」
30体近くを倒し、魔物の気配が無くなったところで、ナベは奥へと進んでいった。
洞窟は行き止まりになっていた。
(彼奴ら喰われちまったか?)
「生きてる奴はいねぇか?」
そう声をかけた時、奥から声が聞こえてきた。 行き止まりと思われた洞窟は、人が這ってようやく入れるくらいの小さな穴が続いていた。
彼等はこちらが安全だと分かると、中から這い出てきた。
パーティは3人だったはずだが、出てきたのは2人だった。
「もう1人は?」
「・・・ここに来る前に殺られてしまって・・・」
そう言う2人の姿はかなりズタボロだった。特に術士の男は深手をおっており女神像まで歩ける様には見えなかった。そこでナベは手持ちにあったポーションを渡し飲む様勧めた。
「有難いが・・・そんな高価な物は返せない・・・」
「お前ら、4層で活躍する探求者なんだろ? この程度買えないわけ無いだろ?」
彼等が背伸びをして4層に居ることは承知している。単独で行動する魔物のみを相手にして此処に来ている事も・・・だ。そのため非常に効率の悪い状態に陥っているのが見て取れる。
彼等の装備を見れば一目瞭然、2層の探求者でももっといい武具を揃えている。それに加えかなり草臥れている。勿論、今回の戦闘でできた傷かもしれないが、かなりお粗末な状態だった。
街でのポーション相場は5万ディナール、今回の様な墳墓内でのやりとりの際には更に値が張る事もよくある話しだ。
「これは・・・2万ディナールでいいぞ。 ギルド価格で提供しよう。 金は後でいい、とりあえず飲め!」
半ば強引に飲ませると、出血は止まり危機は脱した様だ。
彼等は数匹の蜥蜴に襲われ、ここまで逃げてきた。逃げる途中、岩陰に潜んでいた蜥蜴に仲間の1人が襲われ、助けようとは思ったが一撃で絶命してしまったそうだ。
(確かレベル1だったな・・・)
その後この穴を見つけ籠城ならぬ籠窟に徹していたそうだ。襲って来る蜥蜴もいたが、穴に入って来るのは1匹がやっと。剣を突き出して必死に抵抗していたとの事。
「しかし、こんな蜥蜴の大群は見たことがねぇ。 お前らもある意味運がねぇなぁ、こんな日に当たるなんて。」
「だが、お前らパーティの適正階層は2層だ。2層でも十分今より稼げるはずだ、安全にな」
「・・・助けて貰ったのには感謝するが、何でお前にそんな事が分かるんだ!」
「これでも20層探求者だぜ? そしてお前ら同様、命からがら戻ってきた・・・否、生かされた・・・」
「危険を冒すのは探求者身寄りに尽きるのかも知れねぇが、死んじまったら元も子もない。無事にお前達が成長するのを助けるのが、俺の役割だと思っている」
「本当に20層まで行ったのかよ・・・」
「なりたてほやほやだが、これでもギルド長だぜ? それなりに経験値は高いのよ!」
「さて、続きは帰りながら話そう」
そう言って帰路につこうとした時、
「そういえば、蜥蜴から逃げている時、変わった蜥蜴を見たんだ。赤く光る蜥蜴がいたんだ!」
赤い蜥蜴・・・変異体か何かだろうか、此処にたどり着くまで見かける事はなかった。もしかすると、蜥蜴の異常発生に関係するかも知れないと思うと、油断はできない。表で待ち伏せしている事も考えられる。
「俺が表に出て様子を見よう。 安全が確認できた段階で合図を送る」
そう言って、洞窟の入り口まで戻った。
蜥蜴の死体だらけで足の踏み場も無い中洞窟を出ると、蜥蜴にしては珍しく岩陰に隠れる事もなく鎮座した蜥蜴よりもふた回りほど大きな赤い火蜥蜴が待ち構えていた。
直ぐにナベは、火蜥蜴のステータスを確認した。
ーーーーー火蜥蜴ーーーー
クラス:火属性 精霊
レベル:30
スキル:火属性魔法
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「! 」
「せ、精霊ぃぃぃぃ!」
しかもレベル30。ここ3ヶ月で多少成長はしたものの、未だナベのレベルは15。3ヶ月前のカオルに満たない。圧倒的な力の差がある事を知りつつも、何とか凌ぐ事ができないか必死に頭をフル回転させた。
逃げ場のない洞窟に引き返したところで、炎を喰らえば火炙りにされるのが落ちだ。
このまま逃げ去った方が得策だが、洞窟の中にいる若者を犠牲にする形となってしまう。
火蜥蜴から目を逸らさず警戒していると、口火を切ったのは火蜥蜴の方だった。
『ウ〜ム・・・貴様から微かにではあるがイフリート様の魔力が感じられる・・・・何故だ?』
まさか!火蜥蜴が喋るとは・・・ナベはいきなりの事に驚いたが、そもそも蜥蜴の様な魔物ではなく、蜥蜴の姿をした精霊で在るのだから不思議ではない。イフリートを知っていれば尚更である。ここまで気づかなかったナベが、ナベらしかっただけである。
「イフリートなら知っている。俺の仲間が主人と呼ばれていたからな」
『主人? イフリート様が? バカも休み休み言え。 そんな話しを誰が信じる。 イフリート様に力を認められ、その力の一端を使役する事を許される者があったとしても、主人と呼ぶなど・・・あり得ん』
「まぁ正確には イフリート本体ではなく、剣に扮した分体らしいが魔力が枯渇して力を失っていたところをうちの仲間が魔力を充電・・・充填?する事になってな。それで息を吹き返したって訳だ。それ以来イフリートはそいつと共にいる」
『・・・今、何処に居るのだ?』
「・・・残念だが、此処には居ない。 正確には、何処にいるのかさえ分からない。 だが、俺達はあいつを探し出す。」
この後、サラマンダーは会話をやめる事なく、イフリートと翔について尋ねてきたので、今までの経緯や、24層で出会ったロード・オブ・リッチーと名乗った骸骨について全てを話した。
ナベの話しには矛盾がなく、太刀となったイフリートの存在も彼等精霊の中でも周知の事実であった事もあり、サラマンダーは徐々にナベの話しに信憑性を感じる様になっていった。
逆にナベはサラマンダーからイフリートを最上位に置いた火属性精霊の階級について説明を受け、サラマンダーが上位精霊であるイフリートを救った《翔》に興味をもっていのが伝わった。こうして会話を続けるうちに、徐々に警戒も薄れていった。
『翔・・・か。イフリート様をお救いいただき感謝する。 既にイフリート様の力を行使できるのであれば、我が手助けは不要であろう』
「・・・」
『どうした?』
「俺に・・・俺達に力を貸してくれないか?」
『力とは? 一緒について来いと? それとも我を僕とするか?』
「一緒についてきてくれるのならばそれ程ありがたい事は無い。 だが、それは無理でも俺にアンタの力を・・炎の魔法の力を行使させて貰えないだろうか」
『我が力の行使を希望するか・・・しかし、貴様は火属性魔法が使えるのか?』
サラマンダーは精霊だ。ナベが火属性魔法のスキルがない事は知っている。あえて自分の力を求める理由がわからなかった。
「魔法は使えない。 だが俺は魔鍛冶師だ。俺は武器や防具に魔力を付与する事ができる」
『魔法が使えぬのに魔鍛冶師とは面白い。だが、その様な 武器や防具を創って何とする?』
「より強い探求者を育て、この墳墓を攻略する。そして、翔を助け出す・・・その為だ!」
『我が力を武器に・・・イフリート様は自らの分体でそれを実現された・・・其の方は別の方法でそれをやり遂げようと申すか・・・それもまた面白い・・・か』
サラマンダーはブツブツと独り言を言いながら考え込んだ。
『良かろう! 我が力を貸し与えよう。 しばらくは貴様の側に居るぞ?』
そう言うとサラマンダーは消えた。と同時に左手の甲に焼ける様な激痛が走った。
左手の甲は赤く腫れ上がり、蜥蜴の痣ができていた。
ナベは洞窟の中で待機している2人を呼ぼうとしたところ、中から2人が出てきた。
「アレ消えましたけど・・・何だったんですか?」
「ん!・・・サラマンダー。 火属性の精霊だ」
「精霊!?」
「で、精霊はどこ行ったんですか? 襲って来ないですか?」
「あぁ 精霊は魔物と違うので、無闇に襲っちゃこない。だが、決して敵に回すんじゃないぞ。多分俺でも瞬殺だ。 さぁ行くぞ!」
精霊と対峙しながらも平然としているナベを見て、若い探求者達は尊敬の眼差しでその後ろ姿を眺めていた。
数日後、尾ひれが幾重にも重なり、探求者達はこぞってギルドに加盟する事になるのだった。




