17.カオルとナベの決意
カオルが目覚めた時は教会の一室だった。
「おや、気づきなさったか? まだ横になっていなさい。傷は癒えたと思うが、体力は回復しておるまい」
そう声をかけてくれたのは、この教会の聖職者であろうか。結構なお年を召した老人。
「血まみれで二人が倒れておるのを探求者らが見つけてのぉ、教会で処置させて貰うた」
教会なので、聖職者が居て当たり前だとは思うが、これまで一度も出会ったことが無かった。
彼等は神に使える者として、神聖(治癒)魔法なども使えるのであろうと察した。
「助けていただき、ありがとうございます!」
「なに、君たちの身元はアラン殿が保証してくれておるし、治療費も頂いておる。礼は彼に言いたまえ」
「え、アランさんが?」
「ただ、相方の傷の方は完全には癒せておらん・・・数人で治癒を施してはみたが、炭化した部分の火傷までは治せそうもない・・・残念じゃが」
カオルはベッドから起き上がると、ナベに向かうと魔法を唱えた。
「大治癒!」
ナベの黒く炭化した皮膚がみるみる肌色へと変わっていく。そしてナベの傷は完全に癒えた。
「なんと! 大治癒を使えると・・・貴女は・・・いや、貴女様は一体・・・」
この年老いた聖職者が言うには、この聖墳墓教会のある王国全体でも、大治癒の魔法が使える者は聞いたことすら無い。
過去には居たらしいが、どうやら現在大治癒を使えるのは、神聖教会聖地に居を構える教皇と一部の枢機卿のみと言う。そんな奇跡の大魔法を目の前で見せられたのだから、この老人が驚くのも無理はない。
「し、しばらくお待ちを! 」
そう言うと、老人は足早に部屋をでていった。
老人が出た後、若い聖職者が飲み物とお菓子を持って現れた。紅茶の香りとカステラの様な甘い香りが食欲をそそったのか、ナベが目覚めた。
「此処はどこだ?」
カオルはナベにこれまでの経緯を説明すると、ナベは考え込んだ。
「カオルの職業ステータスって神聖教司教・・・だったよな」
ナベはリッチーから貰った指輪を通し、改めてカオルのステータスを確認した。
「司教ってどんなポジションなんだ? 俺の感だが、カオリはかなり高位の聖職者って事じゃないか?」
「でも私、そんな組織に属してたりしてないし・・・」
「組織に属していなくても・・・何ならこの指輪でステータスを見せたら納得するんじゃないか?」
「大体ステータスなんて一般的なものなの? 今まで聞いた事ないし、逆に怪しまれてしまうんじゃ無い?」
確かにこの指輪の存在はやばいかもしれない。ステータスを見る事ができるのであれば、今更カオリの大治癒に驚いたりすることはないだろうし、司教として丁重に扱われる筈だ・・・。
暫くは大人しく様子を見る事にしようと二人は確認し、既に大治癒を使ってしまった以上、神聖教会の関係者って事にする必要があるなと、相談していたところで、扉が開いた。
「大司教様、こちらでございます」
年老いた聖職者が案内してきたのは、同じく年老いたそれでいて少し体格の良い(ちょっと肉好きの良い)聖職者だった。大司教ということは、おそらくこの教会で一番偉い人物なのだろう。
「トーマス司祭。 この者達かね?」
トーマスは「はい」と頷き大司教の質問を肯定した。
既にある程度の説明が済んでいるらしく(じゃないと大司教自ら足を運んでくる筈が無いが)、大司教はナベとカオル(特にカオルの方だが)を値踏みする様に見つめると、ベット側の椅子へ腰掛けた。
ナベとカオルは、ベッドから降りて立ち上がろうとしたが、大司教はそれを制しそのままの姿勢で良いと促した。
「君たちの事は、そこのトーマス司祭に説明を受けた。 貴女かな?大治癒を使えるというのは? わしの知る限りこの世で三人しか使えぬ筈の第5位界魔法である大治癒を。まだ若い様にお見受けするが、見た目と年齢は異なるのかな?」
なかなかに失礼な物言いだが、相手は大司教。おそらく国王でも無下にはできぬ存在だろう。
「大司教猊下・・とお呼びすればよろしいでしょうか?」
「ホッホッホ 猊下など大層な者ではない。 トーマスもそう呼んどらんかったであろう」
この大きな教会の長であり、大司教という立場にありながら、なかなかできた人物の様である。
そしてカオリは大司教の問いに戸惑いながらも返答し始めた。
「私は神聖魔法に目覚めて一年に満たないのです」
「なんと!」
「ある日突然、夢の中に黄金色の髪をした少女が現れ、『司教としてこの地の探求者に加護を与えよ!』と啓示を授かりました。その証拠にその日より神聖魔法が使える様になりました」
「・・・」
まさかの内容に大司教は言葉を失い、口を開けたままカオルを見つめていた。
「その日から大治癒が使えるようになったのですか?」
大司教が何も話さないので、トーマスが質問を投げかけてきた。
「いいえ、初めからではありません。初めは治癒が限界でした。彼等と経験を積むことにより、少しずつ成長する事ができたのです」
「それにしても、最初から治癒とは・・・」
トーマスもまた言葉を失ってしまった。
そのやり取りを傍で見ていたナベは自分たちが如何にチートな存在であるのかを改めて感じていた。
(俺たちの能力はあまり表に出すもんじゃ無いのかもしれんな・・・この大司教が悪代官みたいな奴だったらいい様に良いように使われるか、場合によって妬みで殺されるかも知れない・・・まぁまだ油断できないが)
「私は、神聖魔法を使えますが、教会には属しておりません。啓示の事もございますので、探求者の活動しつつとなりますが、私の大治癒が役に立つのであれば、教会での活動をお許しいただけませんか?」
「おぉ! なんと我々にご助力いただけますか!」
つい今しがたまで思案を巡らせ、頭を抱えていた大司教が、カオルからの提案が投げられ一気に解決したと言わんばかりに喰いついてきた。
この展開にナベはカオルの機転に感心しつつも自らもこの状況が好転しつつある事を感じていた。
(何だか面白そうな展開になってきたなぁ)
ナベは指輪の力を使い二人の聖職者のステータスを覗いた。
ーーーーデービットーーーー
クラス:神聖教司祭(大司教)
レベル:5
スキル:神聖魔法(三)
ーーーートーマスーーーー
クラス:神聖教司祭
レベル:8
スキル:神聖魔法(四)、隠密
大司教の名前はデービット。クラスは司祭という事は司祭の実力だが、地位は大司教という事か。
トーマスは、同じく司祭だが、実力はデービットを凌ぐ・・・隠密? 何か隠し事でもありそうなスキルだ。
まぁ隠している様なので、知らぬ程でやり過ごしておこう。
「どうしました? 私の顔に何か付いておりますか?」
トーマスはじっと自分を見つめるナベに声をかけた。ナベは先程から考えていた事を相談する良い機会と考えるや、大司教とトーマスに話しを切り出した。
「いえ、実は相談というか、提案がありまして・・・」
「どうぞ、カオル殿の仲間の頼みとあらば、ある程度お力になりましょう!」
大司教はそう言うとカオルをに笑顔を送った。
(ありゃあ カオルに恩を売っておこうと言う算段だな)
「ではお言葉に甘えて。 実は我々・・・と言っても一人仲間が行方不明となってしまったのだが、地下墳墓20層まで到達している。おそらく在籍している探求者の中でも最深部に到達していると自負している」
「なんと20層へ!? それは誠か?」
それまでカオルへの敬意はあったが、この時点からナベに向ける眼差しにも僅かに敬意が感じられる様になった。そしてナベの話を食い入る様に聞き入った。
「えぇ 本当ですとも。 カオルも一緒ですから、彼女に確認してもらっても結構。 だが、我々は瀕死の状態で引き返す事になった・・・敗因は自分たちの実力不足。自らの力を過信しすぎて、分不相応な領域へ足を踏み入れてしまったからに他ならない。恥ずかしい話だが・・・」
「ふむ。 それが先日の事なのじゃな」
「そこで俺からの提案なんですが・・・無茶をする探求者を抑止する為に、ギルドを創ってはどうかと思うんです。そして、ギルドから適正な階層をアドバイスし、リスクを低減する。そんな仕組みを作れませんか?」
「う〜む。 ギルドか・・・商人ギルドや製造ギルドはあるが・・・探求者ギルドか・・・。だが、適正な階層のアドバイスはどのようにするのじゃ?何か方法があるのか?」
「その点は俺、もしくはカオルが評価しましょう。 これまでの経験から、20層までならアドバイス可能です。」
「カオル殿も・・・ふむ。 しかし探求者供が本当にギルドに入るのかね?」
「そこは大司教様、貴方にお願いしたいところでもあります。 墳墓への立ち入りを許可制としていただければ、ギルドに所属しておかねば墳墓への立ち入りを認めない様にしていただけば良いのではないでしょうか」
「そんな事をすれば、皆の反感を買ってしまうではないか! 我々神聖教会は、皆の寄付にてなりたっておる。そんな事をして皆の心が離れてしまっては元も子もない」
「大司教! これは探求者の安全、命の問題です。 より安全に探求してもらうためのギルドなんです!」
ナベは、その後も大司教に探求者の安全確保を訴え続け、ついに大司教は王国へギルド設立に向けた進言をする事を約束してくれた。
「おぉ 二人とも無事で何よりだ! あれだけの怪我をしてもう来てくれたのかい?」
アランは店を訪れた二人にいつもの様に声をかけてきた。
「アランさん、身元保証と治療費を負担してくださってありがとうございました!」
「いいってことよ! それに治療費に関しては、不要と司祭から連絡あったんで、気にしなくていいぜ」
「いや、あそこで治療してもらえなかった、今頃俺はあの世だ。あんたは命の恩人だ」
「そうか! じゃ快気祝いにパァッと飲んでたんまり支払っていってくれ!」
「あぁそうさせて貰うよ。 だが、今日は個室を借りるぜ」
アラン「オーケイ」と言うと、店の女の子にナベ達を奥の部屋へ案内する様、指示した。
「ナベさん、思い切った提案をされましたね。」
「カオルちゃんこそ。まさか教会に力を貸すなんて提案をするとは思わなかったよ。 それにあのリッチーは勇者を連れてこいと言った。勇者を見つけたところで、途中で死なれちゃ敵わん。だから俺たちが育てなきゃならないと考えたんだ。俺は考えるのは苦手だが、後進の育成に関してはちょっと自信があるんだぜ」
「それにリッチーに貰ったこの指輪。これを有効に使わなけりゃリッチーへのリベンジも遠のくってもんだ。 翔は必ず生きている。彼奴が簡単に殺すわけねぇ・・・」
こうしてカオルは神聖教会への助力による教会影響力の強化、ナベは探求者ギルドの設立に向けて動き出した。




