12.変わった転移者
「またこうしてシャバに出れるなんてなぁ。 女神様様ってやつだな。なぁ?」
「全くたぜ、またこうして兄貴やこいつらとこうして飲めるなんて思っても見なかったぜ」
男達は傍にいる女達を侍らせ、グラスを傾けている。まだ日も沈みきっていない夕刻だが、店内はやけに暗く側にいる仲間の顔が漸くわかる程度の明るさだった。
「それにしても、これからどうしやすか? 兄貴。あの銀髪の女神は、ここで好きに暮らして良いみたいに言ってやしたが・・・」
「そうだな・・・いつまでも金が続く訳じゃねえし、早いとこ金蔓を見つけるとするか。なぁ?」
いい案だと言わんばかり男達は頷いた。
「ですが藤岡さん、ここには探求者ってかなり腕が立つ人達が集まった街ですよ。大丈夫でしょうか」
「銀次・・・時代遅れの様な奴ら気にするこたあねぇだろ。ビビんじゃねぇよ。なぁ?」
兄貴と呼ばれた男は拳銃を取り出すと、銀次に銃口を向けながら嘲るように笑った。
「僕はただ探求者って選択肢もありかなと思っただけで・・・すみません。余計な事でした」
「分かりゃいい。 金は持ってるやつから頂けば良いのよ。いちいち働くなんざ、面倒臭くってやってられるかってんだ。さぁ飲め飲め、明日っからじゃんじゃん稼ぐぞ」
藤岡と呼ばれた男と5人の男達は、再び乾杯を交わすと、一気に葡萄酒を飲み干した。
ちょうどその頃、翔達は聖墳墓教会の女神像の前に戻ってきたところだった。ナベの服は煤けカオルは無傷ではあるものの、髪は乱れ額に光る汗が本日の過酷さを物語っていた。
「今日も順調に3層突破できたね。これで16層クリアだよ」
「まあ一直線に下層を目指してるからな。お陰でほぼ戦闘ばかりで素材回収が出来ていねえ」
「とかなんとか言いながら、ちゃっかり宝石だけは回収しているじゃない」
「そりゃ勿体ねえからだろ。金にもなるし・・・」
「そうだね。ナベの言う通り何も得なかったら、宿代にも困っちゃうもんね。こうして潤沢な資金を得られているのもナベのおかげだよ」
そうだろう、そうだろうとナベは頷き、カオルに何か言いたげに目を向けた。
仕方なくカオルはナベが欲しているであろう言葉を返した。
「そうですね。確かに美味しいご飯をいただけるのもナベさんのおかげですねっ!」
「おうよ! そんじゃ飯にしようぜ!」
翔達はいつもの様におっさん亭に到着した。ナベは煤けた身体を、カオルは汗を流したいところだったが、いつもの様に直行した。
「いらっしゃいませ!」扉を開けると、いつもの様に女の子がカウンターまで案内してくれた。
「いらっしゃい! おぉ今日は乱れてんなぁ。 戦闘の激しさが伝わってくるぜ!」
「麦酒でいいですか?」
女の子は一応確認し、全員が頷いた事をかくにんすると、オーダー票に記入した。
「今日は、秋刀魚ってお魚が入ったんですが、どうですか?」
「それじゃあ人数分お願いします!」
カオルは即答した。久々の秋刀魚。この街は内陸にあるためか、魚介類の入荷が極めて少ない。その為たまに入った時は必ず頼んでしまう。どうやらカオルは魚介類が好物のようだ。
「へいお待ち!」
店主のアランが、焼きたての秋刀魚をカウンター越しに出してくれた。
秋刀魚の脂が焼けた 香ばしい香りが食欲をそそる。
「アランさん、この秋刀魚はどこで水揚げされたものですか?」
「その秋刀魚は北のハドソン王国から入ってきたもんだ。魔法で氷漬けされた状態で運ばれてくるから、新鮮で美味いんだ」
「北の王国・・・ここパルス王国とは良好な関係だと思っていいんですか?」
「まぁ悪くは無いってところか。 あっちは漁業や海運業を生業としているから、パルスとは物流の面では互いに良い貿易となっとるようだ。但し、その海路を狙う国も多くパルスもその昔その権益を狙い戦争を仕掛けたこともあったって話だ。 ここ数十年は聞かねえがな」
「ハドソン王国はどんな国なんですか?」
カオルは、秋刀魚をほうばりながら、アランに尋ねた。
「豪雪地帯でな、今の時期はいいがもう暫くすると交通の手段は絶たれる。そんな状況が半年くらい続くため、陸の孤島と化すんだ。 それと、他国の侵略を寄せ付けない理由はもう一つある。ハドソン王国の守護神の存在だ。アレはやばい。海から侵攻すれば津波を起こし、陸から攻めれば真夏でも吹雪が襲い、部隊は悉く全滅って話だ。そんな不可侵な国のためか今の国王は温厚な方で、自ら戦端を開いたことはない。そんな国だ。因みに、俺の母親の母国でもある」
アランという名前も母親のお爺さんの名前をもらったらしく、ハドソン王国で有名な戦士だった祖父みたいになってほしいとの願いを込めてつけて母親が付けてくれたらしい。その影響からか一時は探求者として地下墳墓へ臨む事となったのだが、ある事をキッカケに現在のおっさん亭を開くに至ったとの事だった。
「はい、お待ちどうさま。鯨のお刺身です!」
いつの間に頼んだのか、カオルは生姜醤油を用意すると口に運んだ。
「美味しー!」
「うめーか! カオルちゃんは海の幸が口に合うようだな。 一度ハドソン王国へ行ってみちゃどうだ?たまにゃ旅行なんてのもいいんじゃねえか?」
「そうですね。落ち着いたら、行ってみようかしら」
「今は26層を目指して猛アタック中だからね。」
「26層!? おめえら一体今何層なんだ!」
料理の手を止め、アランは俺たちに質問してきた。
「今日16層まで突破したぜ! この調子だと3、4日で26層へ到着できそうだ。」
ナベが鼻高々に答えた。
「おいおいマジかよ・・・探求者でもトップクラスじゃねえか。ちょっと前まで右も左も分からんような奴だったのに・・・嬉しいねぇ。じゃあ26層到達したら祝杯を上げようじゃねえか。一級の酒を準備しておいてやる!」
「おぉー。約束だぜ」
ナベは数日後の祝杯を想像し、ひとり盛り上がり始めた。
「アランさんすみません。なんか気ぃ使わせてしまって・・・」
「気にすんな翔。 うちにとっても有り難え事だ」
「ん?どういこと?」
「最近 ガラの悪い輩が多くなってな・・・ 腕の立つおめえらみたいな奴が常連で居るって分かりゃ無用な争い事も避ける事ができるって寸法よ。だが、おめえらも気ぃつけろよ。特にカオルちゃんはな」
「アラン・・・」ナベはそれ以上いう事をやめた。 ナベを見るカオルの目から殺気を感じたためだ。心の中では「アラン、見た目に騙されちゃいかん。カオルは化けもんみたい・・・嫌、化けもん以上にヤバイんだ!」そう言いかけ別の言葉を発した。
「アラン、そうだな。気をつけるよ」
こうして夜は更けていった。




