10.第三層 そして魔法に目覚める
地下墳墓第3層 石造りの壁と天井で如何にもダンジョンと言った景観だ。薄気味の悪い迷宮と言うよりも城や神殿の地下通路と言った感じだろうか。女像がある場所から一直線に通路が伸びており、通路の両脇には一定間隔でランプが灯っている。そして、それはかなりの距離であることが見て取れた。
「今までと違ってこれぞ地下って感じがしますね。」
カオルはそう言うと、光球を唱えた。
右手に持った扇子の先に小さな魔法陣が現れ、そこから光の球がでてきた。カオルはそれを10メートル先へ放った。
「おいおい、ランプもあるんだし魔法は温存しといた方が良かったんじゃ無いのか?」
「この位たいした事ないよ。 それよりも不意打ちされる方が厄介じゃ無い?」
そう言うとカオルは通路を歩き始めた。
(どうやら、俺とナベが思っている以上に彼女は成長したのかも知れない)
暫く進むと、光球に照らされ十字路が見えた。すると光球に吸い寄せられたのか十字路の左右からオークが押し寄せた。
「光球が無かったら 左右から挟み撃ちかよ・・・」
ナベは迎撃態勢を取りつつ、改めて自分たちがいかに不利な状況下にあるかを思い知らされた。
幅2メートルしか無い細い通路は、一本道であれば、一対一の戦闘となり、相手が大群であっても各個撃破が可能だ。しかも翔は強い、そう考えていた。
だが、挟撃されるとなると話しは別だ、逃げ道が無い。当然自分自身も一対一での戦闘が余儀なくされる。
俺は直ぐに太刀を抜き放った。
オークが棍棒を振り回しながら襲いかかって来たところを縮地で一気に間合いを詰め、棍棒を振り下ろす前に仕留めた。
勢いそのままに、3匹を仕留めたところまでは良かったが、只でさえ太刀を振るのに狭い通路がオークの死体で更に戦いづらい状況となってきた。少し後退し場所を変えてみたが状況は好転しそうになかった。
その時
「翔さん 伏せて!」
カオルの声に従い伏せた瞬間。
「極大魔法の矢!」
扇子の先には三層の魔法陣が輝いており、そこから巨大な光の矢がオークめがけて発射された。
一列に並んでいたオーク達は身体に大きな穴を開けてその場で絶命した。運良く一命を取り留めたオークもいたが、満足に戦う事もできず翔の刃に倒れた。
「カオルちゃん今の魔法って・・・三層の魔法陣がでたって事は第三位階魔法だよな。いつの間に使えるようになったんだ?」
第三位階魔法 高位になればなるほど強力な魔法である。この世界では、魔法を志す者はにとって第三位階に到達する事が最終目標という者も数多く存在する。生涯を通じて精進すれば到達できないことは無いレベルではあるが、それでも必ず到達できる訳では無い。
その第三位階魔法を2ヶ月見ない間に使えるようになったとは。
カオルの持つ神聖魔法大全集(上巻)には第五位階までの神聖魔法が書かれていた。既に神様との契約を経たカオルは免許は持つが、運転経験のないペーパードライバーのようなもの。ましてや第五位階魔法ともなると超大型トラックを未経験者が運転するなんて恐ろしくて堪らない。
実は以前第三位階魔法を試そうとしたのだが、上手くいかなかった。そもそもの魔力が足らなかったのだ。・・・だったはずなんだが、いつの間にか使えるようになっていた。
「いつまでも同じ魔力な訳ないでしょ! 毎日、尽きるまで治癒かけまくっていたんだから! ヒントは翔さんに貰っていたしね。 それと・・・今のは第三位階じゃくて第四位階魔法ですよ。一層目の魔法陣が二重になっていたの気づかなかった? 」
「でも、第四位階魔法は1日2回が限度かなぁ?でも連発はムリなので、あまり期待しないでくださいね」
「いやーカオルちゃん凄えぜ 一発でしとめるなんて。 2人はちょっと休んどいてくれ」
そういうとナベは素材の収集を始めた。
「翔さん、翔さんも魔法大全集持っていましたよね。イフリートさんとも契約してますし何位階まで行けますか?」
「実はあんまり使ったことない。 別れた後一度だけ使ってみたんだが、牽制のために放った火球で敵が全滅しちゃって、剣術の鍛錬にならなかったんでそれ以来使っていないんだ。
「火球って小範囲魔法ですよね。敵は2、3体ですか?」
「多分10体くらい」
「それって火球ですか?」
「あぁ間違いなく。だから第三位階魔法ってのはそのくらいの威力かなって思ったんだけど・・・魔法陣も3重だったしね」
「・・・第三位階の魔法の矢だと精々殺傷能力は1、2体ってとこよ。術士としての練度が上がれば一度に生成できる矢の本数が増えるからより多くのモンスターを倒すことができるけど・・・もしかして翔さん、魔術士としての練度が高いんじゃない?」
その後も、魔法に関する常識をカオルから説明を受け、練度は上位階魔法の行使に影響するととに、魔法の威力にも影響し、魔力はその名の通り許容量であるが、こちらも魔法の威力に影響を与えることをおしえてもらった。
そして、更にカオルは自分の憶測と前置きした上で、自分の考えを話し出した。
「イフリートさんは、第4層まで手助けしないって言ってたんですよね。 剣技だけで進むように・・・。敢えて第4階層と指定されたのに、ここは明らかに剣を振るには向きませんよね・・・。そのまま受け取るとこの狭い場所でも難なく戦えるくらい剣技を極めなさいって事かもしれませんが・・・」
「別の意図があるって事か?」
「あくまで私の憶測の範囲ですが・・・」
「剣技だけでは超えられない壁を知れって事か・・・」
「カオルちゃん、ライティングはどのくらいの距離飛ばせる?」
「大体100メートルから200メートルくらいかなぁ?」
そうかと頷き、魔法大全集からめぼしい魔法を見つけた。威力は不明だが、この場所にピッタリの魔法だ。
そこへ丁度素材回収を終えたナベが帰ってきた。
「沢山集まったぜ。 今日はもう戻るか?」
「いや、ちょっと試したいことがあるんで」
「じゃ、カオルちゃん合図をしたら、光球をできる限り遠くまで飛ばしてくれ!」
俺は魔法の詠唱に入った。第六位階魔法 発動まで若干時間がかかる。また、発動できる保証もなかったが、問題なく魔法陣が展開された。
「カオルちゃんよろしく!」
すぐに光球が発射された。奥からオーク達の声が聞こえてくる。ウジャウジャと湧き出しているようだ。
そして、どうやら俺たちの気配に気づいたようだった。
「炎龍の咆哮!!!」
通路幅一杯に描かれた魔法陣から炎の激流が一直線に突き放たれた。
後方にいナベやカオルも余の熱風に顔を覆い隠した。
後に残ったのは 表面が炭化した死体の山。
「あっ・・・ちょっと目眩が・・・」
「空気浄化」
「ちょっと! 幾ら何でもやりすぎです! 酸欠ですよ、酸欠! 意識飛びそうになりましたよ!」
なるほど、魔力の枯渇ではなく酸欠だったとは・・・この閉鎖に近い空間であんな爆炎発生させたら酸素なくなるだろー!と2人に叱られた。
ナベは炭となったオークから素材を取ろうとした時焼け焦げた鎧の下に煌くる物を見つけた。
「おい、宝石じゃないか?これ。」
500円玉サイズの大きなルビーだ。思わぬ収穫に目が輝くナベ。
「宝石には魔法を込めることができる。品質によって込められる魔法に制限はあるが、かなり貴重だ。ちなみにこの世界でもこのサイズは結構大きい方たぞ。現実世界で滅多にないサイズだが」
どうやら、ナベは宝石を使った道具製作を考えているようだ。
俺たちのパーティーでは、ナベの作る武器防具などに必要な素材以外の物は基本的には売却している。そのお金を分配し、生活費に充てているのが現状だ。また、ナベが製作した物も必要なものは其々に分配し、不要なものは売却することでナベの技量アップと金銭を得るという、一度で二度美味しい状況をつくっている。こうして、このチームは戦闘は俺、バックアップはカオル、商売はナベと役割を分担している。
思った以上に広範囲におよんだようで、300メートルくらいまで炎の跡が続いており、左右の通路にも影響が及んでいた。
その後はカオルの光球で敵をおびき出し、火球で焼き尽くすを繰り返した。幾度か繰り返し、漸く下層へ続く階段が見えて来た時、焔の太刀が輝き、イフリートが現れた。




