第三話 魔術師ルシア
>魔術師ルシアが仲間になりました。
食料を確保するため、ルシアとともに食材のある場所へ向かおうとすると、急に目の前にポップアップ画面が現れ、ルシアが仲間になったことを表示していた。
『クリエイト・ワールド』では、放浪者であるNPCを自らが作った街に招待して仲間にできるシステムがあった。
これによって街が成長していき、より多くの放浪者が集まると国となって、新たな国家を樹立できるシステム仕様となっている。
今回のポップアップメニューはそのシステムが作動したものと思われた。
ルシアさんは魔術師らしいけど、ステータス見てみるか。
ルシア・カバーサ 種族:妖狐族 年齢:18歳 職業:魔術師 ランク:新人
LV2
攻撃力:8 防御力:9 魔力:20 素早さ:6 賢さ:18
総攻撃力:8 総防御力:12 総魔力:20 総魔防:18
使用魔術:火炎の矢(魔力:+10 火属性) 建造物破壊(魔力:+?? ??属性)
装備 右手:なし 左手:なし 上半身:布の服(防:+1) 下半身:布のズボン(防:+1) 腕:なし 頭:布の帽子(防:+1) アクセサリー1:なし アクセサリー2:なし
目の前に表示されたルシアのステータスを確認すると、もう少し若いかと思ったが一八歳のれっきとした成人女性だった。
主に顔立ちが幼いのと、身長が低いのを除けば納得の年齢である。
「お兄さん、何を見て――ひゃああ! これうちのステータス欄じゃないですか~。なんで、お兄さんに見えているんですか」
ルシアは、俺が歩みを止めた気になったようで、横に回ると表示されているステータス欄を覗いていた。
「ひゃああ! 見たらいけないんです。うちのステータス、見ないでください! 見たら絶対に後悔するから~」
ルシアがアワアワと慌てているが、能力的には素人に毛が生えた程度でとりとめて不審な――
物があった。使用魔術欄に燦然と輝く【建造物破壊】の魔術が不穏さを感じさせる。
こんな魔術あったか? クリエイト・ワールドにはない魔術だろうか。
明らかに不穏さを感じさせる魔術を持っている。だが、ルシアさんはカワイイのだ。
きっと、この魔術を放とうとしてズルベタンと転倒して、建造物を破壊しても怒ったりはせず、心で血涙を流しつつ、笑顔でルシアさんのほっぺをひっぱり『痛い~、ツクル兄さん堪忍です~』としたら許してしまうことは間違いなかった。
「お兄さん? まさか、うちが禁呪持ちと知ってドン引きしてます~?」
禁呪持ち? ああ、【建造物破壊】の魔術のことか。
「ルシアさんはレッツェンに住んでたと言ってたけど、もしかして村に移ったのは、この禁呪のせい?」
「はい……レッツェンの偉い人にうちが禁呪持ちだとバレて、追放されてしまいました。その時、おばあさんと一緒にこの先の村に越してきたんです。あの村の人たちは禁呪持ちのうちの子とも嫌がらずに受け入れてくれた命の恩人なんで、何とかお役に立ちたいと思ってるんです~」
いじましいルシアの姿に涙腺が少しだけ緩くなる。
自分の意思で得た魔術ではないのに、禁呪であることだけを取り上げて、住んでいる場所から追放をしたレッツェンの偉い人に対し、かなりの苛立ちを覚えた。
ルシアさんは悪くない。ただの被害者なだけだ。
義憤に駆られた俺は薄幸そうな美少女を幸せにしてあげたいと思うようになっていた。
俺がこの地に創る都市は、住民みんなの笑顔が溢れる都市を創り出したい。
きっと、俺にはそんな都市を創り出せる力が授かっているはずだ。
「ルシアさんの事情は分かりました。もし、良かったら村の発展のお手伝いをさせて欲しい。みんなで楽しく美味しいご飯が食べれる村を作りませんか?」
「お兄さん……本当ですか? 本当に村の人たちが楽しく、美味しいご飯の食べられる村が作れますか? 本当ならうちはどんな協力も惜しみません」
申し出を受けたルシアが、ウルウルと瞳に涙を溜めて上目遣いをしてくる。
その姿は、俺のツボを突いてしまっていた。これはダメだ。強烈すぎる……もうルシアさんのいいなりになりそうだ。可愛すぎる。
「ああ、ルシアさんが俺の手伝いをしてくれるなら、直ぐにでも作れるさ」
「お兄さん……本当に、本当に一緒に村作り手伝ってもらっていいんですか? こんなに街から外れた辺鄙な村で、食料の調達とかですよ。本当に大丈夫ですか~?」
「ああ、大丈夫さ。俺は『ビルダー』だからね。大半の物は自作できるし、食料も農地を開墾すれば自給できる目処は立っているよ。しばらくは狩猟で獲る肉と野草やキノコだけどね。村人さん達の分くらいは確保できるさ」
俺の職業を聞いたルシアの顔色がサッと変わった。
「ひゃあぁっ!? ツクル兄さんは、『ビルダー』でしたか……。ええっ!! 『ビルダー』!? 素材から物が自由に作り出せるという伝説の職業ですよね~!?」
クリエイト・ワールドでは主人公の職業は『ビルダー』に固定されているため、この世界での『ビルダー』の扱いはどうなっているのか、よく分からない。
「伝説? そうなの? よく分からないけど、物を作り出す能力はあるよ」
そう言って、背中から木槌を取り出し地面を叩く。
ドンッ! ボフッ! 目の前に穴が開き、ルシアの前に土のブロックが生成される。
「凄い~! 本当に『ビルダー』って存在していたんですねぇ……。ツクル兄さん、不束者ですが今日からご厄介になります~。色々とお手伝いできることがあれば、うちに遠慮なく申し付けてください!」
ルシアが地面にキチンと正座をして姿勢を正し、三つ指を付いて頭を下げていた。
「こちらこそよろしく。ルシアさんも困ったことがあれば遠慮せずに申し出てくれ。素材さえあれば、大半の物は作り出せるようになるはずだからね。さぁ、立って。食料調達に行かないと」
俺は頭を下げていたルシアの前に跪き、手を取ると立ち上がらせた。
「は、はい! みんなに食べさせるご飯を調達しないとですね~。うちも頑張るぞ!」
こうして、二人で村の人たちの食材を調達するため、草原に向かって歩き出した。