第二十八話 新たなる訪問者
皆でルシアの作ってくれた昼食に舌鼓を打ち、満腹になると、更なる建材集めのために、霧の大森林に分け入ることにした。
ガサガサと草を掻き分けて進むと、不意に大蜘蛛と遭遇してしまう。体長が四メートルほどあり、〇イリアンのような形をしているが、酸の体液も持ってはいないので、それほどまでに強くはない。ただ、非常に気色が悪いだけである。
「ひぇえぇ……ツクルにーはん……うち、蜘蛛は苦手なんです……こわい」
「ルシアママはピヨが守る~」
ピヨちゃんが怖がるルシアの前に立って守ろうとしてくれているが、大蜘蛛の不気味な外観は、ルシアの戦闘意欲を削ぐことには成功していた。
「苦手なら、下がってていいよ。これくらい、どうってことはないから。ピヨちゃんも危ないからバートたちより後ろに下がってね」
大蜘蛛程度の攻撃力じゃあ、鉄製の防具を貫けないのは先刻承知しているので、落ち着いて鉄の剣を抜き、盾を構えるとシールドバッシュで大蜘蛛の気絶を誘った。
不意を突かれた大蜘蛛がシールドバッシュを喰らって、動きを止める。どうやら、綺麗にシールドバッシュが命中して気絶状態に入ったようだ。
こうなれば、後は急所である胴体部分に向かって鉄の剣を突き込んでいくだけの簡単な作業で終わった。
大蜘蛛が絶命すると【蜘蛛の糸】に変化していた。
【蜘蛛の糸】は、【ロープ】を【丈夫なロープ】にするのに大量に使うので、いくらあっても困らないアイテムである。
大蜘蛛の退治を終えて剣をしまおうとすると、何かがこちらに向けて走り寄ってきているのが見えた。
「ルシア、あれなんだろうか……?」
「毛玉のかたまりですかね? それにしてもずいぶんと汚れてる気がしますが」
こちらへ向かって走り寄ってきている生物は、泥や砂で毛皮が汚れ、元が何であるのかさっぱりと判断のつかない生き物になっている。
「おーい。そこの人達、ちょっと悪いけど、おいら達を助けてくれない?」
「ツクルパパー。毛玉が喋ったー」
謎の四つ足毛皮生物がこちらを見つけると喋りかけてきていた。
今度はピヨちゃんが怖がってルシアにギュッと抱き着いている。
ゲームでは魔物も仲間にできる仕様だったが、喋る魔物は放浪者イベントの魔物と記憶している。
だが、目の前の生物がどんな魔物の放浪者なのか判断できずにいた。
なので、ルシアたちを庇って前に出ると剣と盾を構えた。
「何者だっ!」
「お願い、話を聞いて。おいらの大事な人が死にかけているんだ! 一生のお願いだから、一緒に来て助けて。助けてくれるなら、貴方様の番犬でも何でもやりますから!!!」
謎の四つ足毛皮生物が、足元に跪いて助けて欲しいと懇願していた。
救出イベントか……この場所だと、多分霧の大森林関係……。小鬼関係だろうか。
目の前で助けを求める謎生物をどうするか判断に迷っていた。
訪問者の願いは叶えれば、仲間になったり、様々な助力を得られるので、積極的に叶えておきたいところなのだが。
「ツクルにーはん……この子、困っていそうですね……どうでしょう、この子のお願い聞いてあげて見たら?」
ルシアは地面に頭を擦り付け、助けを求める謎の四つ足毛皮生物に同情したようで、控えめながらも助けて欲しそうな視線をチラチラとこちらに送っていた。
ぐぅ、その眼で見つめられると、俺は抗えねえよ……でも、助ける相手は正体不明なんだよなぁ……。
だが、ルシアのお願い視線を無下にできるほどの冷酷さを持ち合わせていない。
「ルシアのお願いなら仕方ない……とりあえず、助けてやるから、まず名乗れ!!」
助けてやると聞いた謎の四つ足生物がバッと顔を上げていた。
俺にしがみついていたピヨちゃんがビクンと震え驚く。
「ツクルパパー。こわいぃい!!」
ピヨちゃんは一層強くしがみついて来ていた。
「ありがとうございます!! おいらはハチ。ヘルハウンド族のハチと申します。本当にありがとうございます」
魔物が名乗った名前には驚かなかったが、種族名を聞いて腰が抜けそうになった。
「へ! ヘルハウンド!! 馬鹿な! 何でそんな高レベルな魔物がこんな場所にいるんだっ!」
ハチと名乗った魔物が本当にヘルハウンドだったら、大変なことになる。ゲーム中ではレベル五〇を超えの終盤近くで戦う魔物であったからだ。
すぐにしがみついてるピヨちゃんをルシアに預け、庇うように前に出る。
話を聞いていたバートたちも相手がヘルハウンドだと知り、怯えながらも弓を構えた。
今の装備じゃ、一発でお陀仏になる。
マジか……なんで、こんなことに……。
予定外の高レベル魔物の出現に剣を持つ手がカタカタと震える。
今の俺じゃ、ダメージを負わす前に消し炭にされてしまう相手なのだ。
せめて、ルシアたちだけでも逃がせるように俺が盾とならねばならなかった。
しかし、俺の恐怖を嗅ぎ取ったのか、ハチと名乗ったヘルハウンドは前脚を勢いよく振って否定する。
「おいらはヘルハウンドでも産まれたばかりで、そんなに強くないです。おかげで、貴方様に助けを求めないといけない事態に陥ってますから」
ハチの身体は泥と砂で汚れているものの、大型犬程度の大きさであり、終盤に出てきたヘルハウンドとは比べ物にならないほど、みすぼらしかった。
確かに巨大なヘルハウンドの体躯に比べれば、産まれたての子犬程度の大きさと言われると納得できた。
産まれたてでこの大きさだと、成犬になればあの大きさも頷ける。
「……そ、そうか……取り乱してすまない。俺も大事な人を守りたいんでな。そう言えば、名乗らせておいて、こちらが名乗ってなかったな。俺はツクルだ。後ろの子たちはルシアとピヨちゃん。よろしく頼む」
「ヘルハウンドがこんな場所にいるとは、誰も思ってもいないことだし、ビックリした思いますが、ツクル様とルシア様、ピヨちゃんのご厚意に甘えさせてもらいます」
ルシアが後ろから俺の服の裾を引っ張る。
「ツクルにーはん……早いところ、ハチ君の大事なひとを助けにいきましょう……こうしている間にも大変なことになっているかもしれませんから」
「おお、そうだったな。ハチ、案内してくれ」
「合点承知の助っ! ツクル様、おいらの後についてきて。しっかりと案内させてもらいます!!」
ハチが頭を擦り付けそうな勢いで礼を言うと、矢のように飛び出していった。
俺たちはそのスピードの速さに呆気に取られる。
「ツクルパパー。置いてかれちゃうよー」
ピヨちゃんの一声で我に返った俺たちはすぐさまハチの後を追うことにした。
「はぇえ!! ルシア、ピヨちゃん、バート急いで追いかけるよ」
「はい! とっても早いから追い付けるかしら」
へクチっ! ボフッ!
くしゃみと共に大きなひよこになったピヨちゃんがルシアを背中に乗せていた。
確かに、ルシアはそっちの方が早そうだ。
「ピヨヨ! (ルシアママはピヨが運ぶー)」
「オッケー。任せるよ。無理したらダメだからね」
「ピヨヨ! (はーい)」
「疲れたらちゃんと疲れたって言ってね」
ルシアもピヨちゃんの背に掴まると、心配そうに話しかけていた。
コカトリスとはいえ、まだまだ子供なので、体力的に無理はさせる気はない。
疲れたら、バートたちを護衛に残して、俺だけ急行する目算も立てておいた。
「よし、じゃあ。ハチの後を追うぞ」
俺たちは先行したハチを追っかけて霧の大森林へと向かっていった。
ゲットアイテム
【蜘蛛の糸】
新作始めました『成長チートを得た俺は、真の仲間とともにダンジョンの最深部を目指す』です。お時間ありましたら、下部リンクより飛んで頂きご一読して頂ければ幸いです。







