第二十二話 有翼人の集落
鉱山の採掘を終えた俺たちは、そのまま北上し、【テンサイ】の生えている草原地帯まできていた。
早速、前回の時に苗化できなかった【テンサイ】を苗にしてインベントリにしまう。
確かこの近くに有翼人の集落があったよな。
鉱山地帯から北に歩いたこの草原地帯の切れ間に、霧の大森林が横たわっており、その手前に有翼人たちの小集落があったのを思い出していた。
その村も僻地の寒村であるが、森の恵みによって、最果ての村よりはまだ何とか自給できる村だったと記憶している。
手に入れた素材と物々交換で、皮や食料などの日用品を分けてもらおうか……。
村では未だ不足している物が多く、『ビルダー』としての力を使うためには足りない素材も多々あるので、村同士交流して足りない物を補い合うことはよくしていた。
「ルシア、この先に有翼人たちの小集落があるんだけど、そこまで足を延ばしてみようと思うんだ」
「そういえば、うちもおばあさんと霧の大森林抜けて来た時にお世話になりました~。うちの村と同じくらいの規模の村なのは覚えてます~」
ルシアはここから更に霧の大森林を抜けて北上した先にあるレッツェンから、最果ての村まで来ていたため、有翼人の村の存在を知っていたようだ。
「ツクルパパー。ピヨも他の村を見てみたいー」
おんぶされまま、首にすがりついているピヨちゃんが村を見たいといったので、ルシアの方に視線を向けた。
「仕方ないですね~。久しぶりに訪れますが、一応近隣の村なのでご挨拶してきましょうか~」
「やた~!」
ピヨちゃんが俺の背中で喜びをいっぱいに現わしていた。
「じゃあ、もう少し歩かないといけないね。でも、まあ帰りは一瞬で村に着くからいいけどもさ」
「そうでしたね。帰りは歩かなくていいんでした」
【転移ゲート】を持っているので、帰りはゲートさえ設置すれば一瞬で村の広場にたどり着くことができる。
序盤にあると本当にありがたいアイテムだよな。これも。
俺はイクリプスがくれたアイテムに感謝しながら、草原地帯を北上していく。
途中で毛長牛とであったため、ピヨちゃんを安全な場所に待たせて、討伐すると【牛の肉】と【牛の皮】を手に入れていた。
そして、北にむかって歩くと記憶にあった有翼人の集落が視界に入ってきた。
しかし、村からは黒煙が上がり、建物が見えているようにも見える。
「ツクル兄さん、あれって!」
「ツクルパパ~、煙出てる~!」
ルシアとピヨちゃんも黒煙と炎を発する集落に向けていた。
何者かに襲われる? このあたりだと小鬼の集団が集落を襲ってるのか。
ゲームでは魔物たちが村を襲う設定をしてあり、何度も俺の作っていた都市に魔物が押し寄せることがあった。
あの煙はそういった襲撃が行われている可能性を示唆しているのだ。
ルシアとピヨちゃんをどうする。まだ、装備も整っていないし、無理をさせるわけには。
「俺が様子を見てくるから、ルシアたちは【転移ゲート】の近くで待っててくれ」
「でも、ツクル兄さんが!」
「ピヨちゃんを危ない場所には連れていけない。悪いけどルシアが守ってあげてくれ。頼めるかい?」
「ツクルパパー。ピヨも行くー!」
「今は危ないからダメ。ルシアママとここでお留守番しててくれ。俺が先に様子を見てくるから」
おんぶしていたピヨちゃんをルシアに手渡すと、天井と周囲を土ブロックで囲った中に【転移ゲート】を設置すると【木の大扉】も設置する。
簡易的な転移の祠として作り、ルシアたちに魔物が襲いかからないようにしておいた。
小鬼程度なら破壊されることはないので、中に入るように促す。
「さぁ、二人とも入ってて。俺が開けていいと言うまで開けちゃダメだよ」
「ツクル兄さん!」
「大丈夫、危ないと思ったら逃げてくるから。それに小鬼程度だろうし。じゃあ、行ってくれる」
それだけ言い残すと門を閉めて、黒煙と火災が発生している有翼人の集落へ向けて駆け出していた。
有翼人の集落は木の柵があるだけの貧弱な作りになっていたはずだ。
小鬼に襲われて柵を破られたか。
辺りに警戒しながら集落へ近づいていくと、集落を囲っている柵が破れ、略奪されたような跡が家々に残っていた。
やはり、小鬼たちの襲撃があったのか……。
略奪が行われたあとが垣間見えたため、インベントリから【木こり斧】と【弓】を出して装備する。
足音を立てないように慎重に集落に近づいていくと、広場とおぼしき場所に住民である有翼人家族と襲撃した小鬼たちが集まっていた。
大柄な小鬼はゴブリンリーダーか。数は見える範囲で七人。
有翼人の家族は男三人に女性四人、子供が三人か……。皆、縛られて数珠繋ぎされてるのを見ると、小鬼たちの集落の奴隷狩りか。
小鬼たちは自らの集落を作ることはせず、周囲の集落を襲って人を攫い、その人々を使い自らの集落を作らせるはた迷惑な魔物であった。
「グヘヘ。今回は大収穫だな。喰い物もあった。奴隷も手に入れてた。俺様たちもっと数増やせる」
ゴブリンリーダーが有翼人の女性の顔を品定めするように見ていた。
周囲では配下の小鬼たちがけたたましい笑い声をあげている。
すでに、住民たちは襲撃を受けた際に怪我を負っている者もいるようで、血で汚れている者も何名かいた。
住民たちのまわりにリーダーと配下が三人。奥に二人いて略奪品を荷車に乗せてるな。もう一人は周囲の警戒をしているな。
敵の位置取りを頭の中に入れていく。
一人で多数の敵と戦う場合は、気付かれないように一体ずつ仕留めるのが鉄則だ。
俺は音を立てないように民家の屋根の登った。
高所に陣取ったことで改めて、追加の敵がいないか索敵する。先ほど、見つけた敵以外はいないようだ。
これなら、やれるな。住民たちを救出しないと村が壊滅してしまう。
眼下の有翼人の村は、三軒の民家と畑、そして周囲をかこう木の柵で出来ている村だ。内情は最果ての村とさほど変わらないと思うが、霧の大森林からの恵みもあり、食料は豊富そうであった。
だが、ここは霧の大森林に住む小鬼たちがすぐに襲ってくるんだよな。
有翼人の村はゲーム内でもよく襲撃される場所で、霧の大森林で繁殖した小鬼たちが集落分けの際に襲撃してくるのだ。
最悪、うちの村に招いてもいいかもな。それを彼らが望むならば。
絶えず小鬼の襲撃に怯えて暮らす彼らが望めば、うちの村に移住を促しても良いと思う。
畑が完成したことで食料の確保の目処は立っているし、防壁もこの集落とは比べ物にならないほど頑丈に作ってあるからだ。
判断は助けた後で本人たちに決めてもらおう。村を見て気に入ってくれれば、そのまま住んでもらえばいいし、気に入らなければこの村の防壁だけパワーアップさせてあげればいいかな。
救出後のことを決めたため、俺は【弓】を手に取ると、巡回警戒している小鬼が広場から見えない建物の陰に入った所で狙撃を決める。
放った【矢】は小鬼の頭にヒットし、一射で即死させた。
素材の回収は後だな。
そのまま、奥の家の略奪をしている二人の小鬼に狙いをつける。
一人目が家から出たところでヘッドショットを狙い、狙い通り撃ち殺すと、続けざまに二射目の準備をして荷車から戻ってきた奴の頭に【矢】を生えさせた。
ふぅ、ゲームで【弓】の練習しておいてよかったぜ。
【弓】の狙撃は距離等の影響を受けるため、狙いの付け方に癖があり、今回はゲームで培った経験が生かされた形であった。
三人の小鬼を始末し、後は広場に陣取る者たちだけになったので、インベントリから【小石】を取り出すと、左端にいた小鬼の近くに転がしてやる。
【小石】の転がる音に気が付いた小鬼が周囲を見渡し、俺のいる方の建物に近づいてくる。
すぐに【弓】から【木こり斧】に持ち帰ると、広場の視界が切れたところで、屋根から飛び降り、音を立てぬように、そっと背後に降り立つと小鬼の首を掻き切る。
切られた小鬼は白煙とともに素材化していた。
村を襲わなければ、殺されなかったのにな。すまんが自業自得だ。
村を襲う魔物に対し躊躇は一切感じない。下手に生き残らせれば、逃げた奴が仲間を連れて大挙してくるのはゲーム学んでいた。
『殺るのであれば徹底的に』が、俺の信条だ。
ゲームでも徹底していたが、今回は自分が暮らす世界であるため、より徹底しておきたい。
残り三体になったので、広場に近い建物に移動していく。ゴブリンリーダーはまだ、配下を倒されたことに気が付かず、有翼人の女性に下卑た言葉を浴びせていた。
「お前らは俺の相手してもらうからな。精々楽しませてくれよ。いっぱい俺の子を産ませてやるからな。げへへ」
下種な言葉を使いやがって、これだから小鬼たちは好きになれねえ。
女性にも相手を選ぶ権利ってのがあるんだ。それを暴力を相手を縛り付けて服従させようって腹が気に入らねぇ。
怒りで腸が煮えくりかえる俺と怯える有翼人の女性の視線が一瞬合った。
すぐにジェスチャーで首を掻き切るポーズを見せると、相手も理解したようだ。
ゴブリンリーダーを一気にやって、狼狽した小鬼を始末するか。
倒す順番を決めた俺は、ゴブリンリーダーが女性の顔から手を放すのを見計らい、建物から飛び出す。
「お前らの悪行はそこまでだ! 村を荒らす奴は俺が許さん」
「んんっ! 誰だ、てめえ――」
声に反応して振り返りかけたゴブリンリーダーの首が【木こり斧】によって身体から切り離される。
突如現れた俺に驚き、硬直している小鬼に向けて、【木こり斧】を投げると同時にインベントリから【石の剣】を出しても一人に投げる。
首に【石の剣】と【木こり斧】を生やした小鬼がドサリと仰向けに倒れた。
よし、殲滅完了。ふぅ、さすがに今の装備だと囲まれると死ぬからな。
村に帰ったら、そろそろ本格的な装備作らないと。それには皮製品が作れるようにしないとな。
次に村に作るべきものを決めると、囚われていた有翼人たちの縄を解いていくことにした。







