第一話 クリエイト・ワールド
目覚めると、俺はそよ風の吹く草原のど真ん中で寝転がっていた。
女神が保証したように赤ちゃんプレイを避けることはでき、転生前と同じように、ついさっきまでお世話になっていた自分の身体だ。
顔ももちろんあっちにいた時と同じように、うだつの上がらなそうな顔に違いない。
ただ、衣服だけは西洋風のチュニックみたいな布の服で、動きやすくはあるが、着慣れていないため、肌ざわりが気になった。
やがて、転生のショックもおさまり、落ちついて辺りを見回すと、ゲームで見慣れた大きな木槌が一つ転がっているのと、桃のような果物が三つだけお供え物のように置かれている。
完全にコレって『クリエイト・ワールド』のオープニングと同じ状況だ……マジでゲームの世界に転生しちまったのかよ……。
憧れていたゲームの世界に転生したことで、俺のテンションはかなりハイになっていた。
すかさず木槌を手に取ると、空中に装備画面が表示されていた。
これも、完全にゲームと同じ仕様となっており、空腹を紛らわすための食料であるモモノ実をインベントリにしまい込む。
>【木槌】を入手しました。
>【モモノ実】を入手しました。
「おお、拾得物が目の前に表示されるのまで再現されているとは……あの女神やりおる」
次に勝手知ったるインベントリを開くと、中には、あの胡散臭い女神が言っていた初心者大満足ツールである【ゴーレム生成器】と、【転移ゲート】がしまい込まれていた。
この二種類のアイテムは、序盤では絶対に手に入らないレアアイテムだ。
建物建設や素材集めのお手伝いをしてくれるゴーレムを作り出せる【ゴーレム生成器】と、一対になったゲートで、設置した場所の距離をゼロにする通称『ドコデモゲート』と呼ばれる【転移ゲート】が最初からあるとかチート過ぎるでしょ。
けどこれで、序盤から色々と楽ができるような気がしている。
とりあえず、あの女神には感謝だけはしておいてやろうと思う。
女神からの贈り物に感謝していると、一点だけゲームとの差異を見つけた。
ありがたいことにインベントリにしまい込んでおけば、物の重量は加算されないようで、その点はインベントリのアイテム重量制を採用していた『クリエイト・ワールド』の仕様とは違う点だった。
この世界が女神の言う通りゲームと同じであれば、基本的に自給自足の生活ではあるが、自分の思い通りの世界が構築できるかもしれないという魅力の前には、転生イベントなど通過儀礼に過ぎない。
「確か、ゲームなら近くに寂れ果てた村あったはず。ゲームはあの村を基点に壮麗な都市を作り上げたもんな。困窮している村を発展させるとか萌えまくるシチュエーションが俺を待っているぜ。まずは、その村で自給自足をできるように素材を集めることにしよう。よっしゃあ! 今日から俺はこの世界の最強の都市を建設するビルダーになるっ! そして、ゲームで作った世界最高の都市の再現をしてやるんだっ!」
自分が望んだゲーム世界に転生したことで、この世界を徹底的にやり込み尽くしていくことにした。
ゲームの知識もある、ビルダーとしての力もある、寿命はどれくらいあるのか知らないが、命ある限り、この世界を作り変えることに邁進していこう。
決意を新たにしたことで、足取り軽く、寂れ果てた村があると思われる場所に向けて歩き出した。
三〇分ほど歩くと、ゲームで見覚えのあるボロボロの小屋が見えてきていた。
村へと向かう途中にある猟師小屋だったと記憶している。
やはり、この世界は『クリエイト・ワールド』を模した世界だと思われ、ボロボロの木でできた猟師小屋の中には、煮炊きに使う【焚き火】がセットされていた。
これは、色々な食材を焼いたり、煮たりするのに重宝する道具で、空腹を満たすための食事を作るには、大変に重要な道具となっていた。
休憩場所に到着したので、一度キチンと自分の力を認識することにした。
万が一、ゲームの仕様と違っていれば、異世界改造計画が頓挫してしまう可能性があったからだ。
「まずは重要物資の木材の調達だな。よし、あの木で試してみよう」
背中に背負った木槌で、近くに生えている青々と茂った大木をぶっ叩いてみた。
ドンッ! ずっしりとした手ごたえが木槌の柄に返ってきたが、木は何の変化を見せてはいなかった。
そういえば、木槌では二回叩かないと木を素材化できなかったな。もう一発殴ればいいか。
再度、木槌で木をぶっ叩く。
ドンッ! ボフッ!! 木槌によって叩かれた木から白煙があがり、木が消えると薪のような形に変化した【木材】が地面にドロップされていた。
「おぉ、変化した。これはゲームと同じだな。となると、地面は……」
木槌を地面に振り下ろす。
ドンッ! ボフッ!! 白煙と共に土色の立方体が地面から飛び出し、叩いた部分が空洞化していた。
「マジで『クリエイト・ワールド』と同じだ。確認のため、石も叩いてみるか」
更に確認作業をするために、近くに飛び出ていた拳大の石に木槌を振り下ろす。
ドンッ! ボフッ!! 白煙が消え去ると丸い石に変化して地面にドロップされていた。
即座に生成された三つの素材をインベントリにしまい込む。
>【木材】を入手しました。
>【石】を入手しました。
>【土】を入手しました。
これで、素材が充足されて色々と作成可能になったと思われる。
そのチェックのためにステータス画面を開いてみた。
ツクル 種族:人族 年齢:23歳 職業:ビルダー ランク:新人
LV1
攻撃力:12 防御力:11 魔力:5 素早さ:7 賢さ:8
総攻撃力:22 総防御力:13 総魔力:5 総魔防:8
解放レシピ数:30
装備 右手:木槌(攻:+10 左手:なし 上半身:布の服(防:+1) 下半身:布のズボン(防:+1) 腕:なし 頭:なし アクセサリー1:なし アクセサリー2:なし
うむ、ドノーマルなビルダーでした。本当にありがとうございます。
もっと凄いチート能力があるかもとか思った俺をぶん殴ってくれるステータスでした。
でも、まぁゲームの知識さえあれば、この世界での生活は、どうにかなると思われるので気にしないでおこう。
手っ取り早く魔物を倒してLVガンガンを上げて行くのもいいが、せっかくの転生生活。
ゆっくりと地道に成長していくのも悪くはない。
村まで行けば風雨をしのぐ場所はあるから、まずは食料と水の自給体制の確立が緊急の課題だな。
そのためには、まず魔物を狩って食材や素材を集めなければならない。武器が必要だ。
早速、武器を製造するための作業台を生成することにした。解放されたレシピの中から石の作業台を選択する。
【石の作業台】……石器武器・道具の製造可能 消費素材 石:7 木材:7
ポップアップで表示された素材を集めるために、猟師小屋の近隣の石と木を木槌で叩きまわって素材を集める。
そして、集め終わると素材が足りずに、灰色だった【石の作業台】の表示文字が白く変わった。
よし、これで作れる。
ポップアップされた画面に意識を集中するとボフンと白煙が上がって、石でできたテーブルのような作業台が小屋の前に現れていた。
「やはり、ゲームと同じ仕様か……ならば、序盤はウサギちゃんや牛ちゃん狩りだな。序盤の皮素材は貴重品。うまくすれば、肉もゲットできるはず。そのためには、まず【石の剣】と【弓】を作らねば、あと【矢】いるなぁ」
必要な物が決まったので、素材の量を確かめるために各レシピを確認する。
【石の剣】……攻撃力+20 付属効果:なし 消費素材 石:5 棒:3
【弓】……攻撃力+10 付属効果:なし 消費素材 木材:2 つる草:1
【矢】×5……攻撃力+5 付属効果:なし 消費素材 石:1 棒:3
必要な素材を確認し終えると、猟師小屋の近場を探索して素材を集める。
【石】、【木材】に関してはすでに十分に手に入っているので、地面に落ちた枝を叩くと出る【棒】と、崖の近く自生している【つる草】を入手した。
素材が集まったので、作業台で武器の製造を始める。
【石の作業台】に意識を集中すると生成できるレシピが表示されていく。
その中から作成できる【石の剣】、【弓】、【矢】を生成した。
ボフっと白煙を上げると作業台の上に武器が現れる。
ビルダーの持つトンデモ能力のおかげで、物の製造過程がすべてショートカットされるのだ。
武器も調達したし、これで少し遠出ができるな。
余った【木材】で木槌を大量に製造しておこう。
消耗品だからたくさん持っておかないと、いざという時に叩いて素材化できないからな。準備を怠らずにやっておくべきだ。
俺は序盤の貴重な資源となる【木材】、【石】、【つる草】、【棒】を大量に集め終えると、猟師小屋も解体していく。
この猟師小屋の素材も寂れ果てた村を発展させるための大切な建材として再利用させてもらうのだ。
序盤は物資集めが大変だが、女神の贈り物があれば、何とかなるだろう。
猟師小屋の解体で得た【レンガ】、【木の壁】、【木の屋根】、【焚き火】をインベントリにしまう。
クゥウ~。腹の虫が鳴った。
作業台製作、武器製造、素材集めまでを一気に行ったために、知らぬ間に空腹になっていたようだ。
空腹を満たすため、インベントリから【モモノ実】を取り出して食べる。
甘い果汁が口内を潤していくと同時にお腹が膨れていった。
「美味いなぁ……早いところ自給できるようになりたいが……今のところは落ちている実を拾い集めるしかないなぁ」
芯の部分まで食べ尽くし、腹を満たしたことで村に向かう準備は整った。
ゲットアイテム
【木槌】【モモノ実】【木材】【石】【土】【つる草】【棒】【石の剣】【弓】【矢】【レンガ】【木の壁】【木の屋根】【焚き火】【石の作業台】を入手しました。