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第十七話 放浪者

「ひよこ?」


 黄色いくちばしが見えたことで、白く丸い物体が卵であることが判明し、中にヒナがいることも分かった。


「ひよこだったら、殻を破いてあげないと。通常は親鳥が卵をつついて割るのを手伝うだろうし。このままだと、この子は死んでしまいますよっ!」


 ヒナがいることを知ったルシアが、慌てて卵の殻を割り始めていた。ベリベリと一心不乱に卵を割り続けていく。


「俺も手伝う」


 俺も目の前のヒナが死んでしまうと聞かされて、思わずルシアを手伝って卵の殻を割り始めた。


 ピヨ、ピヨ。


 半分ほど卵の殻が割れたところで、ヒナの鳴く声が聞こえてきた。


 割れた殻からチラリと顔をのぞかせる。


 あきらかにニワトリのヒナにしては身体がデカイ。何だか嫌な予感が脳裏をよぎった。


「わぁああっ! ツクル兄さん! 大きなひよこちゃんです~。あぁ、うちを突いても何も出てきませんよ」


 巨大な体躯のひよこがルシアのことを親と思って突いていた。


 そして、おおきなひよこは俺のことも親と思い、黄色いくちばしでツンツンと腹を突いてくる。


 その仕草はとても可愛いし、癒されるのであるが、問題はその巨大な体躯であった。


 絶対にこのデカさはニワトリ以外のひよこだ。ダチョウかそれとも大ニワトリか……。


「この子は鳥系の魔物なのは間違いさなそうですけど…うちも、こんなにデッカイひよこちゃんは初めて見ます~」


 ルシアも卵から孵ったひよこを見て首を傾げている。


 その間にもひよこが、残りの殻を自分で割り、卵から転がり出てきた。


 大きさは体長二メートル近いひよこだ。


 濡れていた毛はすでに乾き始め、黄色いモフモフした毛となり、その愛くるしい姿は保護欲を刺激してきていた。


 癒し系のひよこだ……猛烈に一緒に暮らしたいぞ。毎日、ひよこをモフれることで日々の疲れを癒せそうだ。


 くりくりとした黒目で俺とルシアを交互に見ているひよこは、完全に俺たちを親だと思っているみたいであった。


 ん? 尻尾が生えているのか……?


 よく見ると体長二メートルのひよこには小さな尻尾が生えていた。


 目を凝らして見ると、それは蛇の頭を持っており、ウネウネと動いていた。


 ……ふぇ!? ふぇぇえええぇえぇっっ!!! これってまさかっ!! コカトリスのひよこかぁああ!!


 びっくりして腰が抜けそうになった。ひよこの正体は、コカトリスだったのだ。


クリエイト・ワールドでは、コカトリスの石化ブレスで何度も石化させられて仲間が葬られていった苦い思い出が蘇ってくる。


 確か、魔物レベルは50以上でヘルハウンドやフェンリルといった最終盤で現れるはずの厄介な魔物のはずだったのだ。


「ル、ルシア……どうしよう。この子はコカトリスだ」


「あらまぁ。珍しい種族のひよこちゃんですね~」


 ルシアはコカトリスと聞いても驚きもせずに、ひよこの頭を撫でている。


 ピヨ、ピヨ、ピョオ!


 どう見ても、刷り込み効果でルシアと俺を親だと思っているようだ。


 そして、俺にも甘えるようにフワモコの身体を摺り寄せてくる。


 ぐっ、可愛い……この可愛さ犯罪級だ。けれど、コカトリスのひよこ……だが、すでに親になっている。

 

 身体を摺り寄せるひよこの頭を撫でると、乾いた毛がふわふわになっていた。


「この子、うちらを両親だと思ってますよね? ホラ、こんなに可愛いんですよ。ピヨちゃんが大きくなったら、きっと卵を産んでくれるし、村の食材の確保にも貢献してくれる思うですけど。ツクル兄さんダメですかね~」


 ルシアはすでにフワモコ生物であるコカトリスのひよこに取り込まれたようだ。


 猛烈に飼いたいアピールを俺に向けて送ってきている。


 しかも、もう名前まで決めているようだった。


 確かにニワトリの親戚だから、卵も産むだろうが……。


 だが、ルシアよ。その子はコカトリスの子供なんだ……大きくなったら、毒のブレスとか石化ブレス吐いて、みんなに迷惑をかけちゃうかもしれないんだぜ。


 そう、伝えてやりたかった。


 けど、どうしてもルシアの悲しむ顔を見たくなかったのと、親として俺に懐いてくれているピヨちゃんを見捨てることができず、俺はコカトリスを村で飼うことに決めた。


「わかった。ピヨちゃんは村で一緒に暮らそう。エリックたちには俺からキチンと事情を話すよ」


 とりあえず、毒のブレスと石化ブレスはお家では吐かせないように教育しておかないと……朝目覚めたら、石化していましたじゃ、笑えない。


「……この子はコカトリスの子供だから、飼育には細心の注意を払うようしないと。ピヨちゃんも毒と石化の息は吐かないこと、これだけ守れるか?」


 ピヨ、ピピピヨ!!


 コカトリスのひよこは人語が理解できるようで、俺の言葉を聞いて羽で敬礼を返してきていた。


 賢い子だ。これなら、むやみやたらと毒のブレスや石化ブレスを吐かないかな。


「ピヨちゃん、ツクル兄さんとのお約束はちゃんと守らなあかんよ」


 ピヨヨ!


 ルシアは、体毛が乾いてフワモコ生物になったピヨちゃんを抱きしめてハグしていた。


 ルシアだけハグしてずるいな。俺もピヨちゃんをハグしたいぞ。


 そんなことを思いながら、ピヨちゃんに近づくとログが点灯した。


 >ピヨが仲間になりました。


 ピヨ 種族:コカトリス族 年齢:1歳 職業:魔物 ランク:新人


 LV1


 攻撃力:8 防御力:8 魔力:4 素早さ:8 賢さ:4


 総攻撃力:8 総防御力:8 総魔力:4 総魔防:4


 特技:くちばし(攻:+5)


 装備 右足:なし 左足:なし 身体:なし 頭:なし アクセサリ1:なし アクセサリ2:なし


 さすがにLV1なので毒のブレスや石化ブレスは覚えていないようで助かった。


 それとどうやら、ピヨは魔物系の放浪者だったらしい。


 昨日設置した【イクリプスの女神像】が、すでに仕事をしてくれていたようだ。


 クリエイト・ワールドでは、放浪者と呼ばれる主人公の仲間になる、住民とは違ったキャラクターが訪れるイベントがあるのだ。


 今回は魔物であるピヨがイベントのキャラクターであったのかも知れない。


 放浪者イベントが魔物系だったは初めてだ。ゲームでは特殊な技能を持ったキャラクターが訪れていたが、人間系がすべてであった。


 今回のように魔物系の放浪者が卵のまま移動するというのは、稀なケースであろうと思う。


 俺は仲間になったピヨの羽根を撫でていた。



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