第十六話 霧の大森林で伐採
昼食後、俺はルシアとともに『収集くん』の数を増やそうと、霧の大森林に来ていた。
ついでに農地に植える果物や野菜などがあれば苗化させて持ち帰ろうとも思っている。
農地ができた今、喰えそうな物は片っ端から苗化して村に持ち帰り、栽培をして増やした方が収集するよりも断然に効率がよくなるので、ルシアにも食べれそうなものがあったら、俺に言うように言ってあった。
「ツクル兄さん。ハーブと野菜がみつかりましたから、苗化してくれますか~」
霧の大森林の入り口付近で何か発見したルシアが俺を呼ぶ。
あまり村から出歩いた事のないと言っていたルシアだが、レッツェンにいた時は祖母とハーブや野菜の採取をしていたそうで、お腹の空いていない状況であれば、キチンと見分けが付けられるらしい。
俺と出会った時は空腹でなおかつ小鬼に追われているという極限状態だったため、採取する物を見つけられなかったそうだ。
食料が確保され、村が落ち着いたことで、ルシアも落ち着きを取り戻し、本来持っている採集の知識を発揮してくれていた。
「はいよ。どこだい?」
ルシアでは『ビルダー』の力で高速成長する苗できないため、見つけた場所へ俺が出向いていく。
この世界は普通に種を植えたり、苗を植えたりすれば、生育するのだが、『ビルダー』の力はその『生育期間』すらショートカットさせる力を持っていた。
回収できた苗は【玉ねぎ】と【薬草】が二つだ。
【薬草】はそれ自体を食べれば、体力を回復させる効果を持つ草だが、【調合器具】を作ると更に体力を回復させる効果をもつ【回復薬】になる素材であった。
戦闘で傷を負うこともあるだろうし、【薬草】栽培は是非とも軌道に乗せておきたい。
俺は苗化した【たまねぎ】と【薬草】をインベントリにしまうと周囲の捜索に戻る。
村を発展させるには、未だ色々な素材が不足しているのだ。
特に序盤の最需要物資である【木材】の需要は、これから急ピッチで増加していくと思われる
霧の大森林の入り口付近に到着すると、【木こり斧】を装備して、【木材】を切り出すことにした。
「ルシア、俺はしばらくここで【木材】を切り出しているから、見える範囲で素材化できそうなものを探しておいてくれるかい? ただし、魔物が出たらすぐに呼んでくれよ」
「はーい。じゃあ、うちは近くでハーブとか探してますね~」
「気を付けてくれよ」
「はーい」
ルシアは近くで素材探しを始めた。
ルシアを見送った俺は【木こり斧】を装備して、周囲の木をバッサバッサと切り倒していく。
戦略物資である【木材】は幾らあっても困らないが、霧の大森林が無くなるほど切り倒すのはまずいので、しばらくの間。必要となる分だけを確保しておく。
防壁のバージョンアップもしたいし、民家も作業小屋も作りたいし、【木材】結構使うんだよな。
『収集くん』たちに【木こりの斧】を持たせて木を切り倒させて、村まで運んでもらった方がいいかな。
もう少し数が増えたら、一部の『収集くん』に木こりをさせるか。
作業用ゴーレムである『収集くん』は素材化こそできないが、木を切り倒して持ち帰ることはできるので、数が増えたら木の運搬係もやってもらおうと思う。
そうやって考えながら、次々に【木こりの斧】で木を【木材】に変化させていく。
そして、そろそろ予定数が集まろうとした時、ルシアが警告を発していた。
「ツクル兄さん! 敵です~! 小鬼とスラッジスライムがいっぱい来ます~!」
ルシアの声の方に視線を向けると、小鬼とスラッジスライム達の集団に遭遇した。
小鬼たちは何か大きな丸い物を運んでいる様子だったが、俺達の存在に気が付くと錆びた武器を抜いて襲いかかってきていた。
敵意を見せた相手に手加減する気はないので、【木こりの斧】を片手にルシアの近くに駆け寄る。
敵の数は小鬼が六体、スラッジスライムが四体の計一〇体の魔物だ。
数ほど多いものの、怯えるほどの敵ではなかった。
「ルシアはスラッジスライムを頼む。俺は小鬼を片付ける」
「はい! スラッジスライムは、うちに任せてください~」
ギュッと【樫の杖】を握り直したルシアが呪文の詠唱を始めていた。
威力の上がっているルシアの炎の矢なら、スラッジスライム程度なら、一撃死だ。
小鬼六体となると俺が前に出た方がいいな。
「前出る」
ルシアの詠唱の邪魔にならないように魔物たちの前に出ると、自らも【木こりの斧】を構えて吶喊する。
小鬼達は運んでいた丸い物体を地面に置くと、錆びた武器を手にして踊りかかってきていた。
ガキッ!
ゴブリンが振り下ろした短剣を【木こり斧】で弾き返すと、隙のできた脇腹めがけて斧で切り裂く。
わき腹をバッサリと切り裂かれた小鬼が身体をビクビクと激しく震わせると、断末魔の叫びをあげて絶命していた。
「今なら見逃して――」
人のセリフを邪魔するようにいきがった小鬼が斬りかかってくる。
サイドステップで軽く突進を避けると、背中をバサリ切り裂いた。
「人の話はキチンと聞いた方がいいな。で、お前らは戦うのか? 戦わないのか?」
戦闘力の違いを見せつけた俺に、後ずさりを見せたを小鬼に対し利き手ではない左手に斧を持つ。完全に相手を舐めた格好を晒していた。
挑発されて怒ったのか、小鬼が一人斧を振り上げて突っ込んでくる。
そのゴブリンの突撃をさっと左に交わすと足を引っかけて転倒させ、無防備な背中に左手の斧で両断した。
小鬼が身体を震わせると絶命して白煙と化す。
無残に絶命した仲間を見た他の小鬼達が、あとずさりを始める。
「逃がしはしない。悪いがお前らには『収集くん』の材料となってもらうぞ」
逃げ出そうとしていた小鬼達に、俺の【木こりの斧】の斬撃が次々に襲いかかっていく。
ある者は首を飛ばされ、ある者は身体を縦に両断され、ある者は四肢を切り飛ばされて動くなくなった。
そして、あっという間に小鬼は残り一人となり背中を見せて逃げ出していた。
そこへ、スラッジスライムの討伐を終えていたルシアの炎の矢が命中し、身体を燃えあがらせて絶命した。
「素晴らしい! さすがルシアだ! ちょうどいいタイミングだったよ」
「ツクル兄さんも何だかとってもかっこいいです~」
斧についた小鬼の体液を血振りしていた俺をかっこいいと、ルシアが褒めてくれた。
運動はそれなりにしかできないが、ゲームで相手の攻撃範囲を知っているからこそ、この世界でも戦闘における優位を確保できているのだ。
退治した小鬼とスラッジスライムが素材化して、【ゴブリンの骨】、【魔結晶の欠片】、【油脂】変化しているのを、ルシアが集めてくれていた。
細かい気配りができるルシアは、とても良い奥さんとして、引く手あまたの存在になると思う。
住民が増えてこれば、ルシアもきっといい人ができるだろうけど、せめてそれまでは一緒にいたい。
本当はずっと一緒に居たいけども……。
素材を集めるのに一生懸命なルシアを見ていたら、急にいつか居なくなってしまうのではと思ってしまった。
そんな俺の視線に気づいたのか、ルシアがこちらを向いて首を傾げていた。
「ツクル兄さん、どうかされました? それより【ゴブリンの骨】、【魔結晶の欠片】が六個も手に入りましたから、『収集くん』が増やせますね~」
「あ、ああぁ、そうだね」
快活な笑顔のルシアに俺は生返事を返していた。
彼女と一緒にずっと生活したいという気持ちと、異世界人である俺の傍に置いては、いけないのではないかという気持ちが混ざり合っている。
「ツクル兄さん! うちはツクル兄さんのお役に立ちたいんです!」
生返事をした俺の頬にルシアが手を当てて、翡翠色の澄んだ眼で覗き込んできた。
距離が近い……だが、眼を逸らせない……。
神秘的な翡翠色の眼に釘付けにされた俺は、思わず息を止めて魅入ってしまう。
「ごめん、その。ルシアはとっても役に立ってるよ。俺はルシアがいないと結構困るかも」
俺が『ルシアがいないと困る』と言うと、途端に彼女の顔が真っ赤に染まっていた。
「ツ、ツクル兄さんのお役に立てて、うちは嬉しいです! もー恥ずかしい~」
照れたルシアの顔はとっても可愛いかった。
きっと今まで会った異性で一番可愛いと言って過言ではないのだ。
「ありがとう助かるよ。それと、これからもよろしく」
「うちを褒めても何も出てこないですよ~。あ、これ素材です~」
照れていたルシアは、俺からパッと離れ、先程集めた素材を拾い集めると手渡してくれた。
「それにしても、こんなデカイ卵を何にしようと思ったのかな?」
小鬼が集団で担いで運んでいた丸い物体に俺とルシアの視線が注がれていた。
白く丸い物体。何だか見覚えのある形だが、それにしても大きすぎるような気がする。
二人で眺めていると、白く丸い物体にひび割れが生じ始めていた。
それを見たルシアがポツリと呟く。
「これって……何かの卵ですかね?」
「卵にしてはえらい巨大な物体だが……嫌な予感しかしないぞ」
どう見ても普通の鶏の卵じゃないし、ゲームでも魔物の生まれるところなんか見たことないぞ。
白く丸い物体のひび割れがドンドンと大きくなっていく。
そして、穴が開いたかと思うと、黄色いくちばしがチラリと見えた。
ゲットアイテム
【玉ねぎ】【薬草】







