第十五話 農地開墾
開発三日目の朝が来た。
昨日夜はルシアを始めとした村人全員が、シンボルマークとして入手した【イクリプスの女神像】にお祈りを捧げるのを待つという特殊イベントに遭遇したが、ルシアの作った夕食をお供えすると、飯がスッと消えたので、割と食い意地も張っている女神なのかもしれなかった。
そんな感じで夜を過ごし、安全に寝られるようになったことで、俺は女性陣とは別の民家で一人で寝ることにした。
エリックたちは、俺がルシアと一緒に寝ると思っていたようだが、ハッキリ言ってルシアと二人きりで寝たら、色々と大変なことになると思ったので、俺用の寝床ができるまでは、わがまま言って一人寝をさせてもらった。
多分、好きすぎる子と一緒の部屋にいたら、一睡もできない自信がある。
両親ともに共働きで一人っ子だった俺は、寝床の近くに誰かいると気が張って熟睡できないのだ。
みんなで雑魚寝した日は、ハッキリ言って微睡んでいただけで、しっかりと寝れた気がしてなかった。
なので、わがままを言って、一人寝をさせてもらったら、爆睡できて朝からスッキリしていたが、朝起こしにきたルシアからジーっと見られて赤面していた。
朝の食事を済ませると、今日は開墾作業に必要な道具類の作成を始める。
必要な開墾道具は【スコップ】、【鎌】、【クワ】の三種の神器に【ジョウロ】、【木こり斧】、【鉄のつるはし】を加えた六点セットが最低でも必要になってくる。
昨日の鉱石掘りで手に入れた鉱石を製錬したことで、【鉄のインゴット】や【銅のインゴット】も多く生成できたので、一気に開墾道具を揃えるつもりだ。
作成するものを【鉄の作業台】のメニュー画面から選んでいく。
【スコップ】……攻撃力+10 付属効果:自生している草花・野菜・根菜等を掘り起こしてそのまま素材化できる 消費素材 鉄のインゴット:3 銅のインゴット:1 棒:2
【鎌】……攻撃力+15 付属効果:周囲の草花を刈り、開墾用地に転用可能にする 消費素材 鉄のインゴット:2 棒:2
【クワ】……攻撃力+10 付属効果:鎌によって除草された土地を掘り返すことで畑に変化させる 消費素材 鉄のインゴット:4 棒:3
【ジョウロ】……畑に変化した土地に水分と養分を与えることができる 消費素材 銅のインゴット:3 鉄のインゴット:1
【木こり斧】……攻撃力+25 付属効果:切り株や大木、竹を素材化させることができる 消費素材 鉄のインゴット:5 銅のインゴット:2 棒:4
【鉄のつるはし】……攻撃力+30 付属効果:石英、金鉱石、銀鉱石、鉄鉱石、銅鉱石、石炭の素材化が可能となる 消費素材 鉄のインゴット:5 棒:4
素材が足りているので六点セットを連続生成する。作業台の上に白煙とともに現れた開墾道具をインベントリにしまい込んだ。
「これで開墾準備は整ったことだし、村の荒れ地を畑に変えて、食料の自給体制を構築することに邁進しよう。畑ができれば、エリックやモーガンたちに水やりなどを任せて、収穫物を【素材保管箱】に入れておいてもらおう」
道具の作成を終えると、そのまま荒れ地の開墾作業に入ることにした。
防壁で囲った村の中は、民家の周辺以外には、木の切り株や【雑草】、竹などが自生しているままで、とてもじゃないが耕作できる土地にはなっていなかった。
「ふぅ、これは一仕事だねぃ……。でも、まぁ。畑があれば今の住人の食料は十分に自給できるだろうな……」
「ツクル様、本当にこんな荒れ地が畑になるのですか? 『ビルダー』の力を目の当たりしているとはいえ、これほどの荒れ地を畑にするのは一苦労なのでは?」
『収集くん』が夜間の間に収集した素材の選別をすでに終えた、エリックとモーガンが手伝うと申し出てくれたが、これくらいの開墾であれば三〇分もあれば終わるので、傍で待機してもらうことにした。
「ああ、二人は座っててもらっていいよ。開墾後の水やりをお任せしたいからさ」
「は、はぁ……ツクル様がそう言われるなら……」
防壁内の荒れ地から一〇メートル四方分を開墾することにした。
個人で普通に開墾するにはかなりの広さであるが、ビルダーの力を以ってすればすぐに作業を終えることができると思われる。
早速、【木こり斧】を装備して荒れ地に蔓延る切り株や竹を切り伏せていく。
ズバンッ! ズバンッ! ズバンッ!
【木こり斧】によって順調に解体された切り株は【棒】、【木材】に変化し、竹は【竹材】に変化していた。
この【竹材】という素材も汎用性が高く、色々な道具や建材を作る際に活用することが多いので、あるだけ収集しておく。
ほんの数分間、【木こり斧】を振るっただけで、粗方の切り株や竹を除去を終える。
「瞬く間に蔓延っていた切り株と竹が消え去ったぞ。兄者……」
エリック兄弟は何度見ても信じられない『ビルダー』の力を目の当たりにして惚けるしかなかったようだ。
そんな二人をよそに、俺は【鎌】に持ち替えて、荒れ地に自生している草を刈り取っていく。
一振りで自分の周囲一メートルの草がバッサ、バッサと刈り取られていく光景はエリックたちでなくてもポカンと眺めてしまった。
エリックたちじゃないが、改めてビルダーの力は凄いな……草刈り機以上の性能を発揮するじゃねえか……。
【鎌】よる除草はすぐさま終わり、刈り取られた草は、【干し草】と【雑草】に変化していた。
どちらも、家畜用の飼料となるが、ゲームでは【干し草】の方がより家畜の成長を早めてくれる効果があるものになっている。
さっきまで竹や草や切り株が蔓延っていた荒れ地は、瞬く間に整地されて、見通しがとても良くなっていた。
「おぉ……壮観な眺めだな。さっきまで鬱蒼とした荒れ地だったとは思えない光景だ。さて、あとは【クワ】で掘り返して【ジョウロ】で水を与えれば、立派な畑になってくれるぞ」
「これほどの速度で開墾が進むとは……ツクル様は万能すぎるお人だ……」
見通しの良くなった更地を眼にしたエリックが尊敬のまなざしを向けてくる。
最初期の危機的状態であるため、『ビルダー』の能力をフルパワーで行使して開発を進めているが、ある程度以上の規模の都市になってくると住民たちのマンパワーは必要になってくる。
『ビルダー』の力も所詮は個人の力でしかないので、世界に冠する大都市を築き上げるには、人の力を結集せねばならないことは、ゲームで創り上げた都市の三〇〇〇人近いNPCたちが色々な生産品を作ってくれたことで理解していた。
『ビルダー』の力はトンデモチートだが、しょせん一人なので、何千、何万も集まった力と比べれば大した力ではない。
けれど、『ビルダー』の力に何千、何万の人の力が集まれば、とんでもなく凄いことがやれると俺は知っている。
そうして、創り上げた都市でみんなでたのしく笑って、腹いっぱい飯を喰って気ままな生活をしたい。
できれば、その生活の傍らにルシアが寄り添ってくれるのであれば、最高の人生であろう。
「もうすぐ、エリックたちの力も借りることになるさ。まずは腹いっぱい飯が食える村にしよう」
「はい。私たちはツクル様の村づくりを全力でお手伝いさせてもらうつもりです」
「俺も兄者と同じ気持ちだ。ツクル様の創る都市がどんな風になるか見届けたい」
理想とする都市への思いを確認すると、休憩もそこそこに【クワ】を手に持つ。
そして、地面を丹念に掘り返していく。
転生前には農作業などは幼稚園時代に少しお手伝いした程度の経験しかなかったが、振り下ろした【クワ】はしっかりと地面を耕していってくれていた。
ボフッ! 【クワ】で、ある場所を掘り返したら白煙があがり、何かが素材化した。
よく見ると紅い物体だが、見覚えのある食材に思える。
インベントリに収納すると【サツマ芋】と表示されていた。
か、甘味ゲット……そういえば、【サツマ芋】は種芋にして増やすことができるはずだったな。
ちょうどいい、御飯がない現状では貴重な炭水化物の供給源になってくれるはずだ。
偶然に掘った場所で畑に植える物を見つけて、喜びを隠しきれなかった。
残りの場所を開墾していくと【ジャガイモ】も素材化して飛び出してきていた。
どちらも種芋を植えておけば勝手に増えて食べられる食材になる根菜類であり、今後の食生活の向上に非常に寄与してくれるものと思われる。
すべてを掘り終えると、滝つぼから畑に向けて農業用の導水路を引っ張ってきた。
「農業用水も引っぱれたし、【ジョウロ】でのみずやりは二人にお任せするよ。それと、開墾中に手に入れた【サツマ芋】と【ジャガイモ】は種芋として植えておく。『ビルダー』の力で開墾した畑だから、大体三日で収穫できるようになるから、畑の管理は任せるよ」
エリックとモーガンに【ジョウロ】を渡すと、種芋として【サツマ芋】と【ジャガイモ】を畑に植える。
「水やりですか。お任せください。収穫は三日でできるんで――ええっ!!! 三日!? どんな成長スピードですか、それ!!」
三日で生育して収穫できると聞いたエリックたちが、目を剥き出しにして驚いていた。
ゲーム準拠な世界なら、『ビルダー』の作った畑の生育スピードは素晴らしく早く、通常の畑の一〇倍から二〇倍近いスピードで収穫できるはずだ。
穀物生産がある程度の軌道に乗れば、この村も飢餓に陥ることは回避できるだろう。
俺は三〇分前まで荒れ放題だった場所にできた農地を見て満足していた。
【スコップ】【鎌】【クワ】【ジョウロ】【木こり斧】【鉄のつるはし】【竹材】【干し草】【雑草】【サツマ芋】【ジャガイモ】
都市開発状況
都市名:最果ての村
発展LV2(NEW)
人口:5
ゴーレム:4
主要施設:民家×3 ゴーレム生成器×1 素材保管箱(木製) 水路 水浴び場 イクリプスの女神像 製錬炉
防壁:土塁(水掘あり)×二〇メートル四方
門:木製の大扉×1
農地: 2/10 ジャガイモ(NEW) サツマ芋(NEW)







