第十三話 水路開削事業
夕食後は体調を回復させたエリックたちと今後の村の開発方針を夜更けまで話し合った。
・村の北側の崖地から水路の開削
・畑用の開墾
・沐浴場の設置
・製錬炉の設置
以上の四点を最重要として早急に開発することを決めた。
そして、翌日となり、完全に体調を回復させたエリックたちが割り振った仕事を開始し始めていた。
エリックとモーガンには、夜間パトロールで素材収集してきた『収集くん』たちの素材の選別をしてもらい、サラとジェミニはルシアとともにハーブ調味料作りを手伝ってもらうことにしていた。
俺は村の北側にある、崖の上の方へ昇っていく。
崖から二〇〇メートルほど歩くと、幅二メートル程度の川がながれており、水量は十分にあった。
遠くに見える山々から流れ出した川のようで、水は透明に澄んで綺麗であった。
地形の方も見てみるが崖までは、ほぼ平らで一直線となっており、迂回させて水を引くより、崖から滝のように流す方が簡単で手間が無いように思える。
「滝つぼのスペースを考えて、飲料水用とシャワー用に分けて作ればいいか……最終的には温泉作りたいなぁ……。暖かいお湯に入浴できないのは個人的に辛い」
濁りのない綺麗な水質を確認したことで、崖上の水路の本格的な工事に入ることにした。
川から少し離れたところの地面を叩いて土ブロックに変化させると、崖の近くまで水路として掘り進めていく。
二〇〇メートルほどの水路であるが、周囲にあった岩石をブロック化させたものを導水路として使用し、更に上に被せて蓋をしておく。
これは落ち葉の堆積や野生動物の死骸の混入による不意の水質汚染を防ぐためであった。
主にこの水路の水は浴場用と畑の水路に使う水なので、水質にそこまで過敏になる必要もないが、疫病などの疾病対策は、初期の段階から取れる対策は取っておいた方が良いとゲームで学習していた。
ゲームの時は急に疫病が蔓延して、原因が水路の汚染水だったというのに気が付くのに時間がかかったが、今回は最初から対策をしておこう。
俺は【石の作業台】を取り出すと、メニューから【水路柵(木製)】を選択する。
【水路柵(木製)】……木材でできた水路柵 耐久値:120 消費素材 木材:2 つる草:2
ボフッ! 生成された【水路柵(木製)】を取水口にはめ込むと、導水路と一体化する。
こうして、水路から魔物が侵入しないように取水口に侵入防止用の柵を取り付けておいた。
後は魔物がこの水路を攻撃しないように、未設置だった土塁を三メートル分積み上げて、近寄らせないようにして、村からそのまま上がって来れるよう崖地を階段状に削っていった。
万が一、水場が襲われても防壁の外に出ずに取水口まで駆け付けられる。
防御的には崖下の防壁より劣るが、防壁に沿って川が流れているため、簡単に魔物も近寄れない場所なので、しばらくはこのままで大丈夫だろう。
取水口が完成したので、今度は崖を繰り抜いた階段を下りて、上から降り注ぐ水を受ける滝つぼをつくることにした。
水路用の水を一旦ためるスペースなので、三メートル四方、深さ三メートルを掘り抜く。
流れ落ちた衝撃で、土が攪拌され水が濁らないよう、導水路と同じように表面を岩石ブロックで覆っておいた。
このままだと誤って転落する奴も出てくるかもしれないから、【木柵】で囲っておこう。
【木柵】……木材でできた柵 消費素材 木材:2 つる草:1
ボフッ! 生成した【木柵】で滝つぼの周りを囲っておく。1メートルほどの高さがあるので、子供でもない限り、よじ登って転落する奴はいないだろう。
滝つぼの安全性を確保すると、次はここに落ちて溜まった水を沐浴用の水と農業の水に分けるように導水路を作る。
浴場を作りたいが今現在の手持ちの資材では立派な物は出来ないため、水浴びができる程度の場所を簡易的に作成し、住民には女性もいるため、猟師小屋を解体した時に手に入れた【木の壁】で周囲を覆って見えないように配慮しておいた。
「ツクル兄さん、頑張ってますね。お水をお持ちしたんで一服休憩されたらどうですか~」
ルシアはハーブ作りがひと段落ついたようで、水路の開削工事の現場に顔を出してくれていた。
手にしていた木のコップの水を飲む。ほのかな甘みとしょっぱさがする水で、汗をかいていた俺の身体にスッと吸収されていく。
「ふぅー。美味い。ありがとう」
こういった細やかな配慮をしてもらえると、俺の中のルシアの好感度が急上昇して突き抜けていく。
「朝から頑張って水路作ってますから、汗をいっぱい書いてるとおもいましたので、【砂糖】と【塩】をちょっぴり入れときました」
完璧である。
すでに木槌によって崖上の取水口設置からの水を受ける滝つぼのスペース、水浴び場まで完成していた。
「ああ、大丈夫さ。木槌さえあれば簡単に掘れるからね。上の川からの取水口と滝つぼ、あと水浴び場までできたよ。水浴び場は将来的には【火山石】を入れて温泉にしようとしているからさ。それにちゃんと見えないように【木の壁】で覆ってあるし、ルシアも安心して入っていいよ」
「ここに水浴び場ですか!? それは本当に助かります~。いつも上の川まで行くか、井戸の水で身体を拭くくらいだったんで、ここで水浴びできるのはとっても助かります~」
ルシアは水浴び場に興味を持ったようで、【木の壁】に隠れた中を覗いていた。
「ツクル兄さんは本当に頼りになる人だわ~。こんなに綺麗に水浴び場を作ってくれるなんて」
喜んでいるルシアの顔を見て、作って良かったと思う。
公衆衛生の観点から、住民には身体の清潔さを保つことの重要さを理解してもらうつもりだ。
都市を作る以上、人口が増えていった時に、不衛生さから疫病が発生すれば、致命傷になりかねないこともあるのだ。
「病気にならないように、身体の清潔さはキッチリと保たないとね」
「サラさんもジェミニさんも喜ぶと思いますよ。いつでも身体を綺麗にしたいって言ってましたし」
「水路さえ流れるようになれば、いつでも使えるから、早いところ作るよ」
「じゃあ、うちは美味しいご飯作ってきます~」
空になった木のコップを受け取ったルシアは、昼食作りに家に戻っていった。
ルシアを見送ると休憩を終えて木槌を担いで、水路開削に戻ることにした。
今度は水浴び場の排水を流すための水路を掘っていく。
水浴び場から崖面に沿って掘り進めた排水路が防壁まで来ると、今度は地下に向かって掘り進めた。
空堀の底よりも予備に五メートルほど深く掘って、横に一〇メートルほど掘り進んだから、これで外堀の下に来ているはず。
深さを確認すると横に向かって掘り進み、空堀の真下の位置と思われる場所にきたら、上に向かって掘り進んでいく。
ボフッ! 生成された土ブロックをインベントリに収納すると、ついに外堀の底に到達することができた。
これで、水掘から魔物が侵入しても途中で息絶える長さになっているだろう。
後は崖上の川からの取水口を解放すれば、滝つぼに流れ落ちて導水路を通って外堀に溜まり、溢れた分は低地の方へ流れていくはずだ。
掘り抜いた水路から出ると、崖の上に行き、水をせき止めていた取水口の前の土を取り除いた。
「エリック、モーガン。そろそろ、流れるぞ! ちょっと滝つぼから離れてくれ!」
素材の選別を終えた二人に声を掛け、滝つぼから下がるのを見届けると、崖の最後の部分を木槌で叩く。
ドンッ! ボフッ! 取水口から流れて導水路を通り、堰き止められていた水が勢いよく飛沫となって崖を飛び出していた。
飛沫となった水が滝つぼに吸い込まれるように落ちていく。
「ツクル様! 水はちゃんと滝つぼに収まっていますよ。水しぶきもそんなに激しく飛んでませんから、ちょうどいいくらいです! これは、凄い……農業用の水ばかりか、水浴び用の水も使いたい放題とは……」
水路が開通したことを喜んだエリックが、滝つぼに落ちる水の様子を下から報告してくれていた。
すぐさま崖の階段を下りて滝つぼの様子を確認する。少し濁りがあるがしばらく流していれば綺麗な水になると思われた。
「よし、ちゃんと流れているな」
「これで、農業にも水浴びにも使いたい放題。こんなに贅沢に水が使えるとは。これもみんなツクル様のおかげ。本当に凄い御方だ」
エリックからの尊敬の眼差しを一身に受けて自尊心がくすぐられていく。
人間、褒められるととても嬉しいのだ。誰かに褒めてもらえるのって案外、モチベーションの維持に大切なのだなと感じていた。
「これはまだ序の口さ。これで、農業もなんとか目処がたちそうだ」
「まさか、こんなに短期間で水路が完成するとは……」
エリックとモーガンは崖上から降り注ぐ水が滝つぼに溜まっていくのを見て、感心しきりであった。
昼食を挟み、滝つぼの水が溜まった後は、水浴び場からの水漏れがないか、排水路が漏れていないかを厳重に確認し、水堀への注水口も岩石ブロックで覆って魔物が侵入できないようにしていた。
排水路を流れた水は、逆サイフォンの原理で水堀へ流れ込み、水堀を満たすと低地に向かって流れ出していった。
これで、水路は開通に成功していた。
ゲットアイテム
【水路柵(木製)】【木柵】
都市開発状況
都市名:最果ての村
発展LV1
人口:5
ゴーレム:4
主要施設:民家×3 ゴーレム生成器×1 素材保管箱(木製) 水路(NEW) 水浴び場(NEW)
防壁:土塁(水掘あり)×二〇メートル四方(NEW)
門:木製の大扉×1







