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第十二話 夕食タイム


 鉱石掘りや夕食の食材と調味料調達を兼ねた魔物狩りを終えて、村にたどり着くと、ちょうど日没となっていた。


 村に帰りつき門をくぐると、木の扉には(かんぬき)をかけて魔物が侵入できないようにしておく。忘れると、夜中に魔物に侵入されて食い殺される可能性があるからだ。


 ルシアの家に向かうと、日中の間に素材収集をしていた『収集くん』たちが、魔素の残量が少なくなったため、魔素充足させるゴーレム生成器の周囲で体育座りをしている。


 背中の籠には『小石』や『枝』の他に【食用キノコ】も結構な量が入っていた。


「結構入ってるな。ルシア、【食用キノコ】はまだある?」


「昨日の残りがまだありますし、ストックしてもらってて大丈夫ですよ~」


「じゃあ、まだインベントリ空いてるからストックしておく。必要なら言ってくれ。それと、今日の夕食の食材も渡しておくね。使い終わったら腐りそうなものだけ、俺に渡してくれればいいよ」


 俺はインベントリにしまっていたハーブ類や【砂糖】、【牛の肉】、【鹿の肉】をルシアに手渡す。


 素材化しているため、ルシアも重みを感じずに持てるが、見た目は数十キロくらいある肉塊を担いでいるようにしか見えない。


 素材化の力は凄いな……。


「これだけあるなら、みんなお腹いっぱい食べられますね。さぁ、頑張って夕飯の支度しないと」


「ルシアの夕飯期待しているよ」


「任せてください~ハーブも手に入ったし、昨日よりは美味しい物が作れると思います~」


 肉塊を担いだルシアが家の中に戻っていった。


 残った俺は、『収集くん』たちが集めてきた素材を籠から取り出して、中身を確認することにした。


「『小石』が三〇個、『枝』が四〇個、【食用キノコ】が一〇個、おっと【ゴブリンの骨】と【魔結晶】が一個、【油脂】が一〇個もあるってことはスラッジスライムが周囲に結構繁殖してたんだな」


 『収集くん』たちが得た戦利品で、更に一体の『収集くん』を増やすことにした。


 ゴーレム生成器に記憶させてある『収集くん』のスペックデータを呼び出す。表示されたゴーレムを選択して生成した。


 そして、四体目の『収集くん』が白煙とともに現れる。これで、更に収集物が増えるであろう。


 ちょうど、他の『収集くん』たちも魔素の充足を終えたようで、起動し始めたので、夜の警備に送り出して門の閂を締めておいた。


 これで、夜の間も魔物と素材を収集してくれるだろう。


 俺は『収集くん』たちが持ち帰った『小石』と『枝』を木槌で【石】と【棒】に変化させていく。

 

 後は、【素材保管箱】を作成しておこう。


 インベントリも結構埋まり始めているから腐らない素材や持ち歩く必要のない物はこっちで保管した方がいいな。


 エリックたちの体調が回復したら『収集くん』たちが集めた素材を収納を頼みたいし。


 【素材保管箱】はインベントリから溢れ出す素材群をしまっておくことができる箱であった。


 ゲームの世界観を引き継いでいると思われるこの世界でも、【素材補完箱】には大量の素材を放りこめると思われた。


 設置した【石の作業台】から生成メニューを呼び出し、【素材補完箱(木製)】を選択する。


 【素材保管箱(木製)】……一〇種類の素材を収納できる木製の箱 消費素材 木材:2


 【素材保管箱】はバージョンアップできる箱で、素材を消費してバージョンアップさせると収納できる素材の種類が増える仕様だ。


 ボフッ! 白煙とともに生成された【素材保管箱(木製)】のメニューを開く。


 素材保管箱(木製)


 収納スペース 0/10


 最低バージョンの木製であるため、収納素材数は一〇種類しか収納できない。


 だが、素材を追加で消費してバージョンアップさせれば、収納数が増える仕様だ。


 とりあえず、腐らずに持ち運ぶ緊急性の低い素材を保管箱に移していく。


【石】、【棒】、【木材】、【鉄鉱石】、【銅鉱石】、【つる草】、【鹿の角】、【樫の古木】、【牛の皮】、【ウサギの毛皮】の一〇種を保管箱に移した。


 素材保管箱 (木製)


 収納スペース 10/10


【石】、【棒】、【木材】、【鉄鉱石】、【銅鉱石】、【つる草】、【鹿の角】、【樫の古木】、【牛の皮】、【ウサギの毛皮】


 これで、保管箱に入れた素材は、入手した場合や生産した場合、自動的にこちらに保管され、消費する場合は保管箱から消費されるように設定された。


「だいぶ、インベントリがスッキリした。後は素材集めて、保管箱の容量を大きくしていくしかないね」


 【素材保管箱】を【ゴーレム生成器】の近くに設置した。


「ツクル兄さん~。ご飯ですよ~」


 設置を終えたところで、ルシアが夕飯ができたことを呼びにきた。


「ありがとう。今ちょうど終わったからすぐに行くよ」

 

 俺はルシアの呼びかけに応じると、夕食を食べに家に戻った。


 ルシアの家の中に行くと、スライスされた【牛の肉】が【ニラ】と一緒に炒められて、木の大皿にドドンと山盛りに盛り付けられていた。


 これが、ルシアが作ってくれた本日の夕食であった。


 それにしても、五人分にしては分量が多いような……。ルシアは健啖家だけど、これはちょっと盛り付け過ぎなのでは……。主に牛肉が……。


 木の大皿に盛りつけられた【牛の肉】は、すそ野に【ニラ】を敷き詰め、積み上げられたスライス肉の山がありえない高さにまで積まれている。


 まさに『肉山』と名付けるべき偉容であった。


「やっぱりまだ調味料が足らないから、こんな手抜き料理になってしまいました。堪忍なぁ。あと、最低でも【胡椒(こしょう)】と【食用油】……。欲をいわせてもらうと【醤油(しょうゆ)】があるともっと料理の幅が広がるんですけど……」


 料理人の祖母に仕込まれたルシアとしては、納得のいかない出来の夕食らしいが、木の大皿に盛られている『肉山』の炒め物からは、猛烈にいい匂いが立ち上って、俺の嗅覚を刺激していた。


「いやいや、これも凄く美味しそうな匂いがしているよ。さすがルシアが作った料理なだけのことはある。さぁ、みんなでいただこう」


 エリックたちもかなり体調が回復したようで、昨日とは打って変わって、座って食事ができるくらいまで回復していた。


「ツクル様、今夜も私たちのために食料を調達してきていただき、感謝の念につきません……皆、ツクル様に感謝をせよ」


 エリックが伏し拝むように礼を述べると、モーガンもサラもジェミニも、そして調達を手伝ったルシアまで頭をさげていた。


 俺としては人様に頭を下げさせて悦に入る趣味をない。


 共同生活を行う上で皆が助け合うのは自然な感情であるのだ。


「みんな頭を上げてください。俺もこの村の住民として生活する上で当たり前のことをしただけですから。遠慮を無用です」


 頭を下げているエリックたちに頭を上げさせていく。


「さぁ、ルシアの料理が冷めないうちに食べましょう」


 俺は皆で食事をすることを勧める。


 すると、エリックの妻のサラがトンデモないことを言いだした。


「ルシアちゃん、ツクル様の隣で給仕してあげて。その方がツクル様も喜ぶだろうし」


 サラは俺がルシアに気があることを見抜いているようで、ルシアに給仕をするように頼んでいた。

 

 確かに嬉しいが、とってもなんだか照れくさい気がするぞ。


「おっと、これは気付かずに失礼しました。そうだね。ルシア、ツクル様の隣に来なさい」


 エリックも妻の言葉で察したらしく、俺の隣の席をルシアのために移動してくれていた。


 その様子にモーガンもジェミニもニコニコと笑っている。

 

 エリックが移動して空いた場所にルシアが座ると給仕をしてくれた。


「お口に合うか分かりませんが、たくさん食べてくださいね。まだ、熱いかもしれへんから、うちがツクル兄さんに、フーフーしてあげます」


 ルシアが大皿の盛り付けられていた炒め物を小皿に取り分けると、湯気をあげる炒め物をフーフーと冷ましたものを箸でこちらに差し出してきた。


「ありがとう。助かるよ」


 ニッコリと笑顔で自分の作った夕食を差し出すルシアの姿にたちまちに魅了される。


 そして、俺は差し出された炒め物を口の中に収めて咀嚼を始めた。


 ああぁ……。美味い……。こんなご飯食べたことないな……。


 咀嚼した牛肉は臭みもなく歯を使わなくてもよいくらい柔らかさで、ちょうど良い塩気と、山椒の爽やかな辛みが食欲を増進させるとともに、ニラのほのかな甘みがアクセントとして絶妙な味を醸し出していた。


 とても、調味料が足りなくて手抜きした料理とは思えないクオリティーの料理に仕上がっている。


 はっきりいって、お店に出してお金が取れるレベルの料理だと思う。それほどまでに美味い料理なのだ。


「うはぁああ、美味いっ!! ルシア、美味しいよ。コレ!! ほら、ルシアも給仕だけしてないで食べてみて」


 自分の箸でルシアの炒め物を取ると、お返しのフーフーをしてあげて、ルシアの口元に持っていってあげる。


 ルシアは差し出された炒め物を恥ずかしそうに頬張ると、モキュモキュと咀嚼を始めた。


 グぅ、カワイイ……。ご飯を食べる姿も絵になるルシアは、天使の生まれ変わりとしか思えないぜ……。


「そうですね。味見しながら作らせてもらいましたけど、案外、ツクル兄さんに食べさせてもらったら、美味しい……。お返しにもう一つどうですか~?」


 ルシアの差し出した炒め物を再び食べて口内で咀嚼する。


 ジャンクフードと言われる食べ物で育ってきた俺だが、このルシアの料理に慣らされてしまうと、ビルダーの力で作る食事では耐えられなくなってしまうかもしれなかった。


 それほどまでに、ルシアの作る料理は俺の胃袋をガッチリと掴んでいた。


 このまま、転生人生を終えるまでずっと一緒に暮らしていきたいとの思いが強くなる。


「美味い……。美味いよ。ルシアもみんなも遠慮せずにいっぱい食べてね。ほら、アーン」


 再びルシアの口元へ炒め物を運んであげる。


 その様子を見ていたエリックたちは、何だかニコニコして楽しんでいるみたいだった。


「美味しいわぁ~。やっぱり、ご飯はみんなで一緒に取る方が楽しいですよね」


「そうだな。一人の食事は寂しいよ。ルシアとエリックたちに出会えたことを神様に感謝しないとな……」


「私たちもツクル様に出会えたことを感謝してますよ。なぁ、モーガン」


「ああ、そうだな兄者。ツクル様と出会えなければ、すでに生きてなかったかもしれないしな」


 エリックもモーガンも人生詰みかけていたところだった。


 俺が転生するのが三日遅かったら、この村は全滅して廃墟になっていただろう。


 そう思うと彼らとの縁の不思議さを感じてしまう。


「そうですねぇ。ツクル兄さんと、出会えたことを神様に感謝しときますわぁ~。神様、ありがとう。フフフ」


 もちろん、このルシアとの縁もなかったであろうし、あの胡散臭い女神は絶妙なタイミングで転生をさせてくれたと思いたい。


 温かい食事をみんなと一緒に食べられるこの瞬間は、俺にとっては至福の時間であった。


 産んでくれた両親には悪いと思うが、転生して本当に良かったと思う。


都市開発状況


都市名:最果ての村


発展LV1


人口:5


ゴーレム:4(NEW)


主要施設:民家×3 ゴーレム生成器×1 素材保管箱(木製)(NEW)


防壁:土塁(空堀あり)×二〇メートル四方


門:木製の大扉×1



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