第十一話 食材の拡充
先程採掘をした鉱山地帯から更に三〇分ほど北に歩くと、なだらかな草原地帯が続く場所となった。
ここにくる途中に山椒の実が自生していたため、木槌で叩くと【粉山椒】に変化していた。
ルシア曰く山椒は爽やかな辛味を与えてくれるようで香りも強く、食材の旨さを引き立てる名脇役として重宝されている調味料だそうだ。
俺が日本にいた時は、小さい頃からコンビニ弁当と冷凍食品で育ってきているので、山椒といわれてもピンとこない調味料だった。
だが、料理番のルシアが喜んでいるなら、たいそう料理を美味しくできる調味料なのだろう。
調味料が揃えば、ルシアの腕で料理が更に美味くなるとのことなので、調味料は見つけ次第、素材化させて持ち帰るつもりだった。
しばらく歩き、無事に到着した草原には、角ウサギや双角鹿に並んで、毛長牛も優雅に草を食んでいた。
彼らには罪がないが、俺達の生きる糧となってもらうことにした。
「ルシア、準備はいいかい?」
「よろしいです~。ツクル兄さんの攻撃した魔物を狙い撃ちすればいいんですよね?」
「そうだね。一匹ずつ確実に屠ろう」
ルシアがコクンと頷くのを確認すると、【弓】を取り出して装備する。
腰を屈めて気配を消すと、ゆっくりと目標の毛長牛に向かい【矢】をつがえて【弓】を引き絞り、そして【矢】を放った。
放った【矢】は見事に毛長牛の首筋を貫いたが、絶命させるには至らずに、ルシアが続けて放った火炎の矢が身体を炎で包んでトドメを刺していた。
思った通り、ゲームと同じで毛長牛は火属性の攻撃に弱いな。魔物もゲームに準拠しているようだし、これなら大ポカしないかぎり、やられることはなさそうだ。
「次行くよ」
「はいっ!」
近くで一緒に草を食んでいた子牛と思われる毛長牛に向かい二射目を放つ。
やはり、威力が足りないらしく、一発で絶命させられなかったため、ルシアの火炎の矢でトドメが刺された。
「まだ、行く。ルシアは角ウサギ狙って。俺は双角鹿を狙うから」
見える範囲にいた毛長牛は倒したので、更なる食材とドロップアイテム確保のため、近くにいた別の魔物を狙うことにした。
「角ウサギでいいのですか? 承知しました。うちは、そちらを退治することにします~」
ルシアが角ウサギを狙って火炎の矢を放つ。
轟音を響かせて必中の矢が飛び出し角ウサギを炎が包んでいた。
魔術の詠唱をしているルシアの姿は一端の魔術師だよな。金髪翡翠眼のケモミミ魔術師……なんだ、この尊い人……。
ルシアの詠唱姿に見惚れながら、俺も【矢】をつがえる。
そして、視線を双角鹿につけると狙いを定め【矢】を放った。
矢は見事に双角鹿の眉間を貫き、一発で絶命させることに成功していた。
そして、俺とルシアが光の粒子に包み込まれる。
>LVアップしました。
LV2→3
攻撃力:16→20 防御力:15→19 魔力:7→9 素早さ:9→11 賢さ:10→12
ルシアも俺と同じようにレベルアップしており、能力値は上昇していた。
しかし、このゲームでの魔術の習得は魔術書で行う仕様のはずなので、【白紙の書】と【儀式の祭壇】を作成しないと魔術書は作り出せないはずだった。
「あら、うちが強くなったの? 本当にツクル兄さんと一緒にいると、すぐにレベルアップしてしまいますね~」
「ルシアが強くなってくれると、俺の出番が減っちゃうかもしれないなぁ……。俺としてはルシアにいいところを見せてあげたいんだけど」
「ツクル兄さんは、『ビルダー』という大層な能力をお持ちです。うちは料理と魔物と戦うことくらいしかできないのですから、少しはツクル兄さんのお役に立たせてくれませんか?」
料理と魔物退治でも役に立っているが、それ以上に俺のモチベーションを維持するという重大任務をこなしているルシアには感謝の気持ちが溢れ出しそうだった。
ピコピコと動いている狐耳や大きくクリっとした翡翠色の眼、気になることがあるとパタパタと左右に揺れるフサフサの尻尾。
全てが愛おしさを感じさせる。
「ルシアは十分に俺の役に立ってるよ。傍で応援してくれるだけでも凄いやる気が出るんだ」
「本当ですか? うちはツクル兄さんの足を引っ張ってませんか?」
「そんなことは全然ないさ。今だって、ルシアがいないと俺だけなら攻撃されていただろうし。とっても助けてもらってる」
ルシアは俺の役に立てたことを喜んでいる様で、尻尾と狐耳がせわしなく動き回っていた。
「そう言ってもらえると嬉しいです~。ツクル兄さんにもっと褒めてもらえるように頑張ります~」
「期待してるよ。それじゃあ、さっき倒した魔物の素材を取りに行こうか」
「はい! 行きましょう」
ルシアが元気よく返事をしていた。
二人で歩いていくと魔物を倒した地点には、【ウサギの毛皮】、【鹿の肉】、【牛の皮】、【牛の肉】が素材としてドロップされていた。
毛皮系の素材は【革の鎧】を作成したり、皮革製の服などを作ったりするのに重宝するうえ、金属系の鎧のつなぎや建具にも使用される頻度が高い素材であるので、どれだけあっても困らない品物であった。
「【牛の肉】は、大量の食材ですね。これだけあったら、しばらくはみんなお腹いっぱいにご飯食べられるます~」
「素材化しているから、俺のインベントリにしまっておけるよ。そうすれば腐りもしないし、重さも無いから、もう少し狩って素材や食材を溜め込んでおこうか」
「ツクル兄さんの、『いんべんとりぃ』というのは、そんなに凄い機能まで付いているんですかぁ!?」
「そうみたい。昨日狩った【ウサギ肉】の余りもまだ新鮮なままだしね。このインベントリの中に放り込んでおくと、時間が進行しなくなるようだ。鮮度が命の食材は使う分以外は、インベントリにしまった方が良さそうだね。腐らなそうなものは、村に作る予定の素材保管箱に放り込んでおくつもりだけど」
『クリエイト・ワールド』でも、食材は時間とともに鮮度が落ちていく仕様になっており、インベントリにしまうと、時間の進行が止まる裏技的な使用の仕方があった。
けれど、インベントリ欄も有限であるため、鮮度低下を遅らせる【冷蔵庫】が完成したら、レアな食材以外はそちらで管理した方がいいと思われる。
ゲットした素材をインベントリにしまうと、目的の【テンサイ】を探して辺りを探索する。
新たに発見した毛長牛と双角鹿を退治すると、【牛乳】と【鹿の角】が手に入った。だが、目的の品物である【テンサイ】が中々、発見できずにいた。
「ツクル兄さん、コレとちがいますかぁ~」
少し離れた所で【テンサイ】を捜索していたルシアが発見したようだった。
急いでそちらに向かうと、足元には、長円形の葉に大根に似た白い根部をした紛れもなく【テンサイ】だと思われる物体があった。
本当なら【スコップ】で【テンサイ】ごと掘り出して持ち帰り、畑に植えることで種を取得したり、素材化したりすることができたが、まだ道具を作成していなかった。
なので、今度、【スコップ】を作成してもう一度訪れ、掘り返して持って帰ろうと思う。
必要分の【砂糖】は欲しいので、ルシアが見つけた【テンサイ】を木槌で叩く。
ボフッ! 【テンサイ】が素材化された。
持ち歩いている【石の作業台】を設置すると、入手した【テンサイ】を置き、生成メニューを選ぶ。
メニュー欄に【砂糖】と表示されているため、すぐに生成開始を選択した。
ボフっ! 白煙の上がった作業台の上に【砂糖】が入った袋がドロップされる。
「お砂糖ゲット! これで甘味ができるようになったね。味覚の幅が増えるのは嬉しい事だ」
「そうですね。それと、この草原にはハーブの類も結構自生しているし……。ざっと、見ただけで【エゴマ】、【バジル】、【ニラ】がたくさん自生しているようです~。調味料や香辛料として重宝するから持って帰りましょうよ」
ルシアが指し示した雑草としか思えない草がハーブ類らしい。
そういったハーブがあることくらいは知っていたが、ゲーム攻略上必要だった【砂糖】とは違い、料理のレシピの幅を広げるだけのアイテムだったので、ゲームではあまり積極的に採取していなかった。
ハーブもあるとルシアの料理が更に美味くなるんだろうな。これは、優先的に採取しないと。
ゲームでは食事は空腹度を癒すためだけの行為であったが、この世界では、生活の楽しみの一つとなりつつあるので、できるだけ楽しめるように食材と調味料、ハーブ系は充実させていくつもりだ。
「ルシアはハーブに詳しいんだね。俺じゃ、全部雑草に見えちゃうよ」
「うちは生まれてすぐに料理人のおばあさんに引き取られているから、厳しく料理を仕込まれたんです。料理人だったおばあさんが、うちを連れてレッツェンの街の外にハーブ採りに行っていたら、自然と覚えてしまいました。それに、うちが食いしん坊になってしまったのは、おばあさんのおかげで、料理が美味しすぎたからですよ。あの村に流れてきて、すぐにおばあさんが亡くなった後は、うちが自分でご飯を用意するのに苦労しました~」
禁呪持ちだとバレたせいで、祖母とともにレッツェンを出たルシアたちがたどった、この村までの道のりは、老体の祖母にはかなりの負担だったのだろう。
思わず、ルシアの頭をワシャワシャと撫でてしまった。
「ルシアはいい子だね。本当にいい子だ……」
「そんなに褒められること違います~。おばあさんが亡くなっても生きて来られたのは、エリックさんたちが、禁呪持ちのうちに良くしてくれたおかげですから。でも、ツクル兄さんが褒めてくれると凄い嬉しいです~」
俺が頭をワシャワシャと撫でると、嫌がりもせずにニコニコと笑っているルシアは健気だった。
きっと俺なんかじゃうかがい知れない悲しみがあったんだろうが、明るさを失わず生活をしているルシアはとっても芯の強い子なんだろう。
そんな健気なルシアの笑顔を少しでも守ってあげられるようにしないとな。
俺は改めてルシアの笑顔を守りたいと心に深く誓っていた。
「なら、おばあさんに仕込まれた料理の腕を活かせるように、このハーブ類も素材化しよう。それと、鉄製の農具ができたら、鉱石手に入ったし、明日には村に畑を作るから【スコップ】ができたら、苗化させて、そっちで栽培するのもいいかもね」
「本当に? 料理にハーブ類は必要ですし、栽培ができるようになったら、わざわざ採取しなくても良くなって楽できますから、是非栽培しましょう!!」
「とりあえず、明日には畑ができるようにしておくよ。栽培はその後だね。当座に必要な物としてちょっとだけ素材化して持ち帰ろうか」
「はーい。そちらはツクル兄さんにお任せします~」
ルシアが教えてくれた草を木槌で叩くと、白煙が上がりそれぞれが素材化したものをインベントリにしまい込んでいく。
そろそろ、帰らないと日が暮れてしまうな。
周りを見ると日が傾き始めており、今から帰らなければ、村に帰りつくまでに日が暮れてしまいそうだった。
夜は魔物の力が増す時間帯なので、急用でもない限り、外にいない方が無難だ。
俺たちは素材収集を終えると村に帰ることにした。
ゲットアイテム
【粉山椒】【ウサギの毛皮】【鹿の肉】【牛の皮】【牛の肉】【牛乳】【鹿の角】【テンサイ】【砂糖】
【エゴマ】【バジル】【ニラ】







