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改訂前:終わりの炎と抗う者達【凍結】  作者: しやぶ
間章 アルテミシアの過去編
8/13

1 地獄が始まった日

1と2はセットの話なので短いです

☆ アルテミシア視点


私は、親がいない


最初の鮮明な記憶は、血の海


その日まで父と思っていた男が、血走った目で私を見て、呼吸を乱しながら迫って来た


その時、私は『怖い』と思った


ただそれだけで、家の床を突き抜けて現れた二枚の壁が、男を潰した


男が父ではなく人拐いであり、私を性的に襲おうとしていたことを知ったのは、それから何年も後のことで、当時の私は男の亡骸の前で、死ぬ直前に男が豹変した理由も、男を潰した壁が何故現れたのかも解らず、思考を停止し、ただ泣き続けた


それから救助に現れた騎士の言葉の意味を半分も理解出来ないまま、私は騎士に連れられ、孤児院に入った


そこからは地獄だった


私が来る前からその孤児院にいた子供達は、私を受け入れなかった


今でも罵倒の声が鮮明に思い出せる


『なんでおまえこどもなのにシラガなの?キモチワルい』


『ちかづかないで!なんでアカメのマモノがここにいるの!?』


原因は、髪と瞳の色


人間は、自分と違う特徴を持った相手に敏感だ


そういう対象を見つけると、大抵崇拝するか、排除しようとするかのどちらかになる


私の場合は後者だった


だが大人はもっと酷かった


食卓で私の前に置かれる料理は、いつも他の子供達より少なかったし、日替わりで何人か選ばれる掃除当番も毎日指名された


それだけならまだいいのだが、酒に酔っているときが一番厄介だ


奴等が不機嫌な時に視界に入ると物が飛んでくる


飛んでくる物は大抵食器だ


その場合、料理の残りも付いてくる


そして散らかった部屋で奴等はこう言うのだ


『お前が汚したんだ!お前が片付けなさい!』


一度だけ、散らかしたのは私じゃないと抵抗したことがある


そうしたら、こう言われた


『お前が私を怒らせるから悪いんだろう!』


そして口答えした私を殴った


理不尽な暴力を受け、服は汚れ、痛む体に鞭を打って本来やる必要が無い掃除をする


心も体も、傷付かない日は無かった


それでも私が生き続けられたのは、一人の少女のおかげだった


リンという名前のその子は、聖女の様な存在だった


彼女は私の髪を隠すために手編みの帽子を作ってくれた


魔物は瞳だけでなく、眼球全体が赤い上に発光しているため、本物の魔物の目と私の目は全く似ていないということを教えてくれた


いつも私にご飯をこっそり分けてくれた


怪我をした私に白魔法を掛けてくれた


私が他の子供に攻撃されていれば手を引いて外に連れ出し、一緒に遊んでくれた


けど私は最初、リンも信用していなかった


嫌われている自分を助けたら、リンも嫌われると思っていた


だから打算抜きの善意なんて信じられなかった


露骨に拒絶したこともある


それでもリンは私を助け続けた


だから疑問に思って、どうして助けてくれるのか尋ねたら、こんな答えが返ってきた


『......助けてなんかないよ』


『助けてもらったのは私の方』


『アルが来る前は、私が奴等に殴られてたから』


『だから身代わりにしちゃって申し訳ないなって思って、じゃあ罪滅ぼしをしようかな~と』


『私はアルが思ってる様な善人じゃない......幻滅したでしょ?』


私が来る前、奴等はリンをストレスの捌け口にしていたらしい


そのさらに前は全員がそうであり、リンは他の子に手を出させないため、標的を自分一人に絞らせたのだと、その後他の子から聞いた


幻滅する要素なんてどこにも無かった


そしてある日、一人の少年が突然私に頭を下げた


『もうお前の悪口言ったりしないから、リンにオレを無視しないでって頼んでくれ......!』


しかし、その少年は言葉と裏腹に、私に対する敵意が剥き出しになっていた


だから断った


それがいけなかった


少年は逆上し、私に火球の魔法を撃ったが、男を潰したときと同じ壁が現れ魔法を防ぎ、同じ様に少年の背後から壁がもう一枚現れ、少年を押し潰した


私は怖くなって、逃げだした


さすがにここまでくれば、男と少年を押し潰した壁が、私を攻撃する相手を殺すことで私を護る加護だと解る


少年を殺したのが私だとバレなかったとしても、私に敵意を向ける者ばかりのこの孤児院にいたら、いつまた加護が発動するか分からない


そしてそれ以上に、私が少年を殺したと知ったときリンが浮かべるだろう、恐怖、もしくは侮蔑の表情を想像したら、気が狂いそうになった


私が逃げたら、またリンが奴等に殴られるかもしれないと考え足が止まった時には、もう自分の居る場所が何処かすら、判らなくなっていた


そして私は、隣の村へ行くという商人に頼み込み、馬車に乗せてもらった


護衛の人が一緒に頭を下げてくれたおかげだ


しかし、護衛の人は善意で頭を下げてくれたワケではなかった


元いた村と目的地の村の丁度中間辺りで、馬車は盗賊に襲われた


護衛の人もグルだった


私は焦った


盗賊達が私に手を出せば、全員殺してしまう


これ以上私は誰かを殺したくなかった


だから私は、盗賊達に私を攻撃しないよう、警告した


しかし盗賊達はそれをただの命乞いだと判断したらしく、私に剣を向けたところで、全員地面から生えた土の槍に貫かれた


その光景を見た商人は、私を怖がっていたので、そこからは歩いて行くことにした


どれだけ歩いても、不思議とお腹は空かなかった


代わりに心に大きな穴が空いていた


それに気付かないまま私は一人、道を歩き続けた

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