3:後編 信じ合う二人
前編の修正前を読んだ方へ
ネタバレがあったことをお詫びします。申し訳ございませんでした
☆ アルテミシア視点
「アル、そろそろ起きろ」
朝。もういつもの生活ではないのに、いつも通りの時間に、いつも通りの声で起こされる。そのことが無性に嬉しかったのに、嬉しさは起こしてくれた彼の顔を見てすぐに心配に塗り潰される
「エンデ、寝てないの?」
表情は変わらないけど少し不自然に唾を呑み込んだ。図星か
「いや?しっかり横になったぞ」
「ベッドには入ったけどずっと起きてたってことね?」
彼は軽く頭を掻き、苦笑する
「結界があっても、さすがに全員が寝てるのはマズいだろ?」
まだ何かありそうだが、それも本音の様なので、追及はしないことにした
「そっか、ありがとう。でも今日は私とユダが交代で夜番をするから。エンデはちゃんと寝てね?」
言葉に少し威圧を混ぜ、譲る気はないことを主張する。でないと彼は倒れるまで誰かに尽くしてしまう。エンデはそういう人だ。だからーーーーその献身を自分にだけ向けて欲しいという独占欲を持ち、それが叶っている現状を不謹慎にも喜んでいる私は............過去に誰かが言った通り、醜いのだろう
「お、おう。分かった。休ませてもらーーーーアル?大丈夫か?」
「......え?あ、うん。大丈夫、ちょっとまだ眠かっただけ」
少し間を置いて暗い思考から戻り、出来る限り普通を装い応えるが、当然訝しまれる
「......そうか?何かあったら遠慮無く言えよ?俺に出来ることならなんでもやってやるから」
その言葉に舞い上がる心を捩じ伏せ、応える
「ありがとう。でも今は本当に大丈夫。それより今日は町でやることがたくさんあるでしょ?ユダを呼んで早く行こ?」
「っ......あぁ、そうだな......」
ユダの名前に彼が変な反応をしたが、昨日喧嘩でもしたのだろう。たまにあることなので特に言及せずユダと合流し、宿を出た
★
私達は今、各々の武器と少量のお金しか持っていない。だから食料品を買うだけでも所持金はすぐに底をつく。当然食料品は毎日必要なので、毎日お金を使うことになる。つまり、私達にはまず職が必要だった
そういう訳で、私達三人は全員が出来る仕事、人を襲う魔物を狩るハンターに成るため、ハンターギルドにこの地域の魔物の狩猟許可証を貰いに来ていた
しかし手続きは一人で出来るため、今はユダが手続きを終わらせて出てくるのをエンデと待っている状態だ。すると、
「テメェ!今何しようとしやがった!?」
「キャッ!?イタいイタい!!放して!」
近くで白髪の女の子が男に手首を捻り上げられていたのが見えた
「放すかよ!さっきのはスリの常習犯の動きだったぜ?テメェみたいな輩は一回痛い目をみないといけねぇ!!」
そう言い放ち、男は女の子に手を上げ始めたので、止めに入ることにした
「アル~!?悪いけどやっぱりちょっと手伝って~!!」
「ごめんユダ!すぐ戻るから待ってて!それまでエンデお願い!」
(近くに脅威になりそうな魔力反応は......無いな)
「おう。警戒は忘れずにな」
「うん!」
★
「その子を放して」
「あん?アンタ誰だ?白髪に......赤目?てことはコイツの姉か何かか?」
「違う。でも、証拠も無しに子供をスリ扱いして手を上げたのは見過ごせない。これ以上やるなら私が相手になる」
剣に手を掛け威嚇する。すると男は女の子から手を放して両手を挙げ、降参の意思表示をする
「そのガキを懲らしめるためにアンタと戦るのは割りに合わねぇな。ここはおとなしく退散しますかね......」
あっさり引き下がった男が見えなくなるのを確認してから、よく見たら自分と同じ血色の瞳をもった女の子に笑い掛ける
「もう大丈夫よ」
「ありがとうお姉さん!お礼にーーーー
少女に花が咲いたような笑顔で抱き着かれ、頬が弛むがーーーー続く言葉に引きつらされる
ーーーーせめて楽に殺してあげるね」
そして女の子は虚空からナイフを取りだし私に突き刺そうとするがーーーー突如地面から生えた壁が刃を遮る
「「!?」」
私は言葉の内容に、女の子は突如出現した壁に驚き、飛び退く
「アンタどこで気付......いてなかったみたいね......てことはその壁、加護か......え?何この魔力密度......はぁ!?コレって......!」
この加護は孤児院に入ってからは一度も発動したことが無かった。それは、孤児院の家族が、この加護が発動するような危険から守ってくれたから
しかし、この女の子は今や世界でも上位の実力を持つ私を相手に加護が発動する状況を作り出した
原因は解っている。この女の子は母でも出来ない、攻撃の直前に漏れる気配を完全に隠蔽する技術を持っている。そして武器は確かに直前まで持っていなかった。ということはその場で創ったのだ。こんな非常識なことが出来る存在は一つしか思いつかない
「......あなたまさか、私を殺しに来た神様?なんで私を殺そうとするの?」
自分を殺そうとする神の一柱に問えば、知りたいことが知れる。そう考え、私はこの質問が最悪の一手と知らず、聞いてしまう
「......なんでってそりゃ、アンタが生きてるとこの星が消えちゃうからよ」
「ーーーーーーえ?」
女の子が言っている内容を理解出来ない。いや、したくない
「正確にはアンタに同化してる《レーヴァテイン》が原因なんだけど、誰もソレそのものには干渉できないから、ソレと同化したアンタを殺して間接的に破壊しようと皆躍起になってるってわけ」
だが話を聞いたことで自覚したからなのか、今まで黙っていた《レーヴァテイン》がさっきから煩く自分の存在を主張する
それでも分かりたくなくて、否定したくて、言葉が漏れる
「......嘘よ」
「本当よ」
言葉が被せるように否定されーーーー思考が黒い衝動に呑まれ始める
「嘘よ!嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ!!嘘だって誰か言ってよ!!!」
ーー 嫌なモノは消せば良いんだよ
「......はぁ。嫌な役ね......貴方も私も......でも泣き喚いたって事実は変わらないわよ?」
ーー キミならそれが出来る。さぁ、ボクを使うと良い
「............うるさい」
外側の声も内側の声も鬱陶しい
ーー ふぅん?じゃあどっちの声も聞こえなくしてあげるね
そんな言葉が聞こえた直後、意識が飛んだ
「悪かったわね。恨んでいいわ。理不尽な運命だとワタシも思うし。でもワタシ達も消えたくなーーーーいぃ!?」
「チョッ!?ひ弱なワタシに『龍種』の相手とかムリなんですけど!?」
☆ 三人称視点
「皆ぁ!!逃げろ!!ドラゴンだ!!ドラゴンが暴れてる!!逃げるんだ!!」
「おい!女の子が襲われてるぞ!助けないと!」
「おいバカ止めろ!お前が死ぬぞ!?ソイツは余裕あるっぽいからたぶん大丈夫だ!」
「ヤメて!!食べないで!!神様なんて酸性気体の魔力と水だけで体を創ってるから食べてもスッパイだけよ!?ソレはもうリモンの如く!!......あれ?てことはワタシ美味しい......?」
道で突然ドラゴンが暴れ始め、町はパニック状態に陥っていた
そして外の悲鳴を聞き、エンデ達も作業を中断し、外に出ていた
「え!?なんで町中でドラゴンが暴れてんの!?」
その言葉にエンデが苦虫を噛み潰した様な顔をして、謝罪する
「........悪いユダ。お前程酷い暴走は無い筈と言ったが......アレは酷いな」
「え?じゃああのドラゴンは......うわ、ホントにアルだ......あれ?エンデ今魔力探知使ってなかったよね?」
「姿が変わってもアルはアルだろ?」
「あ、はい」
「アハハ!そんな大振りの攻撃じゃ百年たってもワタシに当たらなーー冗談ですごめんなさい実は結構ギリギリでしただからその《レーヴァテイン》が混ざってそうなブレスを吐くのはダメェ!!」
「マズいぞアイツ余裕が無くなって......いるのか?アレは......」
「......はぁ......仕方ない......アルを止めに行ってくる」
「ユダ?お前......大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃないよ。僕は我を忘れてアルを殺そうとするだろうね。だけどエンデはアルを『一人で守る』んでしょ?しっかり僕を止めてよねーーーー信じてるから」
「ーーーー当然だ。それより格好つけといて負けんじゃねぇぞ?」
「うん。行ってくる」
「おう。行ってこい」
ーーーー本当は二人共解っている。ユダでは龍化したアルに勝てないと。それでも二人は互いを信じ、家族を助けるために己の為すべきことを為す
第3話 エンデとユダ