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改訂前:終わりの炎と抗う者達【凍結】  作者: しやぶ
第1章 逃避行編
4/13

3:前編 擦れ違う二人

前二話に比べて長いです

啖呵を切り、エリザとヴォルグが同時に飛び出した


剣と爪が衝突し、弾かれ、またぶつかる


足を止めての打ち合いは、傍目には互角だったが、当人の認識は違った


(マズいねぇ......体の基礎性能が違い過ぎる......ルークの強化と限界突破があってもまだ届かないとは......)


限界突破は反動で自分の肉体を破壊するという特性上、息切れが早い。故に短期決戦に持ち込まなければならないのだが、それには圧倒的な火力が必要。エリザにはそれが無かった


「信じられんな!貴様本当に最弱種族の人間か!?神たる我に、速度も膂力も引けを取らないとは!」


「戦闘中におしゃべりとは随分余裕なのだな!ならばコレも余裕で捌ききって見せるがいい!」


言葉と共にエリザが下がり、ルークが準備していた黒魔法が次々とヴォルグに襲い掛かる


「そんなもの!当たらなければ意味が無っ!?」


「当たらなければ、なんだって?」


ヴォルグは最初に到達した氷柱を回避するが、氷柱は軌道を変え、後を追う


何度か回避を続けるが、氷柱の追尾を振り切れないまま、岩石の魔法が到達したところで、回避は不可能と判断。同じく氷柱と岩石の魔法を構築し、相殺する


「貴様、白魔導師ではなかったのか?」


「時には白魔導師も黒魔法を使うとも」


「......そうか」


「「!?」」


呟くと同時に、ヴォルグの纏う雰囲気が変わった


「謝罪しよう。我は自惚れていた。自分は慢心しないと思っていたが、心のどこかで貴様達を《レーヴァテイン》の前座だと見下していたのだろう。そんな状態で本気を出せている筈がない。貴様達は、我を殺せる力を持った脅威だ。今度こそ慢心抜きで、貴様達を『殺す』」


先程まで使っていなかった〈神言〉を使い、『殺す』ための身体強化を施す


そしてヴォルグは二人に背を向け足に力を込める


二人は一瞬唖然とするが、すぐにエリザの"勘"が警鐘を鳴らす


「結界を!距離を取らせたら詰む!」


「おう!」


ルークが結界を張った直後、ヴォルグが動き、結界に阻まれる


そしてヴォルグが振り返ると、既にエリザが間近に迫っていた


再び打ち合いになるかと思われたがーーーー


(逃げた!?)


「距離を取るのは失敗したが、さてその出鱈目な力......いつまで続く?」


(くそっ!バレたか!)


ヴォルグは強化された身体能力を近接戦ではなく逃走に使った


〈神言〉を使う前の時点で互角に戦えていたヴォルグならば、近接戦に応じても優勢に戦えるだろうが、そもそも相手の土俵に乗ってやる必要は無い


そしてヴォルグはエリザの弱点にやっと気付いた


(この老婆の異常な身体能力、白魔法だけでは説明がつかん。白魔法は地力が低ければほとんど意味をなさない。となれば、此奴は地力を上げる能力を使っていることは明白。そんなもの、使えば使っただけ内側がボロボロになる。自滅するのを待ってから確実に仕留めるべきだ)


しかし足はすぐに止められる


「貴様が死ぬまでじゃよ!」


ルークが先程の氷柱と岩石に加えて、今後は火球や雷撃も交えて最大火力の魔法を連発。ヴォルグを釘付けにしたがーーーー


「この魔法も厄介ではあるが、対処出来ない程ではない。貴様達の弱点は、持久戦だろう?そろそろどちらも限界ではないか?」


「いやっ!まだ「ならば何故、我が足を止めているにも関わらず、老婆は動かんのだ?」......なに?」


エリザは剣を杖にして、立っているのが精一杯という状態だったーーーー魔力切れだ


そしてルークも魔法を撃ちきった。もう()()二人に戦う術はない


「......終わりだな......最期に言い残すことはあるか?」


「「......」」


「......そうか。では貴様達の名を教えてくれないか?」


「......エリザベート・クロッカス」


「......ルーク・クロッカス」


「エリザベートとルークだな。覚えておくぞ。では死ね」


そして魔法が放たれ、決着が付いたーーーー


「「貴様がな!!」」


ーーーー引き分けという形で


エリザは己に向かう氷柱を切断、そのまま背後から接近。完全に不意を突いた


しかし不意を突かれたヴォルグはそれでも前足でカウンターを放っていた。首を狙うため跳躍し、空中にいたエリザは回避が出来ない


だがカウンターは、ルークの魔法でその足を撃ち抜かれたことで失敗。ヴォルグは首を落とされた


(解っちゃいたが......今のアタシに"三式"はキツいねぇ......今後こそ本当に動けないっさね......)


魔力切れの二人が動けた理由。それは[限界突破:三式]の能力で、未来の自分から魔力を前借りしたからだ


二人はヴォルグを倒した。しかし、二人も致命傷を負っていた


エリザは"限界突破"を長時間使用し続けたことで、外見的には無傷だが、実際は骨、筋肉、血管、内臓、どれも軒並みズタボロだった


ルークはカウンターの対処に魔法を使い、自分へ向かう氷柱の対処が出来ず、直撃していた。元の魔力は空、"三式"を再び使う体力も残っていない。二人の傷の治療は〈純白〉でもなければ不可能だ。そしてこの村に〈純白〉はいない


「無念だねぇ......娘達の危機だってのに......ここまでか......」


「スマンなエリザ......儂なら治せるのに、肝心の魔力が空なせいで何も出来ん......」


「謝るのはアタシの方だ......最後、もっと速く動けたら......アンタは生き残れた筈なんさね......」


「......一人で逝こうだなんて悲しいことを言わんで欲しいんじゃがな......」


「アタシはいいさ......だが子供達はどうなる......?」


「......皆強い子達じゃ......元々いつ儂達が死んでも生きていけるよう、業は仕込んでおいたじゃろ......?」


「......そう......だったねぇ......じゃあ......もう休むと......する......さね............」


「あぁ......お休み......エリ......ザ............」



































ヴォルグ 死亡


エリザベート・クロッカス 死亡


ルーク・クロッカス 死亡


エンデュミオン陣営 残り3人


十二神陣営 残り約10000000柱





































時は少し巻き戻り、ユダがアルとエンデを掴んで転移した直後


「..........クソがっ!!なんでいつもアルばかりこんな目に遭う!!アルが何をしたって言うんだ!?なんで!?なんでだ!!」


エンデは理不尽な運命に怒り狂っていた。叫びながら近くの木に何度も拳を打ち付け、血を流している


そんなエンデにユダとアルが声をかける


「........エンデ、そろそろ落ち着きなよ。婆ちゃんが『時間を優先しろ』って言ってたでしょ?もたついてるとたぶん、追手が来るってことだよ。本気でヴォルグがアルを捕らえる気なら、もうじきこの北門も包囲される筈だしね」


「エンデ......私は大丈夫だから......お願い......止めてよ......」


アルは精神的に弱っていたが、ユダは冷静に状況が見えていた。実際ヴォルグは自身の眷属をミハルの各門に派遣していた。一番距離のある北門だけは、まだ占拠されていなかったが、それも時間の問題だろう


「ユダ!お前なん......悪い......」


『お前なんでそんな冷静なんだよ!?』と本来なら続く言葉は、ユダの目を見て飲み込まれた


エンデも今までに一度しか見たことがない、ユダが本気でキレている時の、冷え切った目


冷静な者というのは、感情に左右されずに行動出来る者のこと。だが、だからといってその者の感情が薄いということではない。ユダは単に、他二人が自分以上に不安定だったから、代わりに状況を分析していただけ。ユダも十分怒り狂っているのだ


「いいよ。エンデは悪くないし。先ず怪我を治すから動かないでね 『癒しを』 」


元〈純白〉直伝の治癒魔法は、骨折すら一瞬で修復し、後遺症も傷痕も無しで治癒させる。この程度の傷なら苦労しないで治せるのだ


「さて、どこに向かおうか?馬車はこの時間だと使えないから、日が沈む前に歩いて行ける距離で、治安が良い場所っていうと......」


そしてエンデが質問に応える


「まぁ、プーケンピリアが妥当だろ」


「僕もそう思う。アルもそれで良い?」


「二人が一緒に居てくれるならどこでも良い」


「よし!んじゃ行きますか!」



エンデ達がプーケンピリア町に向かっている頃、神界では再び緊急会議が開かれていた


「まさかヴォルグが返り討ちに遭うとは......所詮獣だったということか」


「あの神々の恥さらしめ!〈神威〉を使わず負けたのが唯一の救いだ!」


『黙れい!!』


好き勝手に狼神を罵っていた神々を一喝したのは〈戦神〉アルト


「ロクに戦い方も知らんキサマ達がヴォルグをバカにするのは我慢ならん。キサマ達なんぞ〈神威〉を使ったところであの老人二人に傷一つ付けられんわ!!」


たかが人間に傷一つ付けられないと言われた神々はアルトを睨む


「ほぉ?気に入らんか。なら当然あの魔法の雨への対処法くらい有るのだろうな?最弱種族の、それも放っておけばもうじき死んでいたような老いぼれの魔法だ。当然ワシなら再現出来る。そうだ!今から貴様達に撃ち込むからどう対処するのか見せてくれんかのう!!」


そう宣言してアルトは魔力を練る。それを感知し神々は顔を真っ青にする


しかしすぐに魔力は霧散した


「ガッハッハ!!冗談に決まっておろうが!!......それと、この場は《レーヴァテイン》の対策を話し合うために設けられたのだろう?そろそろガイアも仕事に一区切り付けて此処に来るハズだ。それまでに多少は話を進めておかんと、またワシがドヤされるのだぞ?」


その言葉でやっと神々は会議をマトモに進行させる


「しかしどうする?ヴォルグは《レーヴァテイン》が逃げたと言っていた。転移魔法を使ったのなら我等にアレの場所を特定する術は無いぞ?」


「いや、転移を使ったとしても人間の魔力量は大したことがない。転移で稼げる距離は短いだろう」


「駄目だ!つい先刻の狼神の事態をもう忘れたか!最低でもカラーズ王国領各地の土地神、自由に動ける各神には協力を要請すべきだ!」


「その通りだな」


「意義無し」


「良いのでは?」


こうして各土地神、決まった役割を持たず自由に行動できる神は依頼を受諾、アル達の捜索、殺害を目標に動き始めた



暫く歩き、三人が町に着いた頃には日が半分沈んでいた


長時間歩き疲労していた三人は、最初に宿をとることにし、門の近くに有った、旅人に人気だという宿に入る


そして受付嬢に三人部屋があるか聞いたところ


「今空いている部屋は一人部屋と二人部屋が一つずつだけですね。この時間だと、どこの宿も部屋が大体埋まってるので、他の宿で三人部屋を探しても無い可能性が高いです。ちょっと高いですが、ここの宿に泊まることをお勧めしますよ?」


ちょっとではなくかなり高いが、それでも部屋がほぼ満室になっていることから、かなり質は良いのだろうと判断し、一人部屋にユダ、二人部屋にエンデとアルで入ることにした


そして、夜。アルがベッドに入ったことを確認してからエンデはユダを呼び出し、部屋割りについて問いただす


「どういうつもりだ?ユダ。アルを一人に出来ないのは解るが、お前が近くに居た方が何かあった時に対処出来るだろ」


「いや、白魔導師の僕より魔剣士のエンデの方が近接戦では強いでしょ?模擬戦で僕がエンデに勝ったこと無いしね。結界はもう張ったし、アルの安全を考えたらこの配置が一番だと思うんだけど?」


「あぁ。模擬戦ではお前が全力を出せないからな」


「失礼な。僕が鍛練で手を抜いていたって言いたいの?」


ユダは目を細くして腕を組む。彼が不機嫌な時のポーズだ


「いや違う。けどなユダ、お前もアルも剣の模擬戦で調子の良いときに限ってそっくりな顔してるぞ?眉間に皺寄せて歯を喰い縛って、何かを必死に抑えつけてることがバレバレの顔だ」


その言葉にユダが目を見開き、驚く


「......バレてた?爺ちゃんと婆ちゃんには隠せてたんだけどな......というかアルもそんな顔してたの?」


「あぁ。おそらくアルもお前と同じで何かの種族が()()()()()しかも本人に自覚がないタイプ」


「え?マズくない?それって種族によっては『あの日』の僕みたいに暴走するってことだよね?」


魔属には複数の種族がいて、種族ごとに特殊な能力を持つ。そして一番数が多い『人種』の能力は〈大繁殖〉性別のある全種類の生物と子孫を残すことを可能とする能力である


ユダは曾祖父に『鬼種』の混血が居るだけの、ほぼ純粋な『人種』にも関わらず『鬼種』の能力が使える、所謂『先祖返り』だった


だがユダはそれ以上に特異な点がある


『鬼種』の能力である〈バーサーク〉の強弱は、能力の発動時に生える角の本数で決まるのだが、純血で2本、混血は1本か2本、もしくは0本。つまりそもそも使えないということもある。しかし過去に一度ユダが能力を発動したときに生えた角の本数は3本。純血の『鬼種』より多かったのである


〈バーサーク〉は理性と引き換えに身体能力の底上げをする力だ。一本で気分が高揚して体が軽くなる程度、二本で強い破壊衝動が発生し、子供でも熊を殴り倒せる程の力を得る。ならば三本の角を持つ子供はどうなるのか?


ーーーー答えは完全な暴走。理性は蒸発し、視界に入った動くものを全て破壊する獣になる


「お前のはかなり特殊だから、そこまで酷くはないと思うんだが......可能性はあるな。ただどの種族が混ざってるのか検討がつかないから対策のしようがない」


「成る程ね......でもエンデ、確かに僕が〈バーサーク〉を使えば近接戦でもエンデに勝てるかもしれないよ?だけど使えばアルも危険だ。それでも良いの?」


「それでもだ。ユダも気付いてるだろ?ヴォルグは明らかに他の神の指示で動いてた。つまり少なくとも一柱、狼神を顎で使える上級神が敵側に居るってことだ。そんな格上を相手にするには俺達は戦力が無さすぎる。そんな状況で切り札を出し惜しみしてどうする?俺達にはお前の『鬼』としての力が必要だ」


「エンデはあの感覚を体験したことが無いからそんなことが言えるんだよ......あんな力は切り札じゃない。切ったら最期、敗北条件を満たす死札だ。僕は次『鬼』になったらまた家族を殺してしまうんじゃないかって不安なんだ......」


ユダは過去のトラウマを思い出し、震えていた


それを見てエンデが一瞬申し訳なさそうな顔をしたが、それにユダが気付く前に怒りの表情を作り、挑発する


「あぁそうかよ腰抜けが......もういい。アルは俺が一人で守る」


「..........ごめん。僕が力を使いこなせないせいで......本当にごめん......」


しかし結果は更にユダを傷付けただけ


そしてユダは『もう疲れた』と言って部屋に戻った


幽鬼の様にフラフラと部屋へ戻るユダを、胸を掻きむしりたくなる想いで見つめ、エンデは吐き捨てる


「何やってんだ......俺は......!」


依然状況は絶望的にも関わらず、ここで更に人間関係の不和まで引き起こしてしまった自分を、エンデは心底軽蔑した

後編に続く

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[一言] 加護を与える側が天敵認定する力も有るとか……怖い 昔の数え年的な奴なんですね 元旦に年を重ねますが、この世界では今の日本より重要っぽい 神から逃げるのか  ……所属や種族が違えば対応は変…
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