16話 葛藤が……
さて飛んだクラゲで横道それたけど、目的地を決めないとね。
とりあえず、今欲しいのは金属か薬草系〜
都合良く両方手に入ったりしないかな?
さてと、また枝倒しで行く方向を決めーー
はっ!? なんだ?
何かの叫び声っぽいのが聞こえた……?
まさか、まさか、まさか!
人が居るのか!?
どこだ? どっちから聞こえた!?
お、小鳥達どうしたよ!?
ん? おお、案内してくれるのか、助かるぜ!
おぉ! あの後ろ姿は間違いなく人だ!
なんかボロッボロな鎧を着て、剣を持ってる野蛮そうなのがえーと。
うん、六人か。
で、なんか血を流して倒れてーー
女の人が死にかけてる……。
ちょっと待て、この状況って盗賊かなんかに襲われてるのか……?
初の異世界人との遭遇イベントが盗賊の襲撃か……
ありがちなシチュエーションだけど、異端なのは駆けつけた俺が木って事かな!
……はい、現実逃避は終了。
モンスターの死体は見慣れてきたけど、元人間の俺としてはちょっと見るのがキツいかも……。
吐ける体なら吐いてそう……。
野生とは違うんだ、人間の殺しは……。
いや、本当にそうか? それは人間だった時の人間の都合に過ぎなくて……。
奪って殺す。モンスターと何が違う?
理性の有無か?
そんな答えの出ない哲学的な事を考えててどうするよ!
……駄目だ、予想以上に人間の殺伐としたこの状況に堪えてるな……。
なんだかんだで平和な日本で暮らしてたのを実感するな……。
どうする?
普通の木のフリをしてれば、盗賊はやりたい放題やってから立ち去るよね。
女の人は見殺しにする?
だって、助ける手段は持ってない。
多分、助けに入ってもあの人は助からない。
殺す手段なら沢山持ってるけど……。
助からない命を少しだけ延命させる為に盗賊達を皆殺しにするか?
……それは多分出来るだろうけど、意味があるんだろうか?
何よりも、俺に人は殺せるのか……?
……女の人と目が合った気がする。
なんでだよ? なんでそんな死にかけの状態で、希望を見つけたような目が出来るんだ!?
今の俺は木だぞ!?
好き勝手に、他の植物もモンスターも根絶やしにするようなモンスターだぞ!?
……改めて自分の行為を思い出したら精神的ダメージが……。
……あっ、そういう事か。この人、子供がいるんだ……。
十歳くらいの子を自分の身体を盾にして、盗賊から子供を守ってるんだ……。
母親って強いんだなぁ……。
お袋に会ったの、もう何年前だったっけ?
何も言えないまま、こんな木になって異世界に来ちゃって、何にも返せなかったな。
もう多分二度と会えないんだろうな……。
……小鳥達、俺の事心配そうに見てくれるんだね?
俺、この世界で君たちと出会えて良かったよ。
よし、覚悟を決めた!
俺は、木のモンスターとして、武器や防具の金属を奪う為に盗賊を殺す。
そして、元人間として母親の強い愛情に敬意を払って、その子供は助け出そう。
俺が覚悟を決めたのに気付いたみたいで、小鳥達も臨戦態勢に入ったね。
俺のワガママに付き合ってくれてありがとう。
お礼は後で用意するからね!
これより、盗賊の殲滅を開始する!




