第四話 初デートだよ
ということで晴れて俺は恋人ができたのだった。
名前は間城千尋。眼鏡に三つ編みお下げが似合う学級委員だ。
「今日はデートしようか」
「うん、いいね」
俺の指先が千尋の手の甲に触れる。滑らかな陶器のような肌はすべすべでずっと触っていたいくらいだ。
「手、繋いでもいいかな」
「いいよ」
意外と積極的な女子だった。だがそれも逆にポイントが高い。
俺たち二人は付き合いたてのカップル。だから相手の些細な行動に反応してしまう。
(しかしいいなあ)
接吻友人帳のお陰で人生初の彼女ができました。
めでたしめでたし。
これで俺はあのタヌキとも別れることができるだろう。
しかしあの友人帳便利だな。他の相手にも使えたら最高だろうな、と不埒なことを考える。
「どうしたの参河君」
千尋が顔をのぞいてくる。あまりに距離が近いのでなんだか気恥ずかしい。
「考え事?」
まさか友人帳のことを考えていたとも言えず、俺は適当に笑ってごまかした。
「俺と君が付き合うことになるなんて光栄だな、と思って」
そういうと彼女は頬を赤くし少しうつむく。
千尋のはにかんだ姿が可愛らしくて俺はどうにかなりそうだ。
「あのね参河君。ひとつだけお願いしてもいい?」
上目使いでこちらを見上げられるとくらっとくる。
「参河君の家に遊びにいきたいの。ダメかな?」
おっと真面目な優等生が俺の部屋に来たがっているみたいですよ。
俺には断る理由がなかった。
そして舞台は俺の部屋に。
「へえ参河君の家ってこんな感じなんだ」
いたって普通の一軒家を観察する千尋は俺の腕に手を添えながら感想を漏らす。
「はじめてきたから嬉しい」
俺も彼女を家に招くなんて初めてだから嬉しいよ。
「ねえ参河君の部屋って二階?」
「上がってく?」
そういうと千尋は首をこくりと縦に振り階段を上がっていった。
部屋の掃除をしていてよかった。タヌキがやって来た形跡を隠すために昨日は昼寝のあと掃除をしていたんだった。
「結構片付いてるんだね」
そりゃ片付けましたから。
「俺飲み物持ってくるよ」
「うん。待ってるね」
彼女は俺のベッドに腰掛け足をきれいに揃えていた。結構美脚だな。紺色のハイソックスと眺めのスカートの間にちらりと見える膝小僧がけしからんのです。
と俺の妄想はさておき、母親が買ってきたお菓子と冷蔵庫の中の麦茶を取り出す。
「こんなもんでよかったかな」
俺が麦茶のグラスを差し出すと彼女は素直に受け取った。
「美味しい」
俺は彼女がグラスに口づける瞬間にキスしたことを思い出して急に恥ずかしくなった。
妄想はもうフルスロットルです。
(今日ここでまたキスできるかな)
淡い期待を抱くが焦りは禁物だ。
まずは千尋の気持ちを探らないと。
「おい小僧。なに簡単にお持ち帰りしているんだ」
近くにタヌキがいるのか小さい声で俺を呼ぶ声がした。
(邪魔が入ったな)
「何をむくれておる。お主には世界征服と言う偉大な野望があるはずだ」
「いやそれはないって」
俺がタヌキに突っ込みをいれると千尋は不思議そうな顔をした。
「急にどうしたの?」
「いや、なんでもない」
いかんいかん。タヌキに集中力を奪われていたのだった。
「今日も間城さんはかわいいなと思って」
そういうと彼女の耳が赤くなる。真面目な千尋が照れている様子がギャップがあって可愛らしい。
「おい友人帳の効果は得られたから他の人間に当たってくれ」
「……」
ここまで来たら徹底的に無視してやる。
「参河君ってしゃべってみると意外だよね」
「そうなの」
「最初はおとなしいのかなって思ってたけど意外と男の子なんだなって思って」
ベッドに腰かけていた千尋が足をぶらぶらさせる。
それが子供っぽくて微笑ましかった。
「私、あんなことしたの初めて……」
顔がぽおっと赤くなり彼女は額にてを当てる。
「なんか思い出したら恥ずかしくなってきちゃった」
いいですよ。恥ずかしがる姿もかわいいですよ。
と内心答えているとタヌキがしびれを切らしたように話始める。
「おいお主。今はいちゃこらしている場合ではないぞ」
「……」
俺の幸せな時間を勝手に奪うなという目をしたらさらにタヌキは口を挟む。
「この女なにか変だと思わんか」
「何が」
「いきなりお主の家にいきたいなんていい初めて。こいつは何かあるぞ」
「なにもないって」
「ふーん。まあいい。痛い目に遭うのはお前だけだ」
「ねえ参河君さっきからぼんやりしているけどどうしたの」
「ごめんね」
まさかタヌキと会話しているなどと言ったらドン引きされるだろう。
「ねえ参河君がいない間に見ていて気になったものがあったの」
千尋は何気なく質問してくる。
「これってなに?」
いかん。隠し忘れていた。友人帳だ。
「ああこれは内緒の日記みたいなもので」
「へえ。中身が気になるね」
本人に悪気はないのだろうが、俺が彼女と付き合いたいと思っていたのを知られるのは恥ずかしい。
「あれっ習字セットもある。懐かしい」
「私も書道習っているの」
「じゃあ今度教えてもらおうかな」
「いいよ」
笑顔で答えてくれる姿で俺ももう何でもいいやって気持ちになる。
かくしてお部屋デートを俺たちは満喫したのだった。