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第三話 接吻友人帳

かくして俺は間城千尋とのキスに成功したのだった。

あの柔らかくて甘い口づけが忘れられず唇の感触を何度も確認する。


(それにしても俺)

結構強引なことをしたから明日あったら嫌われていないと良いんだが。

そう反芻していると。


「お主、よくやった」


もとの姿に戻ったタヌキは俺の部屋に侵入し友人帳を開いていた。

「げっおまえいたのかよ」

「もちろん未来の覇者に発破をかけに来たんだぞ」


えっへんと胸をそらす姿はなんというか見ていて物悲しくなる。

もうちょっと賢く生まれたらいろんな苦労をしないですんだのに。


「じゃあ俺はこの友人帳に間城さんの名前を書くんだな」

筆箱からボールペンを取り出す。


「ちょっと待つのだ。お主何で名前を書こうとしている?」

「ボールペンだけど」


なにか不味いことでもしたのだろうか。


「お主、ここでは筆を使って名前を書くのだ」

「えー習字かよ」


生憎習い事で習字はやったことがない。なので俺は自分の字に自信が全くない。


「まあものはためしにやってみろ」


友人帳の不便さにため息が出た。俺が知ってる漫画の設定だとポテチのなかにいれた紙切れで名前かいてもセーフだったのになと思い出す。


「わかったよ。やればいいんだろ」


小学校の時に使っていた習字セットを取り出してくる。

習字なんていつぶりだろう。かれこれ数年は使っていない。


「えっと。間城千尋っと」


自分の下手くそな字が友人帳に残されるのは悲しいがともかく一人は使役できる人間が出たので満足だ」


「それで間城さんを使役するにはどうすれば良いんだ」

「基本的には心で念じるだけで大丈夫だ」


だがと付け足す。


「友人帳に自分がさせたいことを書くと確実に反映されるぞ」


自分の汚い字で願い事を書くのは気が引けたがせっかくなので願い事のひとつをかいてみる。


「俺と間城さんがつきあえますように」

「なんだか絵馬に書く願い事みたいだな」


タヌキは少し不満げだった。


「もうちょっと野心のある希望はないのか」

「えー野心ってどういう意味?」


これだからバカはとタヌキは頭を抱える。

「こう野望とか地球を支配したいとか」

「なんかスケールがでかすぎる気がするな」

「いいんだ。大きい方が成功したときの満足度が違うだろ」

「世の中には需要と供給の関係があってある程度大きくなると限界費用の方が大きくなるらしいぜ。だったら小さめの方がいいや」

「お主バカだと思ってたが案外知識はあるんだな」

「いや大学生の兄貴の受け売り」


結局はアホなのかとタヌキはため息をついた。

「間城とやらと付き合いたいのか?」

「うん。だって女子と付き合ったことないから」

素直にうなずくとタヌキは険しい顔をした。

「なんかあまりにもふわふわしていて心配になってくるな」


「ま、俺はこれから昼寝だからあとはよろしく」

タヌキの小言を無視するように俺はベッドで横になった。


翌日。

俺はいつも通り学校を遅刻ギリギリで登校し席についた。

あれ?なにかがおかしいぞ。

委員長である千尋がこちらをチラチラと見ては視線をそらしてくる。

これは嫌われたと言うことだろうか。

くそ。あの友人帳は役に立っていないじゃないか。


俺はタヌキを恨んだ。

結局俺はいきなりキスをした変態野郎ということか。


さあ女子に噂され無視される素敵なライフが俺を待っているぞ。

と自虐にまみれながら授業を受けていたのであった。


そして昼休み。俺は千尋に声をかける。

「あのさ……」

「ここでは話しかけないでくれる?」

あちゃあ完全に嫌われたか。俺の恨みゲージはさらに増幅する。

「話したいことがあってさ」

「私にはないわ」

そういってプイと顔を横に向ける。

「でも昨日のことで……」

そういわれると気まずいのか千尋の顔が険しくなった。

仕方がないのでタヌキに言われたように心のなかで念じる。

(間城さんと話ができますように)

すると次の瞬間千尋の口から意外な言葉が出てきた。

「ここじゃなんだから屋上に来てくれる?」

顔を赤くしうつむきがちに頼んでくる姿はかわいかった。

あれ?嫌われた訳じゃないっぽい?


でも一度も彼女は俺と目をあわせようとはしなかった。

仕方なく千尋にしたがい屋上までの階段を上る。


一歩二歩と歩いていると千尋は先に距離をおこうとしている。

いくら嫌われているからといってこれはひどい。


「あのね参河君」

屋上について千尋はようやく俺と目をあわせてくれた。

「昨日の事は……」

雪のように白い肌がほんのりと赤く色づく。


「ああ俺もいきなり悪かった。気持ち悪かったよな」

「あのね。違うの」


千尋は深呼吸をしてから思いきって口を開く。

「昨日ずっとあなたにキスされたことばっかり考えていたの」

「びっくりしたけど嫌じゃなかった」

そういう姿はもう立派な女性の顔で。

「あなたさえよければ私たち付き合わない?」

「えっ?」


どういうことだろう。俺嫌われていないどころか好かれているぞ。

なんか俺やったのか。考えてみると思い当たる節はあの友人帳のことだけで。


「もしかして私なんかとは付き合いたくない?」

「いえいえそんな滅相な」


俺も何を遠慮しているのか意味不明だがうろたえるほかなかった。



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