1-9 魔女の休日
お気に入りの白いハンドバッグを持ち、アクセントのガラスブローチをつけて、ようやっとお出掛け。お気に入りの真っ白なお嬢様帽子も、もちろん忘れない。間違っても、魔女っ子帽子なんか被ってはいけない。一応それも作るに作ってはあるのだが。朝食はどこかで食べるつもりだ。一応リップくらいは引いてある。
「いってきまーす」
「おやおや、お洒落しちゃって、どこへ行くの?」
おばさんから声がかかった。
「今日はお休みにするから、町でショッピングとか。朝も外で食べます」
「そう。いってらっしゃい」
この、お母さんと会話するようなノリいいな。楽しい生活になりそうだとリオンは思った。
一応石畳用という事で、一見ヒール風だけど、限りなく普通の靴に近い靴底デザインになっている。割と普通に歩ける。今日はワンピなので、箒は封印。
とりあえず、以前から目をつけていた、お洒落なテラスで朝食を。
お店発見、テラス席は空いている。ちょっと遅めに来たのが功を奏したようだ。
丸くて、真っ白なテーブルに、お洒落なデザインの白い木の椅子。北欧家具を思わせる秀逸なデザインだ。
「すいません、子供1人でも大丈夫ですか」
「ええ、どうぞ。可愛い、お嬢さん」
イケメンな店員さんが、商売上手な返答をしてくれる。ちょっとデレてしまった。はっきり言ってチョロインか。
さっと座って、ハンドバッグはお邪魔なので、可愛いレースの鍔付き帽子と一緒にアイテムボックス行き。子供なので食い気優先だ。
メニューを見て、パンケーキとオムレツのセット。サラダとドリンクのサービス付き。朝だけのサービスだ。これに決めた。この世界にも、いつか写真付きメニューを普及させてやろうと決意した。
しっかり自作の紙エプロンを身につけて待つ。ほどなく料理がやってきた。大き目のパンケーキが2枚と、でかいオムレツ。大目のサラダとポットごとの紅茶。最初の一杯はお兄さんが注いでくれる。スマイルは0円らしい。思わずこちらも笑みがこぼれる。
砂糖を入れてドリンクを用意したら、パンケーキにバターとシロップを。これは他の国に比べて格段に裕福といわれるこの国においても、王都でしか楽しめない贅沢だ。朝っぱらから、子供が1人で楽しむなど、普通は無理。稼いでいるリオンだから出来る芸当だ。
オムレツも美味い。調味料が効いていて、具は野菜にキノコにハムと盛りだくさん。上にかかった少し酸味の効いたソースも絶品だ。今度大きな仕事でも片付けたら、ディナーに来よう。ゆっくりと、お茶を楽しんでから、席を立つ。この国はチップの習慣が無くて助かる。
御代は、さらっと銀貨3枚。リオンの部屋の1日の部屋代と夕食のいい奴頼んで、それくらいだから、かなりのお値段だ。にっこり笑って支払いを済ます。アイテムボックスにはまだ金貨が200枚は唸っているのだ。
「子供だけで、ディナーに来ても大丈夫ですか」聞いてみた。
「問題ありません。ただ、ディナーは混み合いますので、出来ればご予約を。予算は銀貨7枚から大銀貨1枚ほどですね。量は大人と同じ量です。またのお越しをお待ちしております」
ご機嫌で帽子を被り直し、ゆったりと歩き出したリオンの前に、横道から現れた柄の悪そうな男達が立ち塞がった。
「やあ、御嬢ちゃん。女の子の一人歩きはいけねえなあ。ほら、俺達みたいなのがいるからよ。ちょっと、お兄さんに付き合っておくれでないか?」
せっかくの休日、朝のご馳走を食べて最高のいい気分になっていたものを・・
お前達やってはいけない事をやってしまったね。
いつの間にか、リオンの口元は左右に釣り上がり、歯を見せていた。その表情は帽子に隠れてよく見えないが、心情の一端は垣間見えた気がする。
ヒュウウーー
あたり一面を妙に強い風が吹きすさぶ。リオンもワンピースを手で押さえる。今日のパンツはワンピとお揃いの、白地に白の薔薇の刺繍入り。見られて恥ずかしい代物ではないのだが、ゴキブリなんぞに見せてやる言われは無い。
「な、なんだ?」
男達も不穏な空気を感じ取ったようで、あたりを見渡した。
ボフーーン。
リオンを中心に爆発的な空気の流れが、放射状に駆け抜けた。ワンピースの端や、美しい黄金の髪が広がって、……なんていうか魔女っぽい。
そして、リオンはアレを出した。それは、いつもの箒!
それを、見た男達に衝撃が走る。
そして、リオンは帽子の鍔を跳ね上げた。
「お前達、覚悟はいいかい? このリオン様を怒らせて、ただで済むとか思ってるんじゃないだろうね」
わざと低い、少ししわがれたような声で。いつもより口調もとても乱暴だ。
「ひ、ひ~~! リオンだ~~」
「む、無限の魔女!」
「お助けーー」
「とっとと、消えな! このお邪魔虫共が」
リオンが軽く箒を振ると、男達は悲鳴を上げて、まとめて大空へ飛んでいった。
別に箒を使う必要は無いのだが、この王都いやこの国でリオン以外に箒に跨って飛ぶ魔法使いは彼女だけなので、恐怖の代名詞にしてやろうと思って、いつも振り回しているだけである。
一応、男達は軟着陸するようには魔法をセットしてある。よくマンガにあるみたいに、順繰りに重なって落ちるようにしてやった。人死にが出たりすると、騎士団が五月蝿い。こっちが襲われたのだから、やってしまっても法的には何の問題は無いのだが。
何回、シスターに引き取りに来てもらったことやら。結構ど派手にやらかした事もあるので、「無限の魔女」などという有難くない二つ名も頂戴してしまった。別に私は何も悪くないのである。実際騎士団から処罰を受けたことは1度もない。そう嘯くリオン。
ただ、やりすぎるので、お説教を食らうだけである。シスターに引き取られてからも、お説教はまだまだ続くのであった。それも今では懐かしいだけの思い出だ。
ふと懐かしさに心を委ねながら、パンパンとワンピの裾をはたいて、また歩きだすのであった。
作者の1作目です。よろしかったら、どうぞ。
「おっさんがオートキャンプしてたら、何故か異世界でキャンプする羽目になった」
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