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1-6 何を作りましょうか

 冒険者ギルドで、素材のチェックを。リオンが装備の製作を行う場合、オーダーメイドの素材の発注を行い作る場合と、今ある素材で既製品を作る場合がある。


 最初の頃は既製品が多かったのだが、リオンの場合はリピーターの人も多いため、最近はオーダーメイドが多い。1度に1品しか受け付けないため、バックオーダーを抱える事も多い。


 リオンの防具は値段の割に性能が比較的高いため、性能やコストパフォーマンスに拘る冒険者には人気がある。慎重で、リスクやコストを管理したい比較的高ランクの冒険者が顧客だ。


 リオンの作品は作りがしっかりしている上、細かいデティールまで拘り、細部にいたるまで一切手を抜かないので非常に通好みだ。その代わり高く買ってもらえるので、さほどガツガツする必要はなかった。


 一種の芸術品に近い代物だが、それでいて防具の命である耐久性や性能は一流工房の物よりも優れていて、隠れた逸品として人気がある。中には貴族の顧客もいる。


 今回のように手が空いてしまう事は珍しい。冒険者ギルドにめぼしい素材の入庫を確認しているところである。

 リオンが、この手の仕事を始めたのは2年ちょっと前から。ギルド職員も、大体リオンの使うような素材は心得ているので、リストを眺めながら思案する。


「今回は何を作るんだね」


「うーん、今オーダーメイドの注文が途切れてて、店置きの品物を作ろうかなと。でも、カイルさんのお店は通好みの店だから、変なものは置けないしね。今更他のお店には頼みたくないわ~」

 いかにリオンの作品が凄かろうが、子供の作である。普通の店なら今の半値、あるいは1/3といった値段であろう。材料費で足が出る可能性すらある。かといって、素材を安いものにした製品では更に安く買い叩かれた上に売れなくなる。


 カイルさんの店で出せるようになるまで、ロバートさんの伝手で、冒険者の人に試供品を提供したりとか色々苦労したのである。


「防具だよね。今、七色猪の皮が入っているけど、どうだい? 今なら丸々1頭で金貨10枚というところだけど」


 七色猪かあ。悪くは無いな。リオンはそう考えた。普段は革の鎧や盾として軽量だけど、わずかな魔力を通すだけで、鋼鉄の強さを誇る特殊な魔法素材だ。中堅どころの冒険者に人気がある。おじさんになると、あまり重い防具はつけたくないのである。


「悪くないですね。それ、いただきます」

 しばし、考えてから返事をした。

 リオンは金貨20枚を入れて、前回消費した10枚分も合わせて、ギルドへの委託金を補充した。委託金は金貨50枚入れてある。一時的に素材の代金支払いが苦しくなっても大丈夫なように、ギルドとそのように取り決めた。


 そそくさと宿へ急ぐ。その間に改めて、町並みを眺める。地球の中世風な町並み。行きかう人達。今までは必死に生きてきて、なかなかそんな余裕も無かったように思う。空から見下ろすのとは、また違った趣があるなと改めて思う。


 孤児院での暮らしには色々なお手伝いがある。炊事・洗濯・掃除・子守。その上でお小遣いが欲しければ、働かないといけない。子供の稼ぎなんて、たかが知れている。孤児院を出るのが近い子はお金を貯めておかないと大変だ。


 そして、勉強。読み書き計算はしっかりやっていかないと、碌な仕事口がない。シスター達は、子供達に厳しく教え込んだので、あの孤児院の出身者は優秀だ。

 冒険者になったマークやジョニーだって、商会の仕事だって出来るが、利益を求めて冒険者を目指した。リオンも誘われたが、自分で出来る仕事があったので断った。


 あの2人は実は自分に気があったのではないかと、リオンは自惚れている。

 まあ、それはさておき、マークやジョニーの場合は冒険者として修行を積んだら2人で組んで行商から商売を始めてもいい。何の保障も無いが、利益は自分のものだ。道を択ぶ選択肢があるのはいい事だ。


 抜け目がなく、用意周到なマーク。直感に優れ行動的で頭も切れるジョニー。悪い組み合わせではない。2人も私と一緒に、ロバートおじさんのところや冒険者ギルドにも顔を出して、あれこれ教わっていた。

 バネッサと4人組で、あれこれやらかしたものだ。懐かしい。ふと自然に笑みを浮かべているのに、気づいてはにかむ。


 武器防具の扱いも、しっかりマスターしており、かなりの戦闘スキルも確保した。子供のうちにそこまでしていく奴は殆どいないので、ギルドでも高く評価されていた。冒険者の中には碌に読み書きも出来ず、依頼書や契約書の読めないリーダーまでいる。あの2人はそういう意味でも活躍できるのだ。

 ふと懐かしい思い出に耽っているうちに宿に着いた。

「ただいまー」最早、我が家も同然だ。


「あら、おかえりー。お仕事どうだった?」

「順調でーす。ちょっと息が抜けそう」


「それは良かったわね。孤児院を出て環境が変わったんだから、少しはゆっくりしなさい」

「はーい」


 まず部屋へ戻ってから、コーヒーメーカーを出して、コーヒーを作る。3cmくらいのカップを装填して作るあれだ。いい香りが部屋一杯に広がった。機械をよく見ると、特にコードは伸びていない。

 というか、この世界にはそもそも電気というものが無いのだ。どんな高級ホテルにもコンセントなんてものはない。地球の製品を模した、魔道具だったらしい。


 ほっとして人心地が付いたところで、ベッドの上に七色猪の革を広げる。ベッドから大きくはみ出すサイズだ。まず、素材そのものの強化をしないといけないな。原価が同じならば、付加価値を与えた製品の方が高く売れる。特に命を懸ける冒険者にとっては、とても関心が高い。

 リオンが商売のネタに防具を選んだのは、そういう冒険者達の心理を長年の付き合いの中から学んだからだ。


 中堅の人は、そこそこ安くて効果の高い防具は買い。

 高ランクの人は、高くてもいいが、それに見合う性能が無ければならない。性能ばかり上でも法外な値段の物は買いたくない。

 通な人ほど、コストパフォーマンスを追及する傾向にある。金に糸目をつけないなんていうのは御貴族様くらい。貴族の方は見栄もある。


 熟練冒険者の人達は武器はそれほどまでに拘らない。いい武器があるに越した事はないのだが、対魔物戦闘においては武器の優劣よりも、経験・戦闘方法・保有スキル・魔法などが有効なケースが多いので。


 さすがにドラゴンなどの高ランク魔物を相手にする場合は、それなりの装備を必要とするが、経験の深い冒険者ほど、無謀な仕事は請けない。

 6~7歳の頃からの知り合いの冒険者の顔ぶれで、欠けてしまった顔は無い。若い冒険者などは急に見かけないことはいくらでもあったのだが。

 若い子は防具をおざなりにして、少しでもいい武器をと逸るのだ。


 マーク達と、怖いね~とよく話していたが、それでも彼らは冒険者を選んだ。

 せめてもの餞別として、装備だけは素晴らしいものを進呈した。安い素材で、手入れや修理にもあまり金はかからないものを。素材は目一杯強化し、急所などを特にピンポイントで防御するように作った。

 親父さんやカイルさんにも意見をもらって、初心者向けとしては逸品といってもいいものに仕上がった。

 一部は、この七色猪を使ったものだった。なんとなくイメージが固まってきた。


 作者の1作目です。よろしかったら、どうぞ。

「おっさんがオートキャンプしてたら、何故か異世界でキャンプする羽目になった」

 http://ncode.syosetu.com/n6339do/


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