4-5 最終話 茶番劇
「では、なんとする」
眼光鋭く詰問する国王。
「その者に、果たしてその資格があるのかどうか。皆の前で証明していただきたい」
それを受け止め、跳ね返さんとする海千山千。
「具体的には?」
「魔法が使い物になるか、皆を納得させていただきたい」
「よかろう」
そして、ニヤリと笑い、こっちに目線を。わかっておるのだろう? やってしまえ。
心得ました。義父上。笑顔で返す。
「えー、皆様。取り出したりまするは、何の変哲もない箒~。魔女の必需品であります。これをどうするかといいますれば~。こうするのであります」
言うが早いか、件の侯爵を、風魔法でぶっとばした。奴はとっさの事で、どうする事も出来ずに30M先の謁見の間の壁に激突し、ずり落ちていった。
「な、何をする! ええーい、騎士団よ、何をしている。あの魔女を捕まえろ!」
「おのれ魔女め」
「王国の敵よ!」
ごく一部の者だけが騒いでいる。本人達は全く気がついていないが。王家の人間は覚めた目で彼奴等を見ている。これから襲う彼らの運命に対する、憐憫が浮かんでいたようであったのは気のせいか。
「ボリスー。そっちは任せたから」
「あいや、しばしのお待ちを姫殿下」
なんか、こう妙な空気が醸造されている。長年の確執など、共通の敵に対しては何の意味もないという事か。
そこへとことこと、何かを咥えてくる、いたいけな子犬が1匹。いわずと知れたガルちゃんである。
「あらあ、ガルちゃんってばあ! どこ行ってたのよ~。心配してたんだからあ」
そういって、抱き上げて、すりすりする。
あまりのしらじらさに、思わずにたにた笑いが隠せない超獣が、約1匹。
「あらあ? ガルちゃんってば、何咥えてるの~」
そう言って立ち上がりながら、取り上げた『手紙』を天高く突き上げた。その特徴のあるノースガイアの形式が、全ての人の目にさらされるよう。あたりの大気を調節して、人々の視力の補助をするほどの芸の細かさ。これこそが、知られざる無限の魔女の真骨頂。
侯爵の顔色が変わる。
「貴様~。人の手紙を勝手に持ち出すなあ」
「へーえ。これがあなたの手紙だって、この公衆の面前で認めたのね」
とことこと国王の前まで歩いていき、それを見せて可愛い声で、
「御義父様、お手紙届きましたわ」
リオンはそれを見せた。国王陛下は、それがなんなのか理解した上で、
「うむ。義娘よ、大きな声で読んでみなさい」
リオンは5.1CHスピーカーの魔法を展開し、読み上げた。連動する子スピーカーも城内中に展開していく。
「親愛なる、トゥリオン王国の同志貴族諸君。ついに時が来た。古き体制を破壊し、真に世界の頂点に君臨すべき者が立つのだ。王太子を抹殺し、残った王家も皆殺しにせよ。さすれば諸君の得る栄光は未来永劫磐石のものだ」
そしてリオンは大きな声でその後に続く、プレマール侯爵以下さっきから騒いでいる貴族共、そして日和ってだんまりを決め込んでいた貴族の名前を読み上げた。
最後に、ノースガイア王国国王の名の署名までを、読み上げて読了とした。
それはスピーカー魔法で城内津々浦々まで、響き渡った。
逃げようとした貴族連中は、城の衛兵や騎士団、忠義な貴族達の手によって全員捕らえられた。前からうさんくさい動きを見せていて、一部はもう既に明確に尻尾を捕まれていたのに、泳がされていた人間もいた。
「御義父様、私の朗読いかがでしたか?」
「うむ。大きな声でしっかり読めていて、最高だった!」
もう、その場にいた全ての貴族が笑うしかないような茶番劇であった。最初から、誰がどうするといったところまで組まれていたのだ。
国王一家はリオンが届けさせた手紙に従って、準備を整えて待っていた。
ロザンナから大体の情報は仕入れていたリオンは、自分が孤児院にいる間にガルちゃんの空間魔法で、あっちこっち探らせていた。あの子の空間魔法は目立つので、ゲートの魔法も伝授しておいた。知能の高い超獣が、空間魔法を使いこなして、諜報活動を行ったらこんなもんだ。
手紙も、リオンの魔法でコピーされて、既に王家に届けられていた。時間を見計らって、リオンが登場したまでである。国王陛下は、貴族にリオンのお披露目名目で召集をかけていた。待たせた分、敵にはいらいらしてもらったまでで。
そして、もう1匹いなかった奴が、仕事を終えてやってきた。全員リオンに促されて、庭の方へと出向いた。
「ええーい、離せ、この!」
ゴンちゃん。エンシェントドラゴンに咥えられて、運ばれてきたのはベルーナ。
いやさ、北のノースランド王国の魔女、氷雪の魔女イライナ。伝説の魔女で、今年で296歳になるはずだ。
ゴンちゃんは、既に元のエンシェントドラゴンへと変貌しており、その口に咥えた魔女を威嚇した。この子にも、ゲートの魔法は仕込んである。そして、超獣のガルムも傍に立つ。いつの間にか、超獣体形で。
「お婆ちゃん、もう歳なんだから、それくらいにしておいたほうがいいよ」
「おのれ小娘。老いたりとはいえ、まだまだお前のような子供なぞに……」
魔女は続きを叫ぶ事は出来なかった。リオンが壮絶なまでの魔力を練り上げ始めたからだ。というか体内に取り込むことなく、魔素から自動で膨大な魔力を生成しているのだ。
「ば、化け物め! なんだ、そのありえない魔力は!」
魔女は、リオンの魔力にあてられて、もうその若い姿を維持出来なくなって、真の姿を披露する事になった。
「これが、無限の魔女リオンの力。いいえ、この国の第5皇太子妃リオンの力よ。ロートルはすっこんでな」
魔力量と口の悪さだけは天下一品だな……そうつぶやいていたのは、不肖の義弟下のようだ。
「おのれ、小娘、このままで済むと思うなよ!」
リオンは許可を求めるように国王を見たが、国王は頷いて許可を出した。
そう、それは2年前、無限の魔女の名をリオンにもたらした、あのブツである。
ボーーーーン。
アイテムボックスから取り出し、蒼穹に放たれたそれは。巨大なイフリート。ただ、魔法を格納していただけでなく、コントロールするために、使役できるレベルまでに練り上げておいたのだ。毎日魔法の訓練代わりに鼻歌で、片手間に。
そして、その300メートルはあるそれは、更にその姿を青白く染め上げ、そしてついには白熱して、凄まじい様相を示していった。そのプロセスの中で、大きさも増大していく。高度も徐々に上げて。
「で、どうする? 北の魔女。まだやる気があるんなら、お相手するけど」
高度5000メートル、全長2000メートル、すでに中心温度3億度に達した灼熱のプラズマ巨人に、様々なポーズをとらせながら、宣言するリオン。巨人の体表面で断熱していなかったら、地上は黒焦げどころか、今頃は溶岩の台地であったろう。
それを見せ付けられて、さすがの老獪な魔女も抗う気力を失ったようだ。空間魔法を使うドラゴンに追尾されては、逃げ切る事も叶わない。がっくりと力を抜いて、古代龍に咥えられたままで頭を垂れた。
王国重鎮全員が息を飲んでいた。この暴れん坊を、王国の外に解き放つなど絶対に出来ない。こっちにその牙を向かれてはたまらない。王子の判断は正しい。
大人しく後宮で子育てでもしていてもらった方が、我が国の、ひいては世界のためだ。この王国において、全会一致でリオンの後宮入りが決定された瞬間だった。
氷雪の魔女は捕らえられ、魔封じをされた上で尋問される事となった。捕まった貴族共は取り調べの上、処刑は免れないだろう。
とりあえず、リオン排斥の動きは封じた。だが、真の戦いはこれからなのかもしれない。女の戦いが。
だが、この小さな魔女の夢は叶いそうだ。少女はドヤ顔を、白熱巨人の炎に照らしながら、うっとりとその輝かしい未来に思いを馳せていた。
短い間でございましたが、ご愛読ありがとうございました。本日にて完結いたしました。




