4-2 ただいま、王太子妃殿下ですが、何か?
「ただいまー」
「あれ? どうした。やけに早いな。ダンジョンには行かなかったのか?」
ロバートがいぶかしんだ。
「あー、行くには行ったんですけどねー。色々ありまして。あ、こちら私の御付きの人でロザンナさん。前の部屋空いてます? あ、彼女の部屋も宜しく」
「御付きの人?」
ますます、怪訝そうな顔になるロバート。
マーサとバネッサもやってきて、
「おかえり、リオンちゃん。早かったわね~」
「やっほー、お帰り~。あれ、誰その人」
「お初にお目にかかります。私はウインベル子爵家が3女、ロザンナと申します。この度は第5王太子妃殿下のお傍勤めをさせていただく事になりました。宜しく、お見知りおきください」
流れるように淀み無く、ロザンナが丁寧に挨拶をする。
3人共ポカーンとしている。首を傾げて、
「第5王太子妃殿下?」
「誰が?」
「お傍勤め?」
「リオン様に決まっているじゃありませんか。この度、我が国の王太子クアドリー殿下の側室になられましたので。近日中に、第5王妃様におなりとなられます」
一瞬、その場にいる全員に沈黙が訪れた。そして、
「「「えええーーっ」」」
少し落ち着きを取り戻したのか、全員でお茶をしながら、
「一体どういう話で、そんな事になったものやら」
「ほんとにねえ」
「クアドリー殿下っていうと、あれでしょ。ほら、あの残念王子。怪盗ルーベンスの……」
「うん。御兄ちゃん。まさか、あの怪盗ルーベンスを弟下と呼ぶ事になろうとは」
「何、その弟下って」
バネッサがクッキーを咥えながら、聞き返した。
「だって、奴は立場上、私の事を姉上と、呼ばないといけないわけじゃない。だったら、こっちから見たら弟下と呼んであげないといけないんじゃなくて?」
自分もクッキー咥えながら、答える。
「恐れながら、姫様。そういう呼び方は存在しておりません。普通に、スンベール殿下と御呼びくださいませ」
(姫様~!!)
バネッサのやや弓なりになった目と、4本指を口にあてがうポーズが、何かを訴えていた。
(うっさい)
テーブルの下で、蹴りがとんだ。そんなものを食らうようなバネッサではないが。
「ところで、姫様。お部屋を御取りになる必要はございません。本日より、王城があなた様のお住まいになるのですから。本来は側室の方が、こうも勝手にうろつきまわっていいはずはないのですが」
「まあ、この子にちょっかいかけてくる馬鹿はいないでしょうしね。冒険者ギルドのおのぼりさんだけじゃない? 今月、何人だっけ」
片手で頬杖ついたバネッサが聞く。
「まだ2人だよ」
「へえ、少ないね。この次期なら、もうちょっと多くてもいいはずなんだけど」
「何のお話でしょう?」
不思議そうな顔で、ロザンナが訊く。
「そんなの、冒険者ギルドでリオンに絡んで、魔法でのされた馬鹿な新米冒険者に決まってるでしょ」
バネッサがさも当たり前のように言う。
ロザンナが沈黙したが、すぐに口を開き、
「そ、そうですか。そうですよね。何せ姫様ときたら、王太子殿下を襲おうとしていたエンシェントドラゴンを、1撃の元に叩きふせたそうですので」
そして、一同はようやっと、そのへんをうろうろしている小さなドラゴンに気がついた。
「あら、可愛い」
「おー、エンシェントかあ。あそこの主だな」
「ちっちっちっ。こっちおいで~」
その光景を見ていて、なんだかこの先大丈夫だろうかと、つい思ってしまうロザンナだった。
「そうかー。もう、ここで暮らせないのかー」
かなり残念そうなリオン。子煩悩なおっさん達の愛に包まれた暮らしは、結構気に入っていたのに。
「あー、そういや、孤児院の方にも挨拶いかないとなー」
「そうでございますか。でも、今夜は王城へお戻りくださいましね」
「わかってまーす。どうせ、ロザンナさんも一緒に行くんでしょ?」
「どうか、ロザンナと呼び捨てになさってくださいませ。今後はそういう事もうるそうございますゆえ。特にあなた様の場合は」
うん。わかってるよ。容易に想像できる。風当たりの凄まじさはね。でもね、この無限の魔女の夢の実現を阻むというなら、それ相応の対価を払ってもらうことになるわ。
そんなリオンの様子に、ロザンナはますます不安を掻き立てられていくのであった。




