4-1 再びフリーに
ベルーナという女は結局、見つからなかった。北の間者であったのだろうという結論になった。しかし彼女は、王家と親しい侯爵家から紹介された、侯爵家縁の者としての登城だった。
解せないといえば、あまりにも解せない話だった。不思議な事に侯爵家の人間は当主も含めて、その女の事をあまり覚えておらず、騎士団の人間を青ざめさせた。
一応クアドリー殿下に、毒とか呪いのようなものが使われていないか、厳しく検査される事となった。
リオンたちはその間に、戦利品の分配を行うことになった。
冒険者ギルドに集まると、先に自分達の分の蜘蛛を寄り分けた。
そして、蜂や蜘蛛の素材の査定を依頼した。
「やれやれ、軽いダンジョン・アタックのつもりだったんだが。とんでもない目にあったものだ」
お茶を一口啜って、ジョンソンがぼやく。
「まあ無事に帰れて、こうして一杯やれるんじゃ。めでたい」
幸せそうに酒のコップを握り締めて、ドワーフが答える。
「リオンちゃん、本当に王城に行くのね」
リオンの髪をいじりながら、ジェシーが言う。
「うーん、まだ決まったわけじゃないんじゃ。王子様が言ってるだけだからね。だいぶ反対されるんじゃないの?」
ジュースを飲みながら、他人ごとのように少女は言った。傍らには子犬状態のガルちゃんと、手乗りドラゴンが、ミルクをいただいていた。
そうこうするうちに、査定が終わり、分配をもらうことになった。1人頭金貨40枚。ただし、リオンはガルちゃんにも仕事させたので、80枚もらえた。
それから、今あるめぼしい素材を聞いてみたが、イメージが湧かない。1度カイルさんの店に行ってみることにした。
とりあえず、チームジョンソンからは、はずれることになった。さすがに、次期国王の側室候補を置いておくわけにはいかないと。ジェシーさんには特に残念がられた。食事や住居が、贅沢過ぎるダンジョン・アタックだったものね。
「さて、それじゃあ行きましょうか」
リオンは、傍らにいる女の人に声をかけた。この人はロザンナさんといって、王子からつけられた人だ。彼的には、リオンはすでに王太子妃の1人であり、王城の外を単独でうろうろさせるわけにはいかないと。薄い色合いの金髪の美人さんであった。目は印象的なブルー。貴族なだけに品がある。と、今の段階では思っていた。
子犬を抱え、頭の上に小さなドラゴンを乗せて、身分の高そうな女性を従えるという、割と目立つスタイルであった。道中、結構人目を集めていた。やはり、ドラゴンは珍しいのである。
竜の甲殻に着くと、カイルさんがお客さんと話をしていた。
「こんにちは~」
「おう、リオンちゃんか。いらっしゃ……」
何か、いつもと違う雰囲気なので、カイルさんも珍妙な顔付きで見ている。話をしていたのは、顔見知りの冒険者だった。
「やあ、リオン。その頭の上のドラゴンはどうしたんだい? 卵でも拾ったのか?」
「ああ、いえ、これは。ちょっと訳ありでして。チャールズさんは何かお求めですか?」
彼はゴールド・プレート、即ちAランクの冒険者だった。以前も防具を買ってもらったことがある。
「うん。それで今相談に来たとこなんだが。今の奴を修理に出すか、新調するか。君が冒険者になったという話を聞いたので、どうするかと思ってな」
「ちょっと見せていただけますか?」
確かに傷んでいる。使えない事もないが、メンテをしても、限界は来る。命を守る物だから、出来ればここは新しい防具に投資しておくべきではある。
「メンテすれば、このまま使えないこともないですが、へたってきているのも確か。余裕があるなら、出来れば新調される事を、お勧めしますね」
彼女なりに、適切なアドバイズを送った。Aランクの冒険者なら、通常金銭的には、かなり余裕があるはずなので。
「やはり、そう思うかい? 出来れば君に仕立ててもらいたかったんだ。頼めるかな」
思案顔で、親指と人差し指の間を、をあごに宛がうポーズで。
「もちろんですわ。ではご要望をお伺いします」
「あ、あの」
ロザンナさんが遠慮がちに声をかけてきた。
「なあに?」
少し、つっかえ気味に、
「お、王太子妃殿下ともあろうお方が、自ら防具を御作りになられるのですか? その、なんか、変です」
うむ。確かに変であろう、でもまだ本決まりになったわけでもないし、王子は好きにしていいと言ったのだ。約束通り御付きの人も連れてきている。
「王太子妃殿下? 何の話だい?」
カイルさんが、不思議そうに問いただす。
「あー、私今度、クアドリー王太子殿下の側室になる事に決まりまして。第5王太子妃だそうです。まだ本決まりじゃないですけど、もう御付きの方がついてきてます」
2人共目を丸くした。
「あ、それで、連絡先が王城に変わるかもしれませんので。今はまだ、『冒険者の宿』
の方ですけど。あ、まだ宿に帰ってないや」
チャールズは面白そうな顔をして、
「へえ、それはそれは。面白いな。王太子妃殿下作の防具か。家宝にするかな」
「それまでは、さすがに持たないんじゃ。あ、カイルさん、他に何かオーダー入ってませんか。ドラゴンメイルの他に」
ドラゴンメイルと聞いて、ばたばた逃げ出すエンシェントの尻尾を掴み、じゃらす。
「そうだね。軽量で強力な防具を作れないかと、相談をもらっているんだが。革鎧とかじゃなくて、金属とかでね。子供や女性のような、力の無い人が着れて、高い防御力を発揮するようなものだ。ちょっと金払いはいいお客さんなんで、考えてみてもいいのではないかと」
カイルさんは眼鏡をはずして、軽く拭きながら、会話を進めた。
「うーん、軽量ですか。軽量化の魔法の付与は出来ますが……」
その手の付与も劣化したり、激しい攻撃を受けると付与が吹き飛んだりする事もある。自分の武器防具には,いつでもつけなおせるので、好きに使っているが。
「また、考えておきます」
そう言うと、カイルさんも頷いた。
「で、チャールズさんの防具についてですが……」
打ち合わせは続く。御付きの人を連れて。
すいません、8分遅刻です。




