3-17 帰還
皆戸惑っていたようだが、リオンは落ち着いて、こう言った。
「あなた、これから、どのようにいたしますか?」
もう、すっかり奥さん気分だ! いきなり、大人になった少女に皆戸惑いを隠せない。
だが、マークとジョニーは誤魔化されていなかった。
「あのリオンがこんな急にしおらしくなんてなるわけがないよ。ただ猫被ってるだけだよなあ」
「まあ王子様と結婚する夢が叶うんだから、へたは打てないだろうしね」
こそこそと囁きあっている。
ちゃんと本人の耳に入るように。
うるさい、大きなお世話よ、と言わんばかりに、リオンが睨みつける。へへへん、っとばかりに2人は、へらへらしている。
殿下にも、しっかり見られているわけなのだが。殿下も少し楽しそうだ。
「さて、本当にどういたしますか? ドラゴンはあのようになったわけでありますが、我々は未だにこの最下層にいるわけで」
ベックが遠慮がちに訊ねる。
「ふむ。はぐれた騎士団と、なんとか合流しなくてはな」
「あいつらは、殺したって死にやしませんよー。 さ、とりあえずあいつらは放っておいて、1度地上へ戻りましょ」
もう、すっかり目がハートになっているリオンが、殿下の腕に絡みつきながら言う。
「い、いやしかしな。どうせ戻っていかねばならんのだ、探しがてら行くというのではどうだ?」
王子様は騎士団を置いていくのに抵抗があるらしい。
「ガルちゃん、空間魔法で、全員地上に送れる?」
「おやすい御用だ」
「なんだと?」
殿下も、目を見開いて驚く。
「全員集合~」
集まった人々を、眺めつつ、念のために全員を魔力糸で結んでいく。
そして、ガルちゃんの魔力が渦巻き、やがてその場にいた全ての人々を、濁流が飲み込むように押し包んでいった。その後に残ったのは、静寂のみであった。
気が付けば、全員無事にダンジョン前の広場に立っていた。
「なんという……しかし、騎士団は」
「大丈夫よ~、ガルちゃんをお使いに出すから。あいつらとは顔見知りだし。ね!」
「ふむ。では、あいつらを、おちょくってくるとするか」
そういい残し、またガルちゃんは虚空の彼方に消えていった。
迷宮都市グラシアには、地上に残っていた御付きの人達もいて、王太子1人のあまりにも早い帰還をいぶかしんだ。
だが、話を聞いて真っ青になる。
「あの魔法は踏んだ一人を迷宮の底へ追いやり、他の者は別の場所へと送ってしまうように出来ていました。殿下はどうして、あのトラップを? 他の人が踏んだってよかったのに」
リオンは不思議そうに訪ねた。
クアドリー殿下は、しばし考える風で。
「あの時……侍女のベルーナに呼ばれたのだ。『殿下、ちょっと、これを』と言われてな」
そ、それは~。ガルちゃん、ベルーナとやらも連れてきてくれるかな?
ガルちゃんが、空間を越えて、騎士団以下の連中を連れてきた。全員一緒だったらしい。
殿下がボリスに確認する。
「ベルーナはどうした?」
あの侍女だけが姿を見えないそうだ。
「そ、それが。あのガルムが我々を迎えに来た時には、確かにいたのでありますが、いつの間にかいないのです」
騎士団長も、不審の念を隠しきれないようだ。
ふむ、と殿下が一人ごちる。地上に帰還出来るにも関わらず、来なかった。という事は。へたをすれば、彼女がトラップを仕掛けた魔法使いの可能性すらある。空間魔法の使い手ならば、もうダンジョンの中にはいまい。
「王都に帰るぞ。この事を至急父上に報告せねばならない」
「かしこまりました」
そして、リオンの方に向き直り、
「すまないが、もう1度お前の愛犬に頼んで、我々を王城まで送ってくれないか?」
「あ、私が送ります。転移トラップと、ガルちゃんの魔法で私も空間魔法を覚えました。では、ここをどうぞ」
そう言ってリオンが作り出したものは「ゲート」
地球では、お馴染みの技術。実在はしないけどね。
その向こうには、王宮の城壁部分にある、素敵なテラスだった。いつも宿から双眼鏡で見ていた、憧れのテラス。
一行は、ぞろぞろとゲートを潜り抜けた。
「なんと……」
ボリスは絶句した。こんな魔法をほいほい使われてしまったら、警備もへったくれもない。大軍勢が、一気に場内へ!
「リオン、貴様! さすがに、これは見過ごせん。今日という今日は、王城の牢屋に繋がれてもらうぞ」
詰め寄ろうとする騎士団長を、王子様は手で制した。
「それは困るな。その娘は既に私が城内に繋ぐ手配を済ませた」
「は、はあ……」
怪訝そうに、王子を顧みるボリス。
「今日から、この子の事は、第5王太子妃リオン殿下と呼ぶように」
その時の顔といったら、一生忘れられないだろう。おそらく騎士団長を拝命してから、絶対にやった事がないだろう間抜けな顔を晒したに決まっている。殿下のちょっと楽しそうな顔も忘れられない。
やがて、ボリスの顔は驚愕に染め上げられ、よく熟れた果実の如く真っ赤になって、こう叫んだ。
「な、なんですとおおー。こ、こ、こ、この娘を、その、殿下の側室に? やがては王妃にと?」
うん。もう決まっちゃったみたいだから。決めたのは、この国の次期国王様だよ。そう心の中で呟くリオン。とりあえず、ワンコとドラゴンをもふりながら。
「美しく、そして稀代の才能を持つ魔法使いだ。側室の王太子妃として、何も不足は無い。それとも、お前は何か? この危険な娘を、奴ら北の連中にでも渡してしまってもよいというのか?」
ボリスの目は見開かれる。それは出来ない、それだけはあってはならない。今回の件だって、おそらくは奴らの。しかし、しかし、しかし~
苦悩した。苦悩した。その苦悩が、一生そのまま顔に張り付いたままになるのじゃないかと、その場にいた全員が思ったほどだった。しかし、やがてその苦悩は、諦めへと変わり、そして達観へと昇華した。
「第5王太子妃リオン殿下におかれましては、大変ご機嫌うるわしゅう……」
その口から、王族に対する正式なご挨拶が!
ボリス! ちょっと、やめて! 蕁麻疹出ちゃう~
今度はリオンの方が悶えることとなった。
マーク! ジョニー! あんたら笑い過ぎ! 覚えていなさいよ~




