3-16 人生を賭けた決断
リオンは溜め息を吐いて、口を開く。
「どうしたもんかしらねえ。うちにはもう駄犬が1匹いるし。何しろ、この大きさだし。ご飯も食べそうだしなあ。マーサさんが、なんていうかなあ」
悩むのは、そこなのか。みんな、突っ込みたいが、何か突っ込んではいけないような気もしたので、黙っておいた。
ガルちゃんは遠慮なく、
「何、お前さんが魔力さえやっておけば問題は無いわい。迷宮産の魔物だからの。あと、大きさは変えられる。ほれ、小さくなってみい」
エンシェントドラゴンは、みるみるうちに縮んでいき、リオンが抱えてしまえるくらいになった。すんごく媚媚なドラゴンを見ていると、なんとなく馬鹿馬鹿しくなってしまった。
「ベックさん、それじゃ40階まで戻りますか?」
「何?」
いきなりリオンにそんな事を言われて、驚くベック。
「だって、そこで狩りをするんじゃなかったんですか?」
「いや、お前……」
もう狩りどころではない。この国の王太子が一人っきりなのだ。それどころではないだろう。
「殿下、これからどうなさいますか?」
ベックとしても、一旦は地上へ戻らねばならない。蜘蛛とウサギを狩っておいて、よかったなと頭の隅で考えながら、王子様に打診していた。
「地上に戻らねばならぬ。申し訳ないが、お前達に護衛の任務をお願いしたい」
「かしこまりました」
恭しく、ベックが膝を折った。他のメンバーもそれに倣う。
「えー、狩りにいかないのー!」
空気を読まない奴が約1名。
「馬鹿者ー。お前はさっきドラゴンを狩ったばっかりだろうが。殿下を地上に送り届けるのが、先だー」
さすがにベックも切れた。
殿下は笑って、リオンに、
「先程は助かった。お前が無限の魔女か? 弟から聞いているぞ。騎士団長のボリスからも。強いのだな」
うおう! 王子様。つまり私の粗相が全て、次期国王様に筒抜けなんだと。おのれボリス。もう地上に帰ってこなくていいよ! 口煩いだけなんだから。自業自得なのではあるが、リオンもプリプリだ。
「それだけではない。お前は美しい。今はまだ子供だが、成人すれば、誰もがお前の美しさを称えるだろう。その強さよりもな。そして、その魔法の才能。
お前に頼みがある。私の側室になってくれはすまいか」
は? このお兄さん、今なんて言った?
他のメンバーの方を見たが、みんなもあっけに取られて、こっちを見ている。
王子は片膝をついて、こう言った。花束が無いのが惜しまれる。
「どうか、私の花嫁になっておくれ。側室とは言っても、この国では正式な王太子妃となる。私はもうすぐ王となる。王太子妃は全て、王妃となる。どうか、この国の正式な第5王妃になってはくれまいか。そして、お前の素晴らしい、魔法の才能を我が王家に」
な、なるほど。王家の中に強力な魔法使いの血統を組み込みたいのか。自分にとっても、そう悪い話でもない。リオンは、小首を傾げて、天井を眺めるが如くポーズでしばし思案。
だから、聞いてみた。
「私には、夢があります。後宮の奥に閉じ込められて、子供を生むだけでは嫌です。自由が無いなら行きません。でも、私にそれなりの自由を与えてくれて、私の夢を叶えるお手伝いをしてくれるなら、あなたを夫と呼ぶ事になんの不満もありません。どうですか?」
皆驚いた。このやりたい放題の魔女が、こんな風に結婚、しかも次期国王相手にあっさり承諾するとは。
「ああ、構わないよ。なんでもしてやろう。お前はまだ子供だ。成人になるまでは好きにしていていい。その後も、やりたい事はしていてよい。ただし、外へ出る際には誰かはつけさせてもらうが、いいかな?」
「もちろんですわ、クアドリー殿下。では、どうか、私をあなたの妻に」
そう言って、殿下の下へいそいそと歩いて行った。少し見つめた後に、両手で方膝付いたままの殿下の頬を挟んで目を瞑り、チュっと軽くキスを。殿下も少し驚いたようだ。
リオンは不思議そうに、
「夫婦になったというのに、キスもしないのですか?」
「いや、王族は普通いきなり、そんな事はしたりしないのだよ。まあ、そういうのもよいか。では、おいでリオン」
王子は立ち上がると、軽く抱き上げるような感じにして、リオンに口付けをした。
こうして稀代の暴れん坊、無限の魔女と謳われたこの上なく美しい少女は、大陸一の王国で世継ぎの王子様の花嫁となる事が決定した。




