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3-15 出会いは突然に

 その男は絶望に彩られていた。もし、絶望の色ってどんな色? と誰かに尋ねられたとしたら、彼はなんと答えただろうか。

 答えられるまで、命があったらな、とでも答えるのだろうか。いや、今それどころではない、というのが真実だろう。


 それは大陸随一の大国トゥリオン王国の第1王子、クアドリー殿下その人であった。

 気品のある顔立ち。そして、容姿端麗。皆の憧れの金髪の王子様だ。何よりも落ち着いた雰囲気が目立つ。今もむやみに慌てたりはしていない。


 しかしその透き通るような青い瞳に映す、対峙しているものは、少し洒落にならない相手であった。伝説の主、エンシェントドラゴン。50メートルという、そのサイズだけで相手に絶望を与えることが可能だ。


 SSランクのモンスターである。近年この主をソロで仕留めたのはオリハルコンの冒険者、セシリオが最後だ。それも、もう15年も前の話。彼ももう現役は退いて久しい。


 少なくとも、例えオリハルコンの剣を手にしたとしても、クアドリー殿下がお一人でどうにか出来る相手ではない。状況は絶望的だが、王国の誇りは守らねばならない。


 王子は静かに剣を抜き放った。王家には、まだスンベールもいる。一本気な奴だが、きっと良い王になる。クアドリー殿下は少し微笑んだ。不思議と死ぬ気がしないが、それは望むべくはないだろう。


 だが、そんな状況を魔法で覗き見していた奴がいた。そして、そいつは唐突に現れた、というか奇襲をかけたのだ。ドラゴンは吹き飛んだ。顔面を殴られて。


 そこには、黄金を風に靡かせた、小さめの握り拳を固めた女の子が立っていた。その可愛い拳骨は、発光するほどの魔力を渦巻かせていた。そして、振り返り、端正な顔を覗かせて言った。

「あなたが、怪盗ルーベンスのお兄ちゃん?」 


 クアドリー殿下は、少し眩しそうに、その声の主を検分した。


「とりあえず、あなたとの話は、あの子を少し撫で付けてからにするわ。何、そんなにお待たせしないから」


 そして、彼女は跳ね飛んだ。人間ロケットのように。そして、転がっていたドラゴンを両足で踏んづけた。ドラゴンは一歩も動けない。この魔素溢れるダンジョンの中で、無限の魔女を押しのけられる魔物は存在しない。


 リオンは更に魔力を込めていく。足に敷かれたドラゴンの頭が砕けんばかりに軋む。

 女王様! と叫んでいる余裕は全く無い。それに、あまり、御褒美にはなっていなさそうだ。リオンも今日はハイヒールは履いていない。


 その時ドラゴンがタップした。しかしリオンには通じていなかった。この、つまんない転移事故を起こした奴をどうしてくれようか。怒りに我を忘れて、か弱いドラゴンに八つ当たりしている。まだお子様だからね。

 魔女の神経を逆撫でした馬鹿がいるのだから、仕方が無い。


魔力の塊のようなこの魔女は、魔法を使わなくても、こういう芸当くらいは出来る。武器の扱いはやや劣るが。だったら武器は使わなければいいだけの話だ。


 ドラゴンは更にタップで降伏をアピールしたが、リオンは何かどす黒いものに染まっている。

 ドラゴンの絶望は深まるばかりだ。ブレスを吐く事さえ許されなかった。抗うことさえ許さぬ上位の存在。


 ふと、彼は自分の頭の傍で、にやにやしている生き物の存在に気が付いた。


「おい、蜥蜴の小僧。今日から、俺の舎弟になるなら、とりなしてやらんでもないぞ?」


 足元を見られてる。相手は超獣のようだが、エンシェントドラゴンの誇りは……とりあえず、こっからこっちへおいといて、目で訴えてみた。


「おい、リオン」

 ガルちゃんが、さも可笑しそうに話かける。


「なあに、あたし今とっても機嫌が悪いのだけれど」


「日本ではプロレスとか格闘技では、タップしたら負けを認めるんじゃなかったのかの」

 にやにやしながら聞く。


「そうかもしれないけど、ここは日本ではないわ。何が言いたいの?」

 タップしていたのは知っていたらしい。


「その坊主、今日からわしに弟子入りする事になった。ちょっと大目に見てくれんかの?」


「ええ? あたし……今ドラゴンメイルの注文受けてて。材料が無くて、バックオーダー中なのよ。丁度素材が手に入って、よかったわ」

 ドラゴンは泣きそうな顔になった。


「こういう考え方もあるぞ? 生かしておいておけば、いくらでも鱗は生えてくる。しかもエンシェントだ」

 ドラゴンの表情に絶望が走る。動物って結構、喜怒哀楽が激しいものなんだけれど、ドラゴンもこんなに絶望した顔出来るんだ。リオンはそう思って、こいつに少し興味が湧いてきた。


 そして、こうも思った。前から、空飛ぶ乗り物欲しかったんだけど。宿から見上げた、ドラゴンライダーは、ちょっと憧れだった。


「あんたの舎弟なのはいいけどさ、あんたの主人は私よね? そいつは私の所有物ってことで宜しく」

 リオンはそいつの頭の上から下りて、両手を腰に当てる。


「おい、小僧。話はついたぞ、お前のご主人様に挨拶をしろ」

 ガルちゃんは、ドラゴンに無情に言い放つ。ドラゴンはのそのそと起き上がり、這い蹲って、リオンに向かって、うやうやしく礼をした。 


 それを見ていた一行は、信じられねえ、みたいな顔をしていた。とにもかくも、これで助かったのは確かな事だが、問題は……


 全員がその人物を見つめていた。第1王子、クアドリー殿下その人を。

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