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3-12 蜘蛛の糸

 ダンジョン突入後、1時間と少しで、地下5階へと歩みを進めた。間髪をいれずに、犬が現れた。大型の野犬のような佇まい。ん? しょぼいなと思ったら、どんどん集まってくる。それこそ、寄せては返す波の如くに。おそらくは数百匹はいる。


「ちょっと、この数やばくない?」

 ベックパーティの魔法使い、ライラさんがブルネットの髪を玩びつつ言った。口とは裏腹に結構余裕そうにはみえる。


「ガルムの気配に引き寄せられているんじゃないのか?」

 どうしたものかと、盾を構えつつ、ベックパーティのヨシュアさんが指摘する。


 ガルちゃんが、のしのしと進み出て、

「グアウルー」


 その場で全匹、ひっくり帰ってお腹を見せた。さすがに格が違いすぎたみたいだ。


「ガルちゃん、エライぞ」

 リオンがガルちゃんの頭をよしよしと撫ぜる。クールな顔で何気ない風だったが、リオンの傍で頭を下げていたので、撫でてほしいのはみえみえだった。犬である以上、尻尾の気持ちだけは隠せない。


「たいしたもんねえ」

「ホントホント」

「やるわねえ」

 女性陣に褒められまっくって、悪い気はしていないワンコ。尻尾が激しく動き、はたきのようだ。やっぱり、この犬っころ、ちょろい。


「いいぞー、ワンコっ!」

 ベックさんが褒める。

「ワンっ」

 どうやら、ガルちゃんはベックさんが好きらしい。ベックさんはテイマーになったら、凄かったかもしれない。


 地下6階へと下りていく一行。蜘蛛がいた。悲鳴を上げる女性はただの1人もいない。それどころか、なぜか嬉しそうだ。

「リオンちゃん、荷物持ちは任せたわよ」

「はい!」

 荷物持ちなんか任されたのに、リオンも嬉しそうだ。獲物が嬉しいものだからだろう。

こいつらは上等な糸や生地になる素材だ。こんな浅い層にいるんだから、安価に素材が出回っていそうなものだけれど、実はこいつらは殆ど姿を見せない。

 毒針の雨やスライムの奇襲、犬型魔物の襲撃をかいくぐった後のボーナスステージかと思えば、むしろ安全地帯に限り無く近い。なんていうか、がっかりフロアだ。


 しかも、すばしっこくて逃げられるし、むりやり捕らえようとすると糸でぐるぐる巻きにされて、毒を注入される。しかも、結構気分屋でそのままほっておいて、どこかへ行ってしまったりする。必ずしもボーナスとはいえない。


 ベテランなら、軽くあしらえるが、荷物になるためなかなか持って帰れない。むやみに解体すると空気に触れて素材が駄目になる。女性冒険者をやきもきさせる存在なのだ。


「ねーえ、リオンちゃん。スライムの時みたいに、あいつらを一杯呼び寄せる魔法は無いの?」

 ライラさんではない方の黒髪の女性に訊ねられる。やっぱり黒髪もいいなと、ちょっくら品定めをするリオン。


「出来ないことは無いと思いますが、こいつらどれくらいいるんだろ。毒持ちですが、大丈夫ですか?」

「大丈夫大丈夫、ねーマリカ」と、ライラさん。


 マリカと呼ばれた黒髪の女性は

「うん。いいんじゃないかしら。リオンちゃんもいるしね」


 マリカ……日本人風の名前。転移者? でも顔は完全にこっちの人だ。 マリカはこっちにもよくある名前だし。

「では、呼び寄せてみます。多過ぎたら、魔法を切れば散るのでは。多分そういう魔法です」


 多分というのは、さっき見かけた奴を「解析」そして「分析」して、その場で作り上げた魔法だからだ。まずはお試し。

「フェロモン魔法」


 最初は全く効果が無いような按配だった。

「ね、ねえ。全くやってこないんだけれど」

 少し焦れたようなライラさんが、声をかけてくる。

 この人はお洒落だ。リオンは断定した。身に着けたちょっとした細工、防具の着こなし、さりげない仕草。そういったものから、自分と同じ種族であるのを感じ取っていた。蜘蛛が欲しくてたまらないのだ。


「大丈夫です。にじり寄ってくる気配を探知しています。ロイスさん、そうでしょう?」


「あ、ああ。なんか凄い数が来てるけど、大丈夫なんだろうな? 浅い階層だからって舐めてると痛い目に会うぞ?」


 リオンは爽やかな笑顔を返す事で、回答とした。


「そろそろかな?」

 軽く、本当に軽くふわっとした、魔法を彼らの真ん中に放った。蜘蛛達は襲い掛かっていった。冒険者達ではなく、魔法の着弾地点へ。まるで、お釈迦様が垂らした蜘蛛の糸に群がる地獄の亡者のようだ。彼ら自身が蜘蛛なのであるが。


 殺到した蜘蛛たちが殺し合いを始めた。彼らは今、「メスの奪い合い」をしているのである。というか、しているつもり。そういう魔法なのである。


 ものの2分と経たないうちに、五体満足な蜘蛛は殆どいなくなった。蜘蛛の素材は体内の糸の塊と、それを作り出す内臓だ。糸の塊は言うに及ばず、その内蔵も糸よりも高級な繊維素材となるのだ。ただし、加工処理をすると1/10の量になってしまうが。値段は20倍するので割に合う。


 採集にはベテランを専門に送り込まねばならないし、そんなに量が取ってこれない。そもそも、なかなか姿を見せない、やっかいな魔物である。

 それが大量なので女性陣は狂喜した。


「これだけあるから、自分用の採取も認めるが、基本は販売用だからな」

 ベックが釘を刺す。


「やった、リーダー話せる~」

「愛してるよー、ベック!」


 チームのレディ達から嬌声が上がる。


 リオンも波紋のような魔法を放ち、一瞬にしてもう死んでいる蜘蛛を回収していった。

そして生きているものには、同じような探査の波紋に電撃魔法を乗せて仕留めて回収した。


「全て回収しました。女の子でどれだけ分けていいですか?」


 全ての女性の真剣すぎる眼差しが、鋭い研ぎ澄ました槍のように、ベックを射る。


 若干たじろぎながらも、さすがはリーダー、

「リオン、数はどれくらいある?」

「3064匹ありました」

 アイテムボックスは画面のように見ることが出来、数もカウンターで確認できる。中はファイル分け出来るようにしてあり、今回のダンジョンアタック用に領域は区分けしてあった。


 歓声が上がる。


「わかった。3000は売り物。残りは女の子4人でわけろ」


 おおはしゃぎで、抱き合う女の子達。何にしようかなあ。ブラウス? 帽子? 薄地のお洒落な手袋もいいなあ。

 大体50~60cmサイズの蜘蛛からは、案外と結構な量の糸が取れる。女の子の上下やワンピが2着は出来る。そして、それは大変高価なものだ。内臓から加工したものなど普段なら手が出ない! しかも1人16匹ずつ。


 なるべく大きいのを選り分けてね。こっそりリオンに耳打ちするジェシー。ちょっと大人しかったのは、どんな洋服に仕立てるかという、妄想世界の住人になっていたらしい。


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