3-11 おいしいスライム
まだ迷宮に入って1時間も経っていない。下へ行くほど難易度は上がるので、このペースでも不自然ではない。
ここまでは、少し暗いながらも、ヒカリゴケのような植物のおかげで物は見える状態だった。この階層は真っ暗だ。恐らく、その暗さに乗じて忍び寄ってくる魔物がいるのだろう。
「ジェシー、明かりを出してくれ。あまり魔力を……」
ジョンソンが指示を出そうとした、まさにその時、あたりはいきなり光に包まれた。
「!?」
みんな、眩しそうに手を顔の前にかざして、片目を瞑り半目になっている。
空中に何か円盤のようなものがいくつも浮かび、それが強烈に発光しているのだ。あたりはまるでショッピングセンターのような明るさだ。いらっしゃいませと言ってくれる店員はいないが。
「これはなんだリオン」
他にこんなものを発生させる原因となる人物は見当たらないので、犯人はあっさり特定された。
「何って、照明の魔道具よ。LED仕様で消費魔力は当社比で通常の半分です」
まるで、LED照明器具の商品説明みたいな説明をするリオン。
「また、とんでもない物を」
マークとジョニーは気にした風も無い。どうせ、夕べか何かにでっちあげたもんだろ、くらいにしか思ってはいない。当たりである。だてに付き合いは長くない。
ワンコ用のフライングディスクに魔法を付与して作ったのだ。
リオンは探索の魔法を放ってみた。同心円上に放つソナーのようなもの。魔物に当ると、跳ね返ってくる。大体の形状や大きさ、性質などがわかる仕様だ。一種のスキャニング魔法だ。
「報告。周囲に小型魔物多数。かなりの数に上ります。スライム系と思われます。最短距離10Mから」
ちょっとお澄ましな、報告基調で言う。言ってみたかったのだ。
「便利な魔法使うわね」
ジェシーが褒めてくれた。さすが、ベテラン魔法使いだけあって、どんな魔法を使ったか理解できるのだ。
「用心して進むぞ」
ベックが号令をかける。
「待って! スライム狩らせてもらってもいいですか。ちょっと素材が欲しいので」
そう、素材が手に入りにくいのである。あまり役に立たないので安い上、攻撃すると余り無事には残らない。何しろ火が有効な魔物なので。
「こんな物何に使うんだ?」
不思議そうにベックが聞く。
「ふふふ。企業秘密です~」
実は例の特別な膠に使うものなのだ。地球の知識やイメージで作る。あと、
ゼラチンであるので、良質な御菓子の原料にもなる。
孤児院時代は、おやつの材料として、死に物狂いで狩りにいったものである。探すとなると不思議といない。冒険者ギルドで依頼を出しても、手間なのでなかなか納入されない。暇を見ては納品用に狩りに行くことも少なくなかった。
「すぐに済ませますから。絶対に手は出さないでください。火魔法なんか使われたら、素材が台無しになりますから」
そういうや、リオンは「スライム専用ヘイト」を発動する。効率的な狩りをするために。
あっという間にスライムが集まってきた。リオンの魔力でやっているので、既に状態が憤怒に変わっている。いわゆるバーサーク状態だ。こうなるとスライムでも馬鹿には出来ない。
「おいおい!」
ベックやジョンソンが大慌てになる。
ガルちゃんは横になって寝そべってしまった。大変くつろいでいる。
あたりはスライムの海。これはスライムレイクと呼ばれる、スライム独特の現象で、これは集合体というより巨大化した個体といったほうが正しい。しかもバーサーク状態である。程度によってはBランクの魔物に相当する。つまり、このパーティの手には余るという事だ。
リオンが舌舐めずりをする。美味しい。とてつもなく美味しい。バーサーク状態の集合個体。それは「最高品質」を意味する。その品質を想像するだけで、うなじの産毛がぞくぞくする。御菓子にすれば、もっと美味しい。
「キルスライム」
物理攻撃には強いスライムだが、水中を走る衝撃波のような攻撃には弱い。この魔法は強力な振動を放ち、スライムのような生物の核だけを破壊する魔法だ。全身の核、魔物のコアを破壊されたスライムは無害なビニール袋入りの超良質ゼラチンの山でしかない。
超最高品質のスライム・ゼラチンの山の前に立ち、リオンの脳裏に浮かぶレシピはいかなるものか。頬を上気させ、若干涎が垂れているようだ。慌てて、手で拭くと、全ての収穫物を収納した。
マークとジョニー以外の全てのメンバーは唖然として、その光景を眺めていた。2人組は辛抱たまらなくなって、
「なあ、リオン……」
「わかってますって。任せておいて!」
とても嬉しそうなマークとジョニー。孤児院を出て以来、リオンの作る御菓子を食べられる事がどれだけ贅沢な事か身に染みていた。そのうち、おねだりしようと思っていたのだ。
他の人は怪訝そうに、それを見ていたが、
「さあ! 先を急ぎましょう」
リオンが急かす。
さっさと進んで、せっかくのゼラチンで何か作りたいという、下心があったのである。




