1-3 サプライズ
部屋は広いといっても、そこそこの広さだが、ベッドしか置いてないので余剰スペースはある。冒険者の宿だから。
とりあえず、調度品を並べていく。綺麗なパステルカラーの洋服箪笥。プラスチック製のようだ。
アイテムボックスがあるので箪笥は無くても困らないが、女の子だから素敵な箪笥は欲しいのである。あと、もしかしたら奥がファンタジー世界に通じているかもしれないではないか。もっとも、ここがもう既にファンタジー世界なのであるが。
高級執務机。書き物をするのに、いい机は欲しい。何を書くつもりなのか。机の上には「LED卓上スタンド」が置いてある。置いてあるのは、綺麗に印刷された便箋と万年筆だ。普通は羊皮紙と羽根ペンのはずだが。
そして、お洒落な机と椅子。素敵なお茶のセットをガラス戸の中にしまった、サイドボード。その上には「電子レンジ」「湯沸しケトル」「コーヒーメーカー」
何故だろう。ファンタジーっぽい世界なのに、あまりそぐわない物品が置いてあるような気がするが。
ベッドの上にゴロンっと転がって、天井を見上げ、ついに独り立ちを実感した。これからは自分の力だけで生きていくのだ。
工房や商人のところへ行った子とかだと、無給でご飯とかもらえるだけ。中にはクビになり、路頭に迷って浮浪児になったり、犯罪組織の使いっぱしりになったりする子もいる。
冒険者家業の子なんか、毎日命懸けだ。あいつらは大丈夫かな? 冒険者見習いになった孤児院の同期の子を思い浮かべる。
なんとかマシなスタートは切ることは出来た。とりあえずは幸せだ。今日は絶対ご馳走を食べようと決意した。まだお金には余裕がある。宿代はしばらくの分は払ってある。
食うには、まず仕事!
ベッドから飛び起きると、宿を飛び出した。
「行ってきます!」
元気に挨拶をしてから。
「はい、いってらっしゃい」
お母さんのように、声がかかる。こういうのもいいな、とリオンは少し微笑んだ。
行き先は冒険者ギルドなどではない。王都の商業ギルドだ。孤児院時代にも仕事はもらっていたので、顔見知りはたくさんいる。
距離的に宿からは、そう離れていない。この宿はそれほど格式ばってはいないが、リッチ条件はいいのだ。3分ほどで、商業ギルド立派な建物が見えてきた。
石造りの3階建て。地球だと、それなりの高さの近代的オフィスビルに相当するものだろうか。
中でも仲よくしてもらってる、年配のギルド職員に声をかけた。
「こんにちは、ベネットさん。今日はどんな買い取り依頼が出ていますか」
リオンはいつも丁寧な言葉遣いを心がける。子供だから、なおさら。お仕事の相手なのだ。
「やあ、リオンちゃん。そうだねえ。薬士ギルドから、基本構成薬や薬草にその他の素材かな。
後は、革職人からの良質の膠の素材になる物。前にもらった精製された奴、あれは良かったね。出来たら、あれを頼むとヨハンが。
他に良質の木材があれば」
リオンは頷くと、薬関係の物品、以前に販売した超高品質の膠、そして・・「屋久杉」を出した。もちろん、この世界に屋久杉など存在しない。屋久島なんて地名はどこにも無いのだから。もちろん、ギルド職員はそんな事には気がつかない。目の前にある商品が全てだ。
「ほう。この木材はなんだい? 物凄い物のように見えるが」
「これは樹齢何千年も経た特別な木なの。木目年輪も凄いでしょ。しっかりした素材よ。磨き込めば、なんとも言えない味が出るわ。高く買って欲しいな」
依頼をした木工ギルドの職員が呼ばれて、話し合いの末、代金上乗せで追加分まで買い取ってくれた。こんな凄い素材は見た事がない、また入荷したら頼むよ、と言ってほくほくで帰っていった。
都合全部で金貨10枚。日本円にして100万円相当。もちろん税金などは差し引いた金額である。12歳になったばかりの女の子の稼ぎとしては、物凄い稼ぎである。
スキップしながら宿へ帰ったが、いきなりバネッサに2階へ引きずっていかれてしまう。
な、なあに? 驚いたが、この子のやる事なので、黙って付き合う。
「えー、一体なんなの?」
「いいから、いいから」
バネッサにまくしたてられて、彼女の部屋でしばらくお喋りタイム。
部屋は、女の子らしい可愛い感じに仕上げられている。手作りのクッション、壁にはタペストリーのようなものが飾られている。ぬいぐるみや、人形などの小物がたくさん置かれている。
裁縫道具や素材が置かれているところをみると、彼女の手作りの品のようだ。
しばらくすると、マーサさんが呼びに来てくれた。2人に連れられていくと、木のテーブルの上に何かご馳走がズラリと並べられていて、他にも冒険者さん達がたくさんいた。
誰かが魔物を追い立てる時に使う、ラッパのような大きな音の出る道具を鳴らした。何人もの人が鳴らしてくれて、ビックリした。こ、これって、もしかして。
「お誕生日おめでとう。リオンちゃん。わしらからの、ささやかなお祝いだ」
冒険者達も口々に、おめでとうを言ってくれて、とてもビックリした。みんな、小さな子供の頃に知り合ったような人ばかりだ。ありがとう、おっさん達!
まだチビっ子枠なので、おっさん達にしかモテてないが、心の中で、いつかカッコいい男の人に祝ってもらおうと決めたのは内緒だ。
それでも、とても嬉しい。孤児院を出たばかりで、ちょっと寂しかったのだ。
「みんな、ありがとう。とても嬉しいです」
おっさん冒険者さん達が、お金を出し合って用意してくれたらしい。素直に喜びは表しておく。
それから、しばらく楽しい一時を過ごした。新たな人生のリスタートは悪くない1日だった。
作者の1作目です。よろしかったら、どうぞ。
「おっさんがオートキャンプしてたら、何故か異世界でキャンプする羽目になった」
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