3-3 防具は「ぬののふく」
時間は午後3時くらい。
「ただいま~」
「おう。どうだった?」
夕食の仕込みをしているロバートおじさんが、厨房の方から顔を出して聞いた。
「うん、いい感じだったよ。いい人達紹介してくれて、ありがとう。明後日から迷宮に行くって。あたしは最初は見学だって。凄く楽しみだよ。でも色々準備しておかないと」
「おー、そうか、そうか。また何かわからないことがあったら、聞きなさい」
そういっておじさんは、厨房へ戻っていった。
部屋に帰って、早速防具の開発にとりかかる。照明は明日にでも、間に合うが、防具については明日チェックしてもらわないといけない。後、トイレと御風呂。これは前にも作ったことあるので、ダンジョン仕様を作るだけでいい。
「さてと、まず動きやすくて軽量な感じがいいわよね」
机に座るとPCを引っ張り出して、デザイン・設計を始める。
まず、おしゃれである事。機能美である事。防具にさえ、お洒落を求めるのは少女の為せる技か。
あれこれ、デザインを考えていて、決まったのは夕食直前だった。今日は宿の食堂で食べるのだ。おっさん達に報告しないと。
「お、リオンちゃん、ダンジョンに行くんだって?」
「まあ、始めは慣れないから、無理をするんじゃないぞ」
次々に声がかかる。子煩悩な親父達である。
「大丈夫、無理しないよ。いいパーティ紹介してもらったし。今からまた装備とか準備するところ~」
楽しく、お喋りしながら晩御飯。これからも、ここにいる間は食堂で食べようかなとリオンもにこにこだ。
部屋へ戻ると、作業の続きを。1時間ほどでアイデアをまとめ、もう1時間ほどで設計書を作り上げた。商品でもなく、ほぼ無料素材で作られた自分用の試作品だから、さくさくといく。
纏めたデザインはほぼ布製の装備。布といっても、かなり特殊な繊維で出来ている。チタン合金・炭素繊維・防弾チョッキ用の超高分子ポリエチレンなどを編みこんで作られた、特殊なものだ。ただの布よりはいささか重い。生地も若干厚め。
いかにもがっしりといったズボンに長袖のシャツ。手持ちの素材や技術で作られているため、本当ならすぐ設計できたのだ。設計に時間をかけたのは、お洒落なデザインにしたかったから。おかげで、見かけもそれなりの物には仕上がっている。
それに同素材の厚手のジャケット。それらには、特殊な魔法硬化機能を持つ表面処理剤エブロンCを塗布。ただし、市場には流せないレベルの特殊な高性能なものを。このエブロンCはリオンのオリジナル製品だ。
チタン合金製の胸当てとヘッドランプ付きのヘルメット。指先まで頑強に保護してくれて、その上で動きやすいグローブ。布地メインだからできる芸当である。
鎧のヘルムっぽいデザインにしてあるが、構造はヘルメットそのものである。炭素繊維をメインにチタンを使用している。鉄の網の入ったガラスのような構造だ。当然強化のエンチャント済みだ。ゴーグル付きの面のオプションを付ければ顔面の保護も可能だ。お洒落ではないが。
これはエブロンCにどっぷり漬け込まれている。ヘルメット本体だけならば、M2重機関銃12・7ミリ弾の200発連射にも耐える代物だ。装着者の方が無事では済まないかもしれないが。
繊維などの素材単位、完成した製品単位で、物質強化や衝撃吸収、軽量化などのエンチャントがかけられている。作成時にかけられたものは、破壊されない限り有効であるため、この手の技術者は重宝される。
ダメージを受けると、効果が減損するため、メンテナンスが必要だ。死にたくなければ。
更には素材単位で、防水&通気性を、日本製の特殊素材並みに引き上げるエンチャントを。組み上げた装備には魔力を対価に機能する、エアコン魔法を付与しておいた。
出来上がってみたものを、鑑定すると、七色猪の鎧の10倍以上の防御力を誇る防具となった。一応要所には七色猪の切れ端もあてがってはある。
市場に流せない技術を使用すると、無料素材でも半端な魔物素材では対抗出来ない性能となる。
次にトイレだ。今まで作っておいたトイレがある。頑丈な筐体と、地面が不安定な形状でも、きちんと立つ特殊な形状変化底材を使用した。普通の地面ならば魔法でならせばいいのだが、ダンジョンの床が加工出来るかわからない。
御風呂に取り掛かる。基本キットは各種試作品を取り揃えてある。トイレと同様にダンジョン仕様にしたが、脱衣所や洗面所も作ってみた。
ふと思いついて、コテージを作ってみた。ダンジョン仕様で。こちらは、もう頑丈の一言。その構造材の全てを原子力空母の甲板に使われているチタン合金で作成。外装厚さ300ミリ。空母の甲板など問題にならない厚みだ。
素材の段階で強化を施してあり、エブロンCを厚めに塗布というよりも、完全に厚めに塗装されている。適当に作ったので、要改良。断熱やエアコンも完備されている。今回のダンジョン行きで試してみよう。
ついつい工作に熱中して、遅くなってしまった。ふらふらしながら、ベッドに潜り込む。ガルちゃんはとっくに夢の中だ。