表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/41

2-6 夢破れて

 あれから1週間ほどたった。コンクールはもう締め切られている。悪い噂が広まっていた。


 今も商業ギルドで、何人かの職人が寄り集まって、噂話をしていた。

「グランパドス商会が、職人の作品を勝手に販売していると聞くが、実際はどうなんだ?」

「張り切ってうんと先に提出した人達がいたんだが、そういった作品の中から、 グランパドス商会が勝手に販売している商品があると。それも一つや二つではないんだ。問い詰める動きも出たが、自分達のオリジナルであると言い張っているらしい」


 少し年のいった職人さんが、こう言っていた。

「普通はそんな事は、やらないもんなんだが。信用問題だからなあ。他の商会の連中も首を捻っているらしい。どの道そんなやり方は後が続かない。

 内部でごたごたしてるのかもしれんな。そういや、あそこは最近代替わりしたと聞く。そういう時には色々あるもんだ」


 リオンは気が乗らなくて、締め切り間際に提出したのだが、そんな事があったらしい。

 この世界には、知的所有権保護という考えは無いが、信用第一の商人達は通常そういう仁義の無い真似はしない。次の商売で、相手に信用されなくなってしまう。


 うわあ。これは多分・・馬鹿ボンが後を継いだね。子供可愛さに、そういう事をする商人も多いが、しっかり躾けて鍛えた人ならいいが、甘やかされて育ってれば目も当てられない。日本の東証一部上場企業でも、頻繁に見受けられる光景だ。

 そんな事を考えながら、リオンは情報を収集していた。


 ベネットさんが急がしそうに立ち回っていた。もしかしたら、噂の件と関係あるのかもしれない。何人かの職人が深刻そうに相談に来ていたし。

 少し声をかけづらい。


「リオンちゃん」

「あ、ベネットさん、お忙しいんじゃ?」


「あ、ああ。そうなんだがね。これは内々の話として、聞いてもらいたいのだが」

 と、前置きして、

「このコンクールはもしかしたら、中止になるかもしれない。もう疑惑が止まらなくて。職人からも苦情が入りっぱなしだ。このままだとギルドの信用問題に発展する」


 ああ、そこまでいっちゃってるのか。

「窓口になったギルドも1枚噛んでるんじゃないか、って言われるんですね」

「ああ、そのとおりだ。面目ない。やらざるを得ないから、やったわけなんだが、最初から少し怪しかったのは事実だ。ギルドとしても、責任の追及は免れられないわけなんだが、傷は浅いほうがいいという結論に達しつつある」


「グランパドス商会、何考えてるんでしょうかね?」

 リオンは自慢の髪を軽く振り回すような仕草で、頭を振った。


「跡継ぎの息子が、相当の大馬鹿者らしい。諌めた先代からの番頭は、昨日クビを切られたよ。嫌気の差した若い連中は、番頭を慕って一緒に出て行ったらしい。もう、あそこはお終いだな」


 うっわあ。これはアカン。私の冷蔵庫……こんなコンクールに出すんじゃなかった。渾身のデザインだったのに。

 まあ、あの連中に「インダストリアル・デザイン」の概念が理解できるとは思わないから、後が続かないでしょうけど。リオンはそんな思いで、商業ギルドを後にした。

 今日は仕事する気になれないっていうか、ギルドがあれじゃ仕事にならない。


「ただいまー……」

 いつになく、気乗りしない挨拶に、マーサは驚いて、

「あらあら。どうかしちゃったの?」


「あー、コンクールがなんか、駄目になりそうで。がっかりです」

 リオンは、椅子にへたりこむような感じで、フロント横のロビーというか、単に机と椅子がおいてある場所に座り込んだ。


「まあ、そう……。残念だったわねぇ。元気を出しなさい。今、お茶を入れてあげるわ」

 マーサはそう言って、棚からお茶と焼き菓子を取り出した。魔道具の湯沸かし器でさっと湯を沸かし、お茶を出してくれた。


 バネッサもフロントで帳簿を付けていた手を止めて、リオンの向かいに座った。

「えー、コンクールが駄目になっちゃったの?」


「うん。多分出品物も戻ってこないね。最初から騙し取るつもりだったみたい。その代わり、あそこの商会はもうお終い。中の人間も、もうついていけないみたいだし、他の商会や職人達の信用も全部失っちゃったし。この国の王都で、これだけやったから、他の国でも、もう駄目でしょう」

 リオンも顔を顰めながら、返事をする。


「これから、どうするの?」

「まあ、今まで通り、商業ギルドを通して地道な仕事したり、カイルさんの店で防具の仕事したりね。商会設立への道がまた遠くなったわ」


 セシリオの鎧で高級な仕事も経験できた。自分のレベルも上がっている。服飾関係や衣料品素材なら、セシリオに相談すれば、結構な取引になるかもしれない。

 信用できない所とは商売したくはない。こっちは子供なのだ。世の中、魔法の大立ち回りだけで渡っていけないことくらい、リオンにはわかりすぎている。

 前世の25年の経験はかけがえの無い財産だ。


 今はとりあえず、悪友とのお喋りで心を癒す事にした。


 作者の1作目です。よろしかったら、どうぞ。

「おっさんがオートキャンプしてたら、何故か異世界でキャンプする羽目になった」

 http://ncode.syosetu.com/n6339do/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ