2-4 地道に頑張る
デザインで差をつけるという考え方もある。特に機能美。この機能のために、このデザインがある。だから、この商品は美しい。意味のある美しさ。そんなコンセプトが新しい考えとして、評価されるかもしれない。
今回は、新しい画期的な技術は出せないという制約があるので。
リオンはPCを操作して、色んなデザイン画を生み出していた。「生前」に見たようなものばかりなのかもしれないが。デパートや電器店めぐりとかは大好きだったほうだ。
根を詰めても仕方が無い。気晴らしに何か仕事が無いか、商業ギルドを覗いてみることにした。ワンコの散歩も兼ねて、お出掛けである。
お気に入りの自作ワンピを引っ張り出して、踵の大きな可愛い茶色の革靴とセットで。リードも、お洒落なピンク系である。
商業ギルドへ行くと、コンクール概要の掲示の前で、若い職人達が何か深刻そうな顔で話し合っていた。
ふと耳を傾けてみると、
「おい、聞いたか。グランパドス商会の話」
年の頃は20歳ちょっとすぎたあたりだろうか。短髪の如何にも職人気質という風貌の青年が話を切り出した。
「ああ、なんだか雲行きが怪しいな」
隣にいた、友人らしき、もう少し年嵩の男が言った。
リオンは眉を顰めたが、耳はそばだてる。
今度は、年嵩の男の方が、
「なんでも相当巨額の損失を出したそうじゃないか。なのに、こんなコンクールをやろうとしてる。他の商会に行ってる奴らの話によると、そんな事してる場合じゃないだろうと、もっぱらの噂だそうだ」
短髪の職人も、
「商業ギルドの偉いさん達も、その件で神経とがらせてるって話だ。おまけに後援のメルキス伯爵家の台所事情。不安に思ってる奴も多い。このコンクール、荒れるな」
「とはいえ、俺達みたいな職人が躍進したかったら、こういう機会は逃がせないんだがなあ。ここ最近停滞ムードで、コンクール自体も久々だ。悩ましいよな」
もう一人、話を聞いていた男も会話に参加した。
(うわあ、そんな状況なの? ろくでもない結末が待っているかも。でも、腕試しはしたいし)
リオンとしても、内心穏やかではない、悩ましい展開だ。
とりあえず、ベネット氏を探し、御用聞き。
「そうだね。この間の木材は好評だったね。噂を聞いて例のコンクールにも使いたいという人がいて、木工ギルドにも問い合わせがきているそうだ。良かったら、木工ギルドに連絡をしてもいいが、在庫はどうだね」
「はい。十分にありますわ。他には?」
「そういえば、この間オリハルコンを仕入れたそうだね。欲しがっている人がいるんだが、もう残っていないかね」
少し残ったが、自分用の小さなナイフに仕立ててしまった。自分の能力でも、魔法金属は精製出来ない。あれは、お気に入りの出来だ。手放したくない。
「残念ながら、すでに加工販売済みですので、ご要望にはお答えできませんわ。それでは、木工ギルドへ販売という事で。ギルドの方を呼んでいただいても宜しいですか?」
ベネット氏が若い職員に言付けて、木工ギルドへ使いに出した。
「さて、お茶でも用意させよう」
「お気遣いどうも」
氏がお茶の用意を、手の空いている女性職員に指示を出している。
ベネット氏が、座ったという事は、何か話があるのだなとリオンは思った。この人はいつも忙しく立ち回っており、勤務時間中にこんなお茶をしている人ではない。
程なくお茶が運ばれてきて、ありがたくいただく事に。お茶請けの焼き菓子に顔を綻ばせる。ここで出てくる御菓子は美味しいのだ。さすがは、大陸一の王国王都の商業ギルドだ。女性職員も笑顔で配膳してくれる。カップも、花をあしらった、なかなか素敵なものだ。ここへはかなり前から出入りしてるので、リオンの好みも色々よく知ってくれているのだ。
お茶を一口啜ると、ベネット氏も話を切り出した。
「このコンクール、胡散臭い匂いがプンプンするね。商業ギルドとしては、最初からあまり乗り気じゃなかったんだが、しばらくコンクールもやられてなかったしね。こういう機会を待ち望んでる職人も多い。ギルドとしての立場上やらない訳にもいかなくて。最近、グランパドス商会の黒い噂も耐えなくて。本当に困りものだよ」
リオンも考える風だったが、
「ベネットさんは、あの商会がどうするつもりだと思います?」
「今の段階で、なんともいえないな。色々事情を調べさせてはいるんだが。もう、かなり色々噂は広まってしまってはいるがね。まあ、商業ギルドとしては、慎重なスタンスで望みたいと思ってるんだ。君も気をつけるように。」
うーん、商業ギルドの職員さんがこんな事言ってるようじゃ、このコンクールも先行き暗いな。
私が、いつも良い商材を取り扱うので、あまりお金や手間暇つぎこんだりしないようにという、やんわりとした忠告のつもりだろう。
ここは素直に感謝。
木工ギルドの人が来たので、そのままお茶しながらの商談となった。元々先方から買いのオファーがあった商談だったので、話はすぐに纏まった。木工ギルドのおじさんと、にこにこしながら握手をして、商談を終えた。
ほどなく金貨20枚分の利益を手にして、忠告とお茶のお礼を言って、ギルドを辞する事にした。
作者の1作目です。よろしかったら、どうぞ。
「おっさんがオートキャンプしてたら、何故か異世界でキャンプする羽目になった」
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