2-3 コンクール
仕方が無い。コンクールは気が進まなかったが、目に見える実績を見せないと、どんないいものでも評価してはもらえない。とりあえずは商業ギルドで、申し込み申請は出す。
何をやってみるか、色々考察をする。セシリオさん向けの防具の設計もやらないといけないので、机仕事ばかりだ。
とりあえず、手持ち金貨194枚か。コンクールも購入素材は無し。
とりあえず、セシリオさんの方を片付けないと。この仕事は失敗出来ない。今「金貨500枚の借金をしている状態」だから。失敗したら身売りものの身の上だ。その代わり成功すれば、ワンランク上の仕事がやっていけるかも。
取り組んでから1週間。設計書は完成している。デザインもだ。特注品シリーズとして、カタログにも載せておいた。
素材全ての特性を理解し、そして何よりクライアントからの要求、それを魔法に組み込むイメージ。
一心不乱・一期一会・己の全てを込めてみた。
光る高価な素材の山。
出来た。
寸分違わず、自分のイメージ通り。ただ、それが依頼主のそれにも当てはまるかどうかは、まだ未知数。そのへんは小説の書き手と読み手の関係のようなものか。
カイルさん立会いの下、ミスリルドラゴンの鎧を納品した。
セシリオ氏曰く。
「感激ものだ。この鎧、装着した後に脱いだ際、下に着ていたはずのスーツに、一切のしわ一つ無い。こんな事が、いやこんな気遣いがこの世に存在しようとは」
だって、あなたには必要な性能なんでしょう? そんな顔でにこにこする。
「かつて。かつて、私が生きていた世界では、これが当たり前品質でした。MADE IN JAPAN。今では死語ですけどね」
「リオン。 あなたは!」
リオンはそっと人差し指を唇の上に立てて。
「野暮は言いっこなしですよ。対価のお支払いをお願いいたします」
リオンは、この男が薄々自分の事に感づいているだろうと思っていた。自分のファッションに彼がひどく注目していたのを知っている。
お互いの利益になりそうなので、さらっと漏らしたのだ。オリハルコンのプレートを持つ者は、やたらな事をしたりはしない。その点は信用している。人柄も確認した。
とはいえ、今はまだ時期尚早。顔は繋いでおくべきだけれども。
彼は大物であるとは思うが、貴族ではない。貴族が横暴をしてきたら、無理はしないだろう。大事な顧客でもあるし。
リオンは白金貨5枚を利益として手にした。日本円にして5000万円といったところか。2億円相当の商品で、半分が職人の受け取り分。そこから素材や加工費用などを差し引いたものが職人の利益となる。販売店が税金を負担して、手続きも全て行ってくれる。その他の費用を差し引いて、残りが店の利益だ。
ザクっとしているが、一般的にはこんな感じだ。この世界に累進課税の考えはない。金持ち優遇なのである。
受け取り利益のうち半分がすでに素材費として前受け済みだ。
利益率からすれば最低水準、利益金額からすれば過去最高だった。
自分はきっと頑張れる。そう思える手ごたえだった。コンクール、今回駄目でも、きっと次回は。
コンクールも、当座の十分な資金を稼いだので、ゆっくりと取り組める。
始めは高性能で画期的なものを考えていた。しかし、ベネット氏の忠告を聞いて、考えを変えた。一応参加はするが、画期的なアイデアはつぎ込まない。嫌な予感がするのだ。
1日かけて、あちこちの魔道具店を覗いて歩く。なんとなく方向性は決めた。その商品は一般普及していなかったので。少なくとも王都では。ここに無ければ、この世界には無い。通常なら、そう言い切って構わないほど、この国は進んでいたのだ。
部屋に帰ると、コーヒーを入れて机に向かい、PCを引っ張りだして、仕事を始めた。
この世界には魔法という恩恵がある。魔法使いは、その魔法と引き換えに色々と恩恵が与えられる。リオンは机に両肘ついて、あごを乗せ、ペンを唇で咥えながら考えた。
魔法はイメージの世界であり、便利なシステムだ。おかげで、機械文明のようなものはあまり発展してこなかった。為政者にとっては民衆は愚鈍なほうがよく、各王国で庶民のための学校などの整備がされる事もなかった。
よって、民間からそういう流れが出てこなかった。魔法や関連技術は貴族王族大商会がほぼ独占的に占め、一般の人は中世的な暮らしを余儀なくされていた。
例外は魔法に秀でた冒険者のような人達か。
学園は貴族王族の為のものである。しかも、近年は社交に重点がおかれ、色々とおざなりだ。稀に魔法にすぐれた一般国民などいて、学園に入学しても意味はあまり無く、その無意味さに立ち去るか、貴族にへつらうだけという無残さ。
王国でも、こうした風潮をなんとかしたいという動きはあるのだが、古い王国はなかなかに、拙速な動きというものは憚れる。
魔道具なども、その動きに追随しており、今では画期的な商品というものはなかなか現れない。そこに付け込む算段であったのだが、暗礁に乗り上げた形である。
「うーん、コンクールなんだから、見栄えは大事よねえ」
傍らのガルちゃんに、話しかけるともなく呟いた。なんとなくアイデアはあるのだが、デチューンするとなると、肝心の賞に届かない。悩ましい。
ワンコはコンクールなんぞに興味は無いので、知らん顔であるが。
作者の1作目です。よろしかったら、どうぞ。
「おっさんがオートキャンプしてたら、何故か異世界でキャンプする羽目になった」
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