2-1 ワンコのいる生活
ガルちゃんは、宿のみんなの善意に支えられて、リオンの家族として認められた。今、お部屋はワンコのケア用品で、満ち溢れてる。
そうしつつ、ガルちゃんのお話を聞くことにした。翌朝、いつもの儀式を終えて、可愛い御部屋着でくつろぎながら。
「結局失せ物って、何だったの? 何故、あそこにあったの?」
ガルちゃんを抱っこして、わしわししながら。
「うむ。人間にとっては、価値のあるものであったらしい。買い取りという事をしてもらいに行ったらしいのだが、断られて出ていったらしい」
何故、そんな事がわかるのか。まあ、話が漏れ聞こえてたとか、そんなもんでしょ。
人間にとって価値があり、高級店に縁がありそうだけど、買い取りを断られる物。なんじゃ、それは。でもって、超獣の女王には大切なもので、紛失したガルちゃんが探しまくっているという。
このガルちゃん、かなり残念系なキャラだけど、弱いとかザコなわけじゃない。あそこにいた連中が人の姿をした人外だったというだけの話。
そんなガルちゃんが、探してくるまで帰ってくるなみたいな扱いになっている。
一体探し物は何? 超獣と人間の価値観が違いすぎるので、こっちの言葉で話しても、日本語で話しても、さっぱり要領を得ない。どーするのか、これ。
いっそ、リオンが超獣の女王の所へ話を聞きにいったほうが早いのでは。
一応、リオンとしては、それらしきものはないか探査をしてはみたが、イメージが命の魔法なので、こんなに曖昧な情報では如何ともし難い。
ガルちゃんも何か困っているようだ。
(ははーん、これは何か人間には言ってはならない禁忌みたいなものがあるんだな)
デリケートな問題のようなので、少し様子見する事にした。
丁度チャレンジしたい仕事の課題があったのだ。それは「コンクール」
そちらにチャレンジしつつ、ガルちゃんと親交を深めて、話を聞きだす事にしようか
コンクールはさる大手商会が主催するものだった。スポンサーに貴族がついていて、王都の職人達が目の色を変えているという。
テーマは「斬新な製品」
これは、もらったようなもの? このコンクール、私のためにあるようなものだわ、とリオンはほくそ笑んだ。
その様子を見て、ガルちゃんは、
「それはよいのだが、こっちの話はどうなっとるのかのう」
「やかましい。あんたの説明があんまりにも曖昧だから、手がつけられなくて、探しようがないじゃないの! 文句があるなら、失せ物について、きりきりとお吐き!」
「うむ・・それは」
やはり、何かの禁則事項に触れるようだ。まあ、仕方が無い。しばらくは、この犬っころと暮らすとするか。1人暮らしにペットは必然だよね。毛並みだけはいいんだ、こいつ。手触り最高。リオンはそんな気分で、ご機嫌のようだ。
作ったばかりのワンコブラシで、ブラッシング中。
リオンは「生前」ワンコが飼いたかった。でも、自宅がペット禁止だったので、飼えなかったのだ。色々あって、引っ越すことが出来なくて。
今ちょっと幸せのようだ。失せものの手がかりが無くて幸いだった。
ワンコの方も、そうまんざらでもなさそうだし。
リオンにはいくつかの夢がある。しかし、そのうちの一つは唐突に叶ったようだ。
残りを叶えるべく、出かける事にした。ワンコを抱っこして。
ご飯はお部屋で済ませた。栄養満点のシリアル、グラノーラだ。ビニールチャック付きのアルミパックに入っている。いつか販売してみたい。まだミルクが一般家庭に普及していないから厳しいが。
ワンコにはドッグフードをくれてやった。珍しそうにくんくんしながら齧っていたが、
美味しかったらしく、御代わりを催促された。
それから商業ギルドに向かった。一応リードを付けて犬の散歩っぽく。ガルちゃんも、お散歩は好きそうだ。犬だものね。
帰りには広場で、フライングディスクで遊ぼうと思っている。せっかく念願の犬を飼えたので。
商業ギルドに着いたら、ベネット氏を探して、コンクールについて尋ねてみた。ガルちゃんは抱っこしておく。
「そうだね。大商会のグランパドス商会が主催だ。ただ、ここだけの話だが、あそこはよくない噂も耳にするね。熟練の職人の中には、あえて敬遠する動きもある。とはいえ、何の実績もない職人にとっては、大きなチャンスでもある。こんな機会は滅多に無いからねえ」
うわあ。嫌な情報だなあ。私の事を有望な人間だと思って、あえて言ってくれてるんだろうとは思うのだけれど。リオンはガルちゃんをもふりながら、その件について思考を巡らせる。
「あと、後援のメルキス伯爵家だが、経済的にかなり苦しいとの噂も流れている。少し、嫌な組み合わせだね。有望な職人さんには一応注意喚起をしておくよう、ギルマスからお達しが来ている」
どんだけよ、それ……あまり入れ込むとヤバイな。様子見で、大手商会への顔繋ぎを試すくらいの気持ちで行くか。リオンはそう考えた。
今まで考えていたプランはその場で全て破棄。比較的無難な物件で勝負してみることにした。
「情報ありがとうございました、ベネットさん。火傷しないように、慎重に参加してみます。確かに私のようなものにとってはチャンスには違いないので、見のがす手は無いかとは思いますが」
「うん。そういうスタンスでいいんじゃないかな。君は賢いから、安心して見ていられるよ。それじゃ、頑張ってね。募集要項は、あそこの掲示板に張ってあるから。申込金は不要なので、企画が決まったら、ここの受付へ持っていけば受理してくれる。申し込み期限は月末だから、まだ2週間はあるので、ゆっくり考えてくれ」
どうしたもんかな、と少し難しい顔でガルちゃんをもふるリオンであった。
作者の1作目です。よろしかったら、どうぞ。
「おっさんがオートキャンプしてたら、何故か異世界でキャンプする羽目になった」
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