1-12 優しさに満ちた世界
それから、呼ばれてきたミスリル騎士団の連中が、超獣はどこだと騒ぎ始めた。
あ、めんどくさいのが来た。あいつらには孤児院時代説教されまくりだったからなあ。ここはシカト。そう嘯いて、買い物に熱中のリオン。
事情聴取したがる騎士団を尻目に、ガルムを幼態化させて鎖で繋いでおいて、買い物を続けた。そんな魔法やった事なんて無かったけど、買い物するのに必要だと思ったら出来たよ。買い物と言っても、お金払うわけじゃないんだけど。
結局、フィリップ・デザインのドレス2着、ワンピース3着、スカート3着、ブラウスとベストのセット3着、ジャケット3着をもらった。もうホクホクで目がハートになっている。今成長期なので、すぐ着れなくなる事には全く気づいていない。
なかなかに強欲だが、 セシリオは卑しくもオリハルコンの冒険者、こんなところでケチケチしたりはしない。本来なら、例え店は全て破壊しても、あれを仕留める覚悟だったのだ。
自分の店に超獣が出現、自分がその場に居合わせたのだ。ここから逃がしてしまったなんて事になったら、オリハルコンの冒険者としての自らの沽券に関わる。第一、この店だけが資産ではない。
リオンは知らないが、この男は王都の流行をその手に一手に握るプロデューサーといってもよい立場。とてつもない富を握っているのだ。
彼がリオンに声をかけたのは、彼女が着ているファッション。そう、地球産のデザインに心惹かれたからでもある。お近づきになれるなら安いものだ。
ウィンウィンの関係であろう。子犬と化して、鎖に繋がれてる1匹を除いて。とりあえず、ワンコケーキは気に入ったようで、いつの間にか平らげていた。
騎士団への説明はセシリオが全部やってくれた。あいつらがリオンの姿を確認した時の顔といったら! 苦虫を噛み潰した顔っていうのは、ああいうのを言うんだろう。
あれ、絶対シスター呼ぼうかとか思った顔。セシリオの後ろから、あっかんべーしているリオンがいた。
騎士団の連中も、ようやっとリオンが孤児院を出た事を思い出した様子だ。更に苦味成分が増したようだが。セシリオがいなかったら、ただでは済まないところだ。
まあ、やりあうっていうんなら相手になってやるけど。無限の魔女の真の意味合いを教えてあげる。そんな気概で腕組みする魔女様。
とりあえず、ガルちゃんをもふる。
(おい! どうするのだ)
(とりあえず、黙ってもふられてらっしゃい。騎士団に鎖で繋がれるのはいやでしょ。話はあいつらが帰ってからよ!)
やけになったのか、ガルちゃんは、仰向けでお腹を見せて、無害な子犬アピール。よっぽど、片付けないといけない任務が重大なんだな。まあ、可愛いからいいか。
ぶつぶつ言いながら、帰っていった騎士団の連中を尻目に、ワンコ抱えて立つ美少女。隣のロマンスグレー。
「今日はお世話様でした」
「こちらこそ、お客様にお世話おかけしてしまって。またのご来店、お待ち申し上げております」
店長はじめ、全従業員が全員並んで、お見送りだった。
リオンもにこにこして、手を振り振り帰っていった。
角を曲がったところで、ガルちゃんを下に置き、
「ところで、ポチ。あんたの用件ってのは何? いまや、あたしがあんたの飼い主なんだから。あんたがへた打つと、飼い主のあたしが騎士団につるし上げ食らうんで、その辺自覚宜しく」
思いっきり、上から目線で。実際、物理的に見下ろしてるわけだが。
やっぱ、犬の躾けはしっかりしないとね。序列とか、そういうものは早めに決着付けておかないと。
「うむ。実は、我ら超獣の王というか、女王様が大切になさっていた、ある物が無くなってしまった。そして、それが人間の手によって持ち去られたという事が判明した。強い魔力の残滓が残っているので、それを追って空間魔法であの店に現れたというわけだ」
「で、それの管理をやっていたのが、あんたで。それを無くしたのも、あんただと」
「い、いや、そういうわけでは……あるんだけれども……」
後半、とっても声が小さくなってしまった。子犬の姿で、蹲って上目遣いは反則!
しょうがないな。抱っこして。
「じゃあ、それ探しにいくわよ。今日は遅いから、明日ね。あんた、どこに寝かせようかしら。おじさん達に相談ねー」
もふりながら、家路を急いだ。
外から、そっと中を覗いて、
「リオンちゃん!」
あ、おばさん。慌てた声のマーサおばさんがドアの前にいた。
「どこ行ってたの~。心配したのよー。あなたー、あなたー。リオンちゃん帰ってきましたよー」
「おお! 無事帰ったか」
そこには、完全武装のかつて「瞬撃のロバート」と呼ばれた冒険者の姿があった。そして、何十人ものおっちゃん冒険者が「全員完全武装」で待機していた。
こ、これは、まさか~~
「おお、無事だったか、嬢ちゃん」
「おい、御嬢、無事だってよ」
「そうかー。久しぶりに腕が鳴るなと思っていたんだが・・」
えらい事になってました……どないしませう。本日3回目くらいの冷や汗が背中を伝った。
「あ、あのう。心配かけて、ごめんなさい」
右手で、くりくりとガルちゃんのお腹を搔いて、催促する。
仕方が無いなあ、という感じでガルちゃんが、
「くう~ん」
「リオンちゃん、その子は?」
「実は、この子がお腹をすかせていて・・放っておけなくて、つい・・」
「そうか、そうか」
「お嬢は優しいなあ」
「なんにせよ、無事に帰ってよかった」
冒険者のおっちゃん達は、笑いながら口々に優しさを迸らせた。
無限の魔女も、小さい頃から知っているおっちゃんたちにかかっては形無しだ。
う、うっわ~。胸が、胸が痛い~
ごめんなさい。皆さん、本当にごめんなさい~
「さあ、さあ、早く入りなさい。新しい家族を早く家に入れてあげないと」
早くも、おばさんからワンコの飼育許可が。
シスター! シスター! 世界は優しさに満ち溢れています。神様に感謝します~
もう教会とかで、いたずらは一生しませんのでー!
人々の優しさに包まれて、リオンの懺悔は延々と続くのであった。
作者の1作目です。よろしかったら、どうぞ。
「おっさんがオートキャンプしてたら、何故か異世界でキャンプする羽目になった」
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