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1-1 別れの時

 ツギクルブックス創刊記念大賞AI特別賞受賞(本選落選ともいう)を記念して、公開します。

 「禁断の女性主人公物」です。よしときゃよかった! にならなけりゃと思いつつ。


 この土日だけ3話ずつの公開になります。おっさんキャンプの時ほど、ぼこぼこにされる文章ではないと信じて!

天安門


 ここは王都の孤児院。垣根に囲まれた庭の木立の間から、はしゃぐ子供の声がする。


 小さな子供が空中遊泳している。下では楽しそうに腕を広げてそれを制御しているらしい可愛い女の子が。その周りに他の子供達が次の番を強請っている。


 やがて、中年の少し太ったシスターがどたどたとやってきて、怒声を浴びせる。


「リオーン! またあなたですか~」


 子供は下へ下ろされ、リオンと呼ばれた女の子はペロっと舌を出した。年の頃は12歳くらいか? そろそろ孤児院を出ないといけない年頃だ。どうやら魔法使いのようだ。


「全く、あなたという人は!」

 お説教は続く。


 今は3月の下旬。リオンは間もなく12歳の誕生日を迎える。即ちそれが孤児院を出なければならない時だ。


 準備は整っている。今はこうして名残を惜しむだけだ。

 こうして怒られている時間すら愛おしい。


 このシスターの笑顔が思い浮かぶ。リオンは思い出していた。熱を出して寝込んでいた時にシスターが一晩中付きっ切りで看病してくれていた時の事を。


 眩しいものを見るようにシスターを見上げる少女。美しい少女だ。それも絶世の美少女。日の光に輝く黄金の髪。透き通るような淡い緑の瞳。これ以上無いほど、整った鼻筋。柔らかそうで、見る者を惹きつけるような唇。


 リオンは思わずシスターにギュッと抱きついて、

「今度お土産持って遊びにくるから」


 少女は魔法使い。かなりの才能だ。自分の進む道を信じて疑わない。ここ数年でかなりお金も貯めた。しばらくはここを出てもやっていけるだろう。


 孤児院のお隣のジェニーに挨拶をしに行く。同じ年なので、よく遊んだものだ。

 木で出来た垣根。季節ごとの咲く花々のあるレンガの花壇。孤児院の同年代のみんなでここでよく遊んだ。


 おばさんが香ばしいクッキーを焼いてくれて。特別な草の根で炒った、お茶を飲ませてくれた。おじさんの手作りの木のテーブルは、無骨なデザインだったけれど、みんなのお気に入りだった。


 今年、孤児院を出ていくのは5人。もうリオン以外の子達はとうにいない。マークとジョニーは冒険者見習いに。ミリンダは商工ギルドでギルド職員見習い。ハミルは伝手を頼って遠くの街の工房へ。皆誕生日を迎えたら出ていくのだ。ハミルは誕生日を待たずに、去年の春に出発している。この世界では再び会う機会も無いかもしれない。


 呼び鈴を鳴らすと、ジェニーが母親と外に出てきた。


「あなたは明日だったわねえ。もう支度はできたの?」

 ジェニーの母親エミリーは尋ねた。毎年こうやって孤児達が巣立っていくのを見送ってきたが、今年は娘と同じ年の子達なので、思いはひとしおなようだ。


「はい。どうも御世話になりました」

 リオンはペコリと頭を下げた。


「いよいよ行っちゃうのねえ」

 ジェニーも感慨深く言った。


「行くのは明日だよ。朝早いし、今日のうちに挨拶しとこうかなって。この王都から出ていくわけじゃないしね。また遊びにくるよ」


「そう。元気でね。ああ、ちょっと待っててね」

 エミリーは、家の中に入ると、布に包まれた物を取って来て差し出した。


「よかったらこれを持っていって。あなたの好きなジンジャークッキーよ」


 リオンは顔を綻ばせて、

「ありがとう、おばさん。それじゃ戻ります。ジェニー、またね」


「気をつけていくのよー」

「またねー」


 親子は彼女が孤児院へ戻っていくのを見送り、溜め息をついた。

「あの子がいなくなったら、寂しくなるわね」

「うん。いつでも、どこでも騒ぎの中心だったからね。いってらっしゃい、リオン」



 翌日。孤児院前で、仕度を整えたリオンが孤児達やシスター達から見送りを受けていた。


 荷物は小さな背嚢一つ。後はアイテムボックスに放り込んである。普通はそんなものを持っている人はいない。彼女は特別なのだ。

 丈夫な帆布のような生地のズボンに革のブーツ。前ボタンの柄付きのシャツに軽めの長袖の上着。活動的な格好で、出立だ。


「じゃあ、体に気をつけるのですよ。あまり、いたずらはしないように。あと、魔法もやたらと使うんじゃありません。変な事にでも巻き込まれたりしたら・・」


 お見送りの言葉にしては長い。まだまだ続く。心配でもあるのだろうが、彼女の長年の実績に基づくものなのだろう。


 リオンもいつもなら閉口してしまうのだが、今日は特別だ。こんな風に自分を心配してくれる人はもういなくなる。少し泣きそうな表情で聞いていた。

 如何に優秀な魔法使いとはいえ、まだ12歳になったばかりの少女だ。

 自分はきっと、またここへ帰ってくる。みんなに一杯お土産を買って。リオンはそう心に決めるのであった。

 夢はきっと叶えてみせる!

 作者の1作目です。よろしかったら、どうぞ。

「おっさんがオートキャンプしてたら、何故か異世界でキャンプする羽目になった」

 http://ncode.syosetu.com/n6339do/


ダンジョンクライシス日本

http://ncode.syosetu.com/n8186eb/

こちらもよろしくお願いいたします。



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