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古城の少女の、永久の孤独  作者: せいえん&初心者P
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第2話 古城の少女

第2話にしても、早くも雰囲気が変わってしまっているかもしれません……。

せいえんにはOKをもらいましたが、違和感があったらゴメンナサイですm(__)m

「あなたは、誰?」


 そう言った少女は、一歩一歩階段を下りてくる。

 僕はそれをただ見ているだけ。何もしない。

 いや、何もできなかった。


 少女があまりにも美しく、見とれていたためだ。


「あなたは、誰」


 気が付けば、少女は僕の目の前まで来ていた。

 僕はボーっとしていたため反応が遅れた。

 目の前に来ていることにすら驚くほどだ。分かっていたはずなのに。


「ぼ、僕?」

「? ここには私と、あなたしかいないはず」


 デスヨネー。


 少女はさも当然のようにそう言った。

 まったく動かない表情筋に、起伏のないしゃべり方。

 というか、感情がないとしか思えないほど無感情な少女。


 この子、本当に人間?

 こんなところに居るなんて、普通じゃないよ。

 あ、それを言うなら僕もか……。


「あー、えっと、ぼ、僕は……ソロ。村の人たちには、そう呼ばれてる」

「呼ばれてる、とは、どういうこと?」

「え、あ、僕には名前とか、なかったから」

「そう。私はルナ」


 ルナと名乗った少女の顔は一切動かない。

 いや、この言い方だと語弊があるな。

 口しか動かない、が正しいだろう。


 瞬きなし、口の動きは最小限、何より不気味なのは視線が僕から一切動かないことだ。

 なんというか、人間と会話しているような気がしない。

 これなら、スケルトンと一緒に居た方がまた安心できるかもしれないな。

 いや、これは言い過ぎか。


「それで、ソロは何しにここに来たの?」

「……別に、何かしたいから来た訳じゃないよ。ただ、走っていたら偶然ここに着いただけさ」


 ルナの登場で忘れていた悲しみが、再び蘇ってきた。

 村を追い出され、居場所がない。

 この古城も、雨宿りするためだけに来ただけ。

 何をどうするつもりもない。


 そこでふと、ある疑問が浮かんだ。


「ルナこそ、どうしてここに? こんなところ、危ないだけで良いところなんてないでしょ」

「住んでる。これしか言いようがない」

「住んでる!?」

「住んでる」


 ルナはやはり無感情な声で話す。

 それが、どれだけ衝撃的な告白かも知らずに。


 しかし、まさか住んでいるなんてドッキリもいいところだ。

 だが、嘘をついているようには見えない。

 それどころか、この子は本当に生きているのかすら不安になる。


 だって、息遣いが聞こえてこない。

 この子、息してないの?


「ソロ」

「え、何?」

「ずっとここにいるの?」


 ずっとここにいる。そんな考え、思いつきもしなかった。

 古びた城に、壊れた街。

 こんな場所で暮らすなど、まず考えない。


 でも、この子は——ルナは住んでいる。

 住んでいられるなら、住みたい。


「いて、いいの?」

「ダメ」

「えぇ!?」


 流れ的に考えて住まわせてくれるのでは!?

 まさかここで断れとは思わなかった。

 地味にショック。


 しかしまぁ、ここまで感情なく言われると、泣くに泣けない。

 何を考えているのか分からないし……。


「私には使命がある。だから、邪魔」

「使命? それって、何?」

「……あなたには関係ない」


 それはそうだが、少しは話してくれてもいいんじゃないかな。

 だけど、確かに関係はないから、強くは言えない。


「でも、条件次第では、考えないでもない」

「? どういうこと?」

「私の使命上、ここを離れるわけにはいかなかった。元々興味はなかったが、実際に会うとそうでもない」

「?? つまり?」

「……干渉せずとも暮らせてはいた。けど、やっぱり物足りないものがある」

「ごめん、な、何言ってるかさっぱり……」


 あぁ、ルナの視線が心なしか冷たくなってる。

 けど、やっぱり表情筋は働いてないし、声に感情がこもっていない。


 ルナの伝えたいことがイマイチ分からない。

 興味はなかったけど、今は違う。

 干渉しななくても大丈夫。だったけど、今は物足りない。


 つまり、どういうことだ?


「つまり、私の知らないことを教えてほしい」

「知らないことって……」

「まだ分からない?」

「うっ、す、スミマセン……」


 しかし、本当に分からないのだからしょうがない。

 ここは直球で聞くしかないな。


「単刀直入に聞く。もっとかみ砕いて、一言で説明してくれ」

「暇」


 さいですか……。

 結構簡単な理由だった。

 使命とか言うからちょっと身構えちゃったじゃないか。


 だけど、そこまで単純な理由だったら話は早い。

 要するに、暇だから話し相手にでもなれってことだろう。


「じゃあ、その知らないことを教えり代わりに、僕をここに居させてくれるの?」

「それは、もちろん。この世は等価交換。代償を払えば、何かしらの見返りが返る」

「分かった。それでいこう」


 僕はルナと契約的なものを結んだ。

 僕がルナに知識を提供する代わりに、ルナは僕に居場所をくれる。

 お互いwin-winな関係というわけだ。

 誰も損しない、素晴らしいね。


 だが、僕は甘く見ていた。

 ルナの知的欲求を……。




 ☆☆☆☆~~~~~☆☆☆☆




「それで、その本とは一体どういうもの?」

「紙に文字で物語が書かれていたり、何かの論文が書かれていたりする物だよ」

「物語? 論文?」

「そこも分からないの?」

「分からない」

「……はぁ」


 ルナは何も知らなかった。文字通り、何も。

 文字は知っていたが、これが『文字』ということは知らなかった。

 本すら知らず、物の名前はほとんど知らない。

 知っているのは、パンやスープなどの食べ物ばかり。


 そんなので、どうやって生きて来たのだと聞いたら。


「私は基本、何も食べなくても生きていける。だから、大丈夫」


 と、ルナは相変わらず感情のない声で言う。


 何も食べなくても生きていけるなんて、それ人間じゃないじゃないですか。

 いや、まだ聞き間違いという可能性も……。


「というより、食べる必要がない。どっちかっていうと、そっちが私にとっては普通」


 聞き間違いではなかった。

 しかし、何も食べずに生きられるのか。

 それが本当ならば、確かにこんな朽ちた街でも暮らしてはいけるな。


「そ、そっか……それじゃあ、食料は?」

「一応ある」


 食料はあるのか。ちょっと安心した。

 だが、ルナの言うことはイマイチ信用できない。

 食べずに済むとか言われると、嫌な予感しかしないのだ。


「ちなみに、どこにあるの?」

「食糧庫。見に行く?」

「うん」


 不安ならば、実際に見てみればいい。

 論より証拠。

 何も分からないし、信用できない以上、言葉よりも実物を目にした方が安心できるというものだ。


 僕はルナに食料庫まで案内してもらった。

 その途中、城の内部を見たが、どれもしっかりとしていて崩れる心配はなさそうだ。

 ただ1つ言うと、古いから仕方のないことかもしれないが、草や苔が生えていてあまり衛生的には良くない。


 そんな物を見ながら食料庫に着いたのだから、不安が募るばかりである。


「ここ」

「こ、ここ……?」


 ルナが指差したのは苔むした扉。

 これは、あまり期待できそうもない。


 僕はルナが指差した扉を押し開け、中を確認する。

 中には大量の保存食があり、そのどれもが案の定食べられる状態ではなかった。

 腐っている、というよりも朽ち果てている。


 これじゃあ、食べるどころか、何の役にも立ちそうにないな。

 そんな物が山を作り、腐敗臭の極みが僕の嗅覚を破壊しようとしてくる。


 だが、僕にとってそれはそこまで苦ではなかった。

 どちらかと言えば、懐かしいと言った方が良いかも。

 不思議な感覚だ。


「これ、食べられる状態じゃないんだけど」

「ずっと放置していた。こうなっているなんて知らかった」

「そ、そっか……」


 こんな状態になるまでの放置とは、一体どれほどの間食事をしてこなかったんだ?

 それよりも、僕の食糧事情が振り出しに戻ったな。

 食料の確保、今のところこれが最優先だ。


「近くの森に食べられる動物っているの?」

「知らない。私が城から出ることは滅多にない」

「あ、そう」


 城から出なくても達成できる使命とは……。

 いや、出ては達成できないことかもしれないし、分からない。


 そんなことよりも食料だ。

 走っていた時だって無我夢中だったし、覚えていない。

 狩りの経験だってあるわけがないし、僕にどうしろと。


「はぁ、こんな時スケルトンがいてくれれば……」

「スケルトン? あなたってやっぱりネクロマンサーなの?」

「あ、いや……は?」


 やっぱり?

 それって、どういうことだ?


 僕がルナの言葉に困惑していると、朽ちた食料の山がモゾモゾと動き崩れ始めた。

 驚きのあまり僕は食料の山を凝視する。


 すると、見たことのある骨だけの手が山をかき分けて出て来た。

 その手の山を崩しながら僕達に姿を晒す。


 その姿は、立派な鎧を身に着け、兜を被っている。

 武装したスケルトンだ。

 しかも、腰に剣を下げ、背中には盾を担いでいる。

 まさに騎士——スケルトンナイトと言うべきだな。


 スケルトンナイトは例の如く、僕の前に来て膝を降り頭を下げた。


「ルナ、どうして僕のことを?」

「……言葉よりも、まずは見せてあげる」


 ルナはそう言うと、目を閉じ何かをし始めた。

 ルナの足元が怪しく光り出し、周りに輝く玉が現れ始めたのだ。


 その輝く玉はルナの周りにフワフワと浮かんで離れない。

 僕は常軌を逸したことを見せられ、固まってしまった。


「? どうしたの?」

「え、あ、いや。これ、何?」

「魂」

「たましい? ど、どういうこと?」

「私は降霊術が使える。つまり、魂を呼べる」


 降霊術。これも禁忌として知られているものの一つ。

 死霊術と似ている理由であり、死んだ者の魂を無理やり現世に呼び起すとは、僕からしても忌々しい術だとは思う。


 死霊使い――ネクロマンサーである僕が言うのも、お門違いだろうけど。


「ソロは死霊使い、私は降霊術師、似た者同士だから分かった。ただ、それだけ」

「良く分からないけど、分かった」

「それなら良い。でも、私のはちょっと特殊」

「特殊?」

「私は呼び出した霊達と会話が出来ない。コミュニケーションがとれない。だから、役に立たなかった」


 僕はルナの話を聞いて、改めて跪くスケルトンナイトを見る。

 あの時のスケルトンと言い、このスケルトンナイトと言い、僕と死霊達はある程度コミュニケーションが取れている気がする。


 そうなると、ルナは何の役にも立たない、害もないけど禁忌の術を身に着けているということになるのか。

 何というか、それは可哀想だと思う。


「……? 役に、立たなかった?」


 言い方に違和感を覚えた。

 役に立たないなら分かるが、立たなかったと過去形となると、もしかしたら今は違うのかもしれない。


「そう、立たなかった。でも、ソロが出した器があれば違う」

「僕が出した器……って、このスケルトンナイトのこと?」

「それがあれば、私の呼び出した魂は肉体を得ることができ、ソロの出した死霊は永遠に居続けられる」


 ルナがそう言った瞬間、ルナの近くに浮かんでいた魂に変化が起こった。

 その魂は他よりも一層激しく輝き、跪いているスケルトンナイトに向かって勢いよく入り込んでいったのだ。


 するとスケルトンナイトにも変化が現れた。

 魂が入った直後、スケルトンナイトの体が光り出し……。


「……ハッ! わ、私は一体」

「え、えぇ?」

「あ、貴方は!」

「ぼ、僕? それとも、ルナ? っていうか、誰?」


 さっきまで一切しゃべらなかった、というかしゃべれるはずのないスケルトンがしゃべり出した。


 スケルトンナイトは立ち上がり僕の手を握りしめた。

 骨だけの手で握られると正直痛い。

 そして次にルナの手を握り、お礼を言ってきた。


「ありがとうございます。私をあそこからお救いくださって、本当にありがとうございます」


 な、なんのことだろうか。まったく覚えがないな。

 けど、声からして男だろうけど、男は本当に感謝をしていると分かる。

 そのくらい、涙声だったのだ。


「ソロ、もう十分見たでしょ。もっと話を聞かせてほしい」

「ソロ殿か。私を救ってくださり、ありがとうございます」

「ソロ」

「ソロ殿!」


 左からルナが無感情に、右からスケルトンナイト(男)が熱く話しかけてくる。


 ルナの魂と僕の死霊が合体することは衝撃的だったが、左右からくる声ですべてが洗い流されていく気がする。


 頭がボーっとして……これからルナにまた1から色々と教えると思うと、頭が痛く……。

 ん? 1から教えるか……。


「そうだ! 分からないなら、見せればいい!」

「ソロ?」


 そうだ、そうだよ。

 僕自身がそうだったじゃないか。


 論より証拠だって、分からないなら見ればいいって。


 本を知らない、何も知らないルナだけど、実際に見てみたり体験してみたりすればきっとすぐに理解してくれるはず。


 ルナは世界のことを知りたがっていた。

 だったら、作ってしまおう。


「ルナ、世界のこともっと知りたい?」

「知りたい」

「だったら、一緒に作ろうよ!」

「?」


 これが世界に名を轟かせ、恐れられた死霊都市の始まりだ。

 僕が発案し、ルナの手助けを受け作り上げた都市。


 でも、僕は別にルナのために作ろうと思ったわけじゃなかった。

 この時の僕は、居場所がほしかったのだ。

 居場所を、守ることに一生懸命だった……。


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