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新たな旅立ち
生き物の気配が全くなくなった王都を歩みながら、イルは空に浮かぶ月を見上げた。
その表情は、実に晴れやかだ。
これから故郷に帰り、自分が故郷の皆を引っ張っていくのだと考えると、何故だか無性にやる気が沸いてくる。
ラルヴァンダードたちの後押しがあることを、感じているせいなのだろうか?
地を踏み締める足に、力が入る。
そういえば、と思い出したようにイルは自らの足に念を込める。
足の裏が地から離れて浮かび上がったことに思わず笑みを零しながら、彼は故郷がある方の空を見据えた。
空飛んで帰ったら、皆に神の眷属扱いされたりしてな。
その時はその時だ、と自分に言い聞かせ、彼は宙高く舞い上がる。
これから人間とそうでないものの共存を説いていかなければならないのだから。その自分が手本にならないでどうするのだろう。
良い見本だよな、と頷いて、彼は故郷を目指して飛んでいった。
彼が去った後の王都を、穏やかな夜の風が吹き抜けていく。
何者かの笑い声のように──音を響かせながら、月を目指して空高く翔けていった。




