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ヴェゼヴィーユの決断

「ラルヴァンダード……生きていたとはな」

 ヴェゼヴィーユは気難しげに眉間に皺を寄せ、呟いた。

 傍らに佇んでいたクラウディアが、そんな彼に嘲笑を送る。

「まるで死んでいた方が都合が良かった、とでも言いたげですわね」

「あれは異端児だ。いくら都合の良い言葉を並べたところで、信用できるわけがない」

 ふ、と短い溜め息をつき、ヴェゼヴィーユは歩き出す。

 行く先にあるのは、下層へと続く階段へと繋がる道。

「父上に仇なす存在は、疑わしきでも処罰を。手遅れになってからでは遅いからな」

「貴方のように?」

「……私はエルシャダイの使徒だ」

 ふん、と鼻を鳴らしてヴェゼヴィーユはクラウディアの一言を一喝する。

「我が身の全ては、父上とこの国のために。1度誓いを立てたその言葉を、撤回する気など毛頭ない」

「逝く時は、せいぜい父上の息子らしく振る舞いなさいませ」

 クラウディアの言葉は何処までも冷徹だ。

 彼女にとって、信用がないのはこの男も同じ。ただ僅かに信用できるか否かの差、それだけでしかないのだ。

「看取るくらいのことは、して差し上げても宜しくてよ」

「……言っていろ」

 これ以上の問答は無用、と言わんばかりに、彼は歩調を速めて王の間から出ていった。

 健気にその後をついていくアイリスの後ろ姿が視界内から消えてから、1人クラウディアは笑う。

「もはや使徒としての力もない男……実に愚かしいこと。矜持だけで何処まで働けるか、見物ですわね」


「ヴェゼヴィーユ様……」

 よろけて壁に手を付ける彼の背中を心配そうに見守りながら、アイリスは彼の名を呼ぶ。

 はぁ、と深く息を吐いて背筋を伸ばし、ヴェゼヴィーユは小さくかぶりを振った。

「……この程度、問題はない」

「ですが」

「私は何としても、裏切り者を断罪せねばならん。そのためには、どんな手を使ってでも、倒れているわけにはいかんのだ」

 ヴェゼヴィーユは、ゆっくりと振り返った。

 若干陰を宿した真紅の双眸が、アイリスの姿を捉える。

「アイリス……協力してくれるか。私に」

 その真摯な眼差しに、アイリスは何の躊躇いも見せることなく頷いた。

 ヴェゼヴィーユの傍に寄り、片手を取る。

「私は、ヴェゼヴィーユ様にお仕えするように仰せつかっております。どのような御命令でも、お申し付け下さい」

「……恩に着る」

 ヴェゼヴィーユはアイリスの肩に手を取り、彼女をそっと抱き寄せた。

「私には……力が要る。今以上の力が、欲しい。お前はそのための力となれ」

 耳元に唇を寄せ、縋るように彼女を抱き締めて。

 静かに、言った。

「私に──血を、捧げるんだ」

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